地獄の試練の始まり
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私の意識が再び浮上した時、私には実体がなかった。
だけど夢にしてはやけにリアルにはっきりとした感覚がある。
そしてすぐに直前の私の行動が思い出せないことに気づいた。どこで、何をしていたのか、今、何日の何時なのか、現実のことを思い出そうとしても、まるでフィルターがかかっているかのように、、漠然とした記憶しか思い出せない。
現実を思い出そうとするのを辞め、私は目の前に広がる景色をゆっくりと見渡した。
古びた廃工場の入口で、複数のエクソシストと魔人と思われる誰かと、悪魔が戦っている。
全身黒無双で覆われた死神のように大きな鎌を持った悪魔は凄まじい瘴気を放ちながら佇まいだけで圧倒的な存在感を醸し出し、周囲は異様な空気に包まれている。文献ですら見たこともない、名前も能力も何も分からない。
この悪魔と、複数のエクソシストが激しい攻防戦を繰り広げている。
魔人の方の、銀髪に長い髪を下ろし、眼帯をつけた貴族のようなどこか紳士的な雰囲気のある男は、見覚えのあるエクソシストと、一対1で交戦している。だけど、確実にエクソシストが押されているのが見て分かる。
これだけで、これが、いつ、何の事件なのかが、分かってしまった。
どうして人は嫌な記憶に限って鮮明に覚えているのだろう。どうして忘れてしまうことが出来ないのだろう。
今すぐにでも、こんな記憶、頭の中から抹消してしまいたい。
全て消し去って、二度と、何も、思い出したくないのに…
これは…5年前の、北九州メデューサ誘拐事件、そのうちの一人、魔人と交戦している方は 見覚えがある。少し若い葛城神父だ。
『こいつは俺らが引き受ける、斗真は中へ!』
『はい!必ず、子供達を、助けます!』
悪魔と戦っていた1人のエクソシストが、そう叫ぶと、魔人の攻撃の合間を抜い非常階段を駆け上がって行く。
それは、紛れもない、過去の「私」自身。
私がまだ、天慶を受けていた頃、私はアトランティス協会から、この、史上最大で最悪の魔人とエクソシストとの戦いに、参加した。このことを知っているのは、アトランティス教会の中でも、当時からの古いメンバーのシスター数人と、葛城神父、そして瀬野だけだ。柚にも、結衣にも話していない。
夢ならば1秒でも早く覚めて欲しかった。
そして、何一つ思い出したくはない。
なのに…夢と決めつけるには異常な程リアルに頭ははっきりしていて、景色も鮮明に見えることに、焦りと不安だけが増していく。
「私」が非常扉を開いた瞬間、目の前は地獄のようなおぞましい景色が広がっていた。
今まで、ずっと考えないようにしていた。記憶の奥底に封じて、表には出さないように、ずっと。でも、
また、、これを見なければいけないのか…
忘れられるわけもない、あの、地獄の光景を…
アトランティス協会の孤児院の子供たちが 禍々しい召喚陣の前に 張り付けられるように 拘束されている。
その真ん中には 鎖で繋がれ拘束された状態で召喚されたおぞましい悪魔がうめき声をあげて、今にも襲いかかろうとしていた。
悪魔の横には強力な瘴気を放って佇む赤い瞳の、まるで吸血鬼のような魔人がいる。
そいつはハルフィアの実質リーダーであるクラウス、子供たちのすぐ後ろ、召喚陣の中心に、拘束されている悪魔がいる。悪魔ダンタリオンだ。
恐ろしくリアルで、頭に焼き付いたように離れてくれない。
とてつもなく嫌な予感が頭から離れない。
『待っていて下さい、今から助けます! 』
過去の「私」は祈りを捧げる姿勢になり、銀のロザリオに口付け、召喚呪文を唱える、彼の体に光が纏い、神々しく輝き始める。
ここからだった。私の記憶がないのは。
この事件の私の記憶は酷く曖昧だった。
私は、他のエクソシストたちが切り開いた道を通り、子供たちを救出する任務を追っていた。そこで、クラウスと、悪魔と、囚われたままのまだ息のある子供たちを確認した。
だけど、そこから私の記憶は、ぷっつりと途切れている。
階下で戦っていた2人がたどり着いた頃、気を失って倒れている私と、変わり果てた子供たちを見つけたという。
そのまま丸1日私は眠り続けていたらしい。目覚めてから、私は自分の天使から強い警告を受けた。そして、ルーエン神父が結社側へと寝返ってしまったと、聞いた。それから私はしばらく、自分のおかした罪の重さと、ショックで教会を離れ、数週間入院していた。エクソシストも、やめようと本気で考えていた。あのとき立ち直れたのは、ルーエン神父や、葛城神父が毎日のようにお見舞いに来て、私を説得してくれたから。彼らがいなかったら今の私はいない。
向き合わなければいけないというのか、神は、私に、ずっと逃げ続けてきたあの日の真実からー、
心構えも何も出来ていなかった。だって私には、この先の真実が何であろうと受け入れられる気がしなかったから。
全身がそれを訴えているのに、実体のない自分の目は閉じることを許さず容赦なく時間は進んでいく。
…カランという小さな音がした。
それが、「私」が祈りを捧げていたロザリオが地面に落ちたのだと気づいた頃には、
「私」は既に祈りを捧げるのを辞め、立ち上がり、フラフラと虚ろな瞳で歩き出していた。
『…つき、』
それは、最初本当にか細い声だった。耳を済まさなければ聞き取れないくらいの、小さな声。
子供たちと悪魔に引き付けられて見えていなかった、もう1人、奥に誰かが座り込んでいる。
どこか見覚えのある制服を着た、中学生くらいの女生徒ー、後ろを向いていて、表情は分からない。
そして、その少女のすぐ目の前に、誰かが倒れている。遠目からでも分かる程の血が流れ出し、当たりを真っ赤に染め、既に事切れているだろうことが目に取れた。
男の人のようだ、視点だけの自分にはこれ以上近づくことが出来ない、でも、どこかで、見覚えがある。
これ以上見てはいけない、そう本能が全身に警鐘を鳴らし、動機が高鳴り、耳鳴りが五月蝿いほど反響している。
だけど今の私には、どうしようも、ない。
『嘘つき…嘘つき!嘘つきー!……守るって、言ったじゃない…!』
突如立ち上がり長い髪を振りながら金切り声を上げて
泣き叫んでいる少女がいる。
その少女が振り向いた瞬間、私は時が停滞したかのような錯覚を覚え、思考が停止した。
その少女は、紛れもない、間違えるはずもない、結衣だった。
そして遅れてやってくる、走馬灯のように、あの日の忘れていた悪夢の続きをー。
私は思い出した。あの日の全てを。
結衣にはお兄さんがいたこと。2人はクリスチャンになりアトランティス協会によく礼拝に来ていたこと。
ことある事に結衣から遠ざけようとする兄さんが私は苦手だったこと
ある時から悪魔結社に狙われていると言われたこと
結衣を守ってほしいと言われたこと
私は2人を守ると約束したこと
そしてあの日の3日前、兄さんから助けを求めるメッセージが届いたこと、だけど私はそれを信じず、見捨ててしまったこと。
ああ、そうだった…
私は、あのときの約束を、守れなかった。
結衣を守ると誓ったのに、、、。
景色が突然、暗転し、真っ暗な闇だけが広がっている
『斗真お兄ちゃん』
『お兄ちゃん、遊ぼう』
無限にも思える空間の中で、声、子供たちの声が聞こえる。孤児院で暮らしていたメデューサの子供たちの、
いつも笑顔で私に駆け寄ってきていた、あの子たちの、、
『どうして、見捨てたの?』
その姿が、だんだん歪な形に変形し、ドロドロと溶けていく。
『どうして、助けてくれなかったの?』
融けた液体は赤黒く血溜まりのように足元をどんどん覆い尽くしていく
『人殺し、』
やめろ…
『あなたは負けたんじゃない、闘うことすらしなかった。』
聞いたことのある誰かの、声がする。氷のように冷たい失望、呆れ、軽蔑の混ざった声で私を責める。
ー違う、、私は戦ったー
『あなたは何もしなかった。見殺しにしたのよ、子供たちを、そして、私も、』
ー違う、ー
『…楽しかった?…私たちを操るのは」
……………………………………………………………
「う、うわあああああ!!!」
「!」
「…はぁっ……はぁっ…」
激しい息切れと目眩に、視界はぐるぐると回り、
自分が何者なのか、今、座っているのかたっているのかすら分からなくなる。
「…さん、…斗真さん…っ」
「違う…私のせいじゃ…違う、違う違う違う」
「しっかりして下さい!斗真さん!」
頬に鈍い痛みが走り、耳元で知らない誰かの怒声が聞こえた、
「……う…」
まだ酷い頭痛と動機は消えない。だけど、目眩は収まりほんの少しだけ冷静になれた私は頭を抑えながらゆっくりと当たりを見渡した。
そしてすぐに、自分が見知らぬ部屋のベッドに座ったままであることに気付いた。
だけど考えるのは先程のおぞましい夢、いや、夢じゃない。あれは現実だった。
結衣……あなたが闇に堕ちたのは、結局、全ての原因を作ったのは…
私は、もう、あなたに…
「斗真さん」
見知らぬ人の声が間近から聞こえ振り向いた。
隣に、腰まである長い黒髪を緩く束ね、浅葱色の和風な着物のような服装をした、女性のように整った顔立ちをした、若い青年が座って、パソコンを弄っていた。
声を聞かなければ確実に女性だと思い込んでいただろう。その容姿も服装も、まるでよく伝記に出てくる平安時代の貴族のような美しさで、一瞬時が止まったかのように目を奪われていた。
私が突然起き上がったのに驚いたのか、彼は心配そうに見下ろしている。頬がまだヒリヒリする…私はこいつに殴られたのか?
「大丈夫ですか?」
よく見たら腰に刀を2本指していることに気づいた。この時代に、、刀…?
そうだ…私は、突然遅ってきたエクソシスト協会の奴らから結衣を守ろうとして、、
その後の記憶がない。あれから、私は、、結局囚われたのか?
この状況で、大丈夫なわけがあるだろうか、何なんだこの得体の知れない男は。
そして自分は頭に違和感を感じた。何か帽子のようなものを被っている。固く、いくつものコードが繋がれて…これは、、機械??
私は恐ろしくなりそれを無理やり脱ぎ捨て床に捨てた。それはやはり見たことも無いような何かの機械、、パソコンとコードが繋がれていたようで、赤いランプが不気味に点灯している。
そして直前まで見ていた恐ろしい情景が今でも鮮明に蘇ってきた。
「これは何なのですか?恐ろしい夢を見ました、あれは何だ?この不気味な機械と関係しているんですよね?私に一体、何を見せたのですか!?」
「…これはテストです。この装置は、人の脳、記憶を司る海馬に影響を与えることができるのです。
だから、あなたが封じた記憶も、呼び覚ますことができます。」
「封じた…記憶?」
「あなたは忘れているのではない、自ら封印したのです。それを全て思い出してもらうことが、あなたの試練」
「何を訳の分からないことを…一体あなたは誰なんですか?」
「私は、エクソシスト協会のイデアの使徒と呼ばれるチームの一人、九上院朔夜です」
「…イデアの、何ですって?」
「その説明は私の方からは何も申し上げられません。もう何時間帯かして、皆さんの最初の試練が無事終わりましたら、ドルジ神父の方から皆さんに詳しい説明が行われます。私たちの計画や、あなたの役割や、そのための準備を」
「皆さん…って」
「ああ、天啓を受けているエクソシストの中で特に力のある現役エクソシストを全国から募ったんです。まあ、10名程ですが。」
「募っただと…あれが?脅迫だったじゃないですか!
」
「…エクソシスト協会の、一員となれると話したら、他の方々は快く受け入れてくれましたよ?」
「…瀬野や、柚も捉えたのですか?」
「……あなたは天使の能力を悪用して自分に都合の悪い現実を無理やり書き換えた。何度も、周りの人間の思考を操り、そして、自らも記憶を改ざんし、真実を封印してしまった。だからあなたの天慶は切れたのです。」
「……」
「あなたの記憶にはいくつか、自分に都合のいいように改竄された記憶が混ざっています。一般人は騙せても、エクソシストは騙せませんよ。円城寺さん、」
「!」
「。私たちはずっと黙認してきた。あなたが天慶を悪用して、記憶を書き換えた後も、イデアの記憶を消し、契約を強制的に解除させることで、君をエクソシストから離れさせようとした。だけど、よほど願いが強かったのか、中途半端な形で君はエクソシストの記憶を保持していた。葛城神父の意向で、我々に害がないなら、あのままアトランティス協会のエクソシストにさせても良かった。だけど、とある一人の少女のおかげであなたの天慶が再び戻るかもしれない目処が着きました。だから、我々に協力してもらいます。はるフィアを、滅亡させる、エクソシストの未来存続のための戦いにー。」
「…ハッ、ハハハ…はるフィアの滅亡?エクソシストの未来存続?…笑わせてくれますね。私に、そんな力があるとでも?」
だって私は、天啓すら失ったただのエクソシストだ。、未成年だから、正式なエクソシストの称号はあのとき剥奪され、エクソシスト予備生だ。そんな私に、一体何を期待していて、私を…
今になって突然干渉してきた意味が分からない。
「あなたの天慶であったアスタロトは、前回の天界裁判で、、堕天しました。」
「……何ですって!?」
「彼は斗真さん、あなただけでなく多くのかつての契約者を欺き、その能力を悪用し続けた、あなたのせいじゃない。今は地獄の第2層にいます」
「…それで、そういう、ことですか、私の祈りが届かなくて当然です。気配も感じなくなって、精神に語りかけてくることも、、、。私は、一体何のために…」
「君には3つの罪がある、その罪を全て認めて、もう一度、君の天使に会うのです。地獄で。そして、呼び戻すのです。」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。否、言葉の意味は分かる。だけど、
「私に…悪魔と契約しろというのですか!?悪魔祓いを生業としているエクソシストの私に!」
私が特に、悪魔に強い恨みを持ち、心から嫌悪していると知っていながら、
どうしてそんな残酷なことが言えるのか、
、憤りを通り越して、そのエクソシスト教会の無慈悲さに、しばらく呆気にとられた。
「私がどれだけ悪魔を嫌悪し、排斥しようとしているかは、1番わかっているはずですよね?
そもそも、任務の内容も詳しく知らされないまま、突然エクソシスト教会に連れてくるなんて、、、
あなたたちはいつもそうだ。自分たちは悪魔の少ない田舎に本部を構えて、実践からは遠ざかって、
都心や郊外の危険な地にエクソシスト予備生と言われる研修生ばかりを寄せ集め、本部の人間はほとんどが安全な地方に逃げた!
それで、自分たちに身の危険が降りかかりそうになったら、問答無用でエクソシストを呼び寄せ闘わせて!
自分勝手すぎる、、」
「あなたの意志を無視して連れてきたことは謝罪します。ですが、とにかく時間がないのです。」
「…」
「君が善行を積めば、次の天界裁判で戻れるかもしれません。悪魔も、元々は天使です。救いの価値は十分にあります。」
「そんな悪魔に身を売るくらいなら、私は一生かかってでも他の天使の天慶を待ちます」
「斗真さん…アスタロトはかつて熾天使階級だった最強クラスの天使です。同じ階級の悪魔を従えているクラウスを倒せるのは、あなたしかいない」
「…仮に、契約が成立したとしても、私に、それが制御できるとは思えない。」
「だから、あなたに試練を受けてもらうんです。悪魔はありとあらゆる方法であなたを誘惑し、乗っ取ろうとするでしょう。だから、あなたは過去から逃げていてはいけない。克服するのです。」
「行ける、わけがない。そんなところに、
悪魔が人間と協力して共存することなど有り得ない。一時の地位や名誉、欲望を叶える代わりに人間を欺き貶め、悪行に走らせ、最後に待っているのは地獄のような不幸か、死だけです。私はその悲しい連鎖を見てきた。誰一人救われなどしなかった!」
「…既に居場所はこちらで突き止めてあります。幸い、地上に近い層に堕ちたため、悪魔も小物がほとんどです。それに、1人では行かせませんから。」
「私は、地獄に行くつもりも、試練とやらを受けるつもりも毛頭ありません。」
「!何処へいくのですか?」
「当たり前でしょう、結衣を探すのです。」
「……駄目です、ここに彼女はいません。それに、まだ見てもらわなければいけない記憶があります、それにこの部屋から出ないようにと協会長にー」
「五月蝿い!」
私はあらん限りの力でその青年の肩を突き飛ばすと部屋を飛び出し走った。
あっさりと振り切れたことに一瞬自分でも呆気にとられた。
エクソシスト協会といえばあの手も足も出なかったローブの女を思い出す。もっと手強いと思っていたから、だけど油断は禁物だ。まだこの地獄から逃れられたわけではない。
……背後から追ってくる気配は…ない。
あの場で私たちが無事に逃げきれたとは到底考えられない。だけど、それならば結衣は…
「いや、生きてるはずだ、」
走って、走って、何度転んでも立ち上がり、走り続ける。
だけど、先程から景色は変わらず、先が見えないほど長い廊下が続いているだけだ。
せめて1階に降りられれば…そう思うがエレベーターどころか階段も見当たらない。
ふと小さな窓に近づくと、窓の外は既に明るくなり、地上では通勤通学ラッシュなのだろう、多くの歩行者に車が行き交っているのが小さく見える。
あれから何時間たったんだ?
…一刻も早く結衣を探し出さなければ…
そして2人でこんなところ出て行ってやる、誰がエクソシスト協会なんかの思い通りになるものか
そして、ようやく廊下の終わりが見えた。曲がった先、自分の覚悟がいかにこの地獄の中でちっぽけだったかを思い知った。
全身 銀の甲冑に身を包み、手には等身大以上もある鋭い槍のようなものを持った兵士のような屈強な人達が整列するようにズラっと並んで控えていた
「何なんだ、この軍隊は…」
ざっと数十人はいるだろう、
この頑丈そうな装備、どう考えても対悪魔って感じの装備ではない。エクソシスト協会がこんな人達を集めて何をしようとしているんだ?
! いつの間にか私の周りを囲むようにその怪しい兵士らが佇んでいた。
いつの間に背後に…
まずい…、そう覚悟しきつく目を瞑る。
しかし、いつまでたっても私を取り押さえる気配はない、
会話もなく、ただ先程の位置に整列し治していただけだった。
……?
「やぁ、そろそろ起きる頃だと思っていたよ」
兵士の間を優雅に歩いてくる人影がいる、その影が鮮明になっていくにつれてみるみる青ざめていくのを感じた。
まさか…
「あんな無茶しちゃ駄目だろう?久々に肝を冷やされたよ あはは」
そんな、馬鹿なー
「気分はどうかな?斗真」
「どうしてー、どうしてですか!葛城先生!!」
真っ白な祭服を着て笑顔を浮かべながらまるで日常会話のように彼は軽い調子で話しかける。
この場所でなければ私は彼を1番の味方だと信じてやまなかっただろう。この場所でなければー。
「一味だったんですか、あなたも、エクソシスト協会の!」
切迫した雰囲気で距離を詰めようとしたが瞬く間に甲冑の兵士たちが葛城先生の前に立ちはだかる。
それだけで彼の位が少なくとも私よりは上であることを示していた。
そして私は意識を失う直前の、忘れていた記憶を思い出した。
本気で私は死ぬつもりだった。あの時、階下から私のよく知る人物の声が聞こえたことに。
「斗真、」
「葛城先生!た、助けて下さい!エクソシスト協会の奴らが、結衣を殺そうとしてー、私も、連行するって、、意味のわからないことをー」
…そうだった。あの場で、私は、葛城先生に、スタンガンのようなもので、、
助けてくれると信じていたのに、
私は目の前の薄ら笑いを浮かべているあの男を睨みつけ吐き捨てる。
「騙していたんですね、この裏切りもの!」
「騙したとは心外だな、君のことを17年間、親代わりとして守ってきてやったというのに」
「誰がお前なんか…!」
利用するだけだった。私の力にしか興味がなかった。
彼がエクソシスト協会の駒で、私がエクソシストからはなれないようにつなぎ止め、天慶を戻すことが任務だったのだとしたら、全ての辻褄があう。
私が力を失って、自暴自棄になっていたあの時も、結衣をここで匿うことに賛成してくれたあの時も、全て、肩書き通りだったのか…?
「…あなたが味方かどうかなど今はどうでもいい、私は一刻も早く結衣を探しに行かないと」
「!………君は結衣を覚えているのか?」
「はぁ?何を言ってるのですか?意味が分からないー、」
「結衣をどうしたんですか!?どこにいるんですか!」
「やれやれ、やはり彼には効かない…か、」
突然知らない人物の声が響いた。
金髪のくせ毛がかった巻き髪に、赤い瞳の少年、だけどこの幼い風貌に騙されてはいけない。
忘れるわけもない、私たちをこんな目に合わせた、張本人であり、エクソシスト協会の最高責任者だ。
「あなたは…私たちを返して下さい!!さもないと、、」
「あまり抵抗しない方が身のためだよ。ここでは君は、ただの無力な人間なのだから。」
身体が…動かない…!
まるで思考を操られているかのように、
耐え難い頭痛と甲高いノイズが脳内に広がっていく。
何だ…これは…!
そこで、私は一瞬意識を手放した。
突然ビデオテープを電源から落とされたかのように突然辺りが真っ暗になる。 自分以外に、誰一人いない。
そして、だんだんと音が聞こえてくる。
これは… 踏切の音、そして、電車が行き交う音…そして、場面が突如光が弾けたかのように真っ白になり、次の瞬間、駅のホームに様変わりしていた。
見覚えのある駅、看板を見ると、やはり八王子駅だ。それは私が住む白百合寮がある、アトランティス協会の最寄り駅で、よく利用していた駅。
これ、は…?
自分という視点はあるのに、身体が存在しない、先程の妙な現象と似ている。これは…幻覚か?夢か?九条院というやつが試練がどうとか言っていた。まさか、これも…私の封じた記憶の、、?
少なくとも現実ではないことは確かだった。
いつも閑散としているホームが、緊急事態でも起きたのか、警察に消防隊、が忙しなく走り回っている、そして、ホームに倒れ込み意味のわからない言動を繰り返し暴れる、明らかに異質な行動をとっている乗客が数人いる、それを取り押さえ聖水と聖書を片手に祈りを捧げている人達がいる。
見ただけですぐにわかった。数えきれないくらい私も参加したことがある、悪魔祓いだ。
だけど、私はこの光景をよく知っている。人を、景色を、私は見覚えがある。
電車の轟く音が鼓膜に反響してくる。
フラフラと虚ろな瞳で歩く一人の青年がいる。
あれは……私??
目の前の私は、なにかに取り憑かれたかのように、覚束無い足取りでゆっくりと歩いて行く。
線路上の1点を見つめながらー。
まさか…
そう嫌な予感が頭の中に芽生えた刹那、ホームから消え、横から電車が凄まじい勢いで通過していった。
そこで場面は突然強制的に切り替わり、再び真っ暗になる。
何だ、何なんだ、この光景は。私を追い詰めるためのただの幻覚か?それとも私が封じた過去の1部か?それとも…
どうしてだろう…何故こんなにも、胸が痛いのだろう。
まるでこことは違う世界のもう1人の私を見ているかのようだ。
まさか……私の…未来?
刹那、歪な形をした影が生まれる、そしてその影はだんだん人型になってゆき、私のよく知るあの子が、あの日のままの姿で微笑むのを見た。
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