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それは突然やってきた

…………………………………………………………………………





………………………………………………………………………





目を覚ますと、そこは私の身を置いているホテルのベッドの上だった。


………夢を、見た。誰かの、思念が私の頭の中に直接流れ込んでくるような感覚だった。


怖くて、寒くて、助けてと叫びたくても声も出なくて、そして骸ばかりが広がる地獄のような惨状に佇んでいる一人の女生徒、

とても私によく似ていた 違ったのは、そんな地獄の中で、狂気的な瞳と、笑みを浮かべていたから


あの恐ろしい夢は、何だったのだろう。最近、よく夢を見る。

いつもは目覚めた時にはほとんど忘れていたけれど、今回の夢は本当にリアルに覚えていた。


私の未だ失われている記憶と何か関係があるのだろうか。でも、もうどうでも良かった。今更記憶が戻ったところで、希望など一体どこにあるというのだろう。


あれ、、鍵が、空いている?


閉めて眠ったはずなのに、扉のロックが開け放たれた状態で少し驚く。部屋には大量の睡眠薬と鎮痛剤が散らばっている。


「また……なかった」


あのときも、あのときも、私は自由になることすら許されていないかのように、運命は残酷に降りかかる


まだ頭がぼーっとする中で、…私は部屋から出た。

重い腰を上げ、フラフラと歩き出した。


しかしエレベーターがいつまでたっても反応しない。電源が落ちているようだ。


日は登り、駅前のビジネスホテルだからスタッフとすれ違ってもおかしくないはずなのに、誰もいないどころかどの階の廊下も人の気配は感じられず、不気味な静けさだけが漂っている。

ロビーに降りた瞬間目の前の景色に絶句した。


「これは…」


空き巣か何かが物色したあとのように、ロビーは酷い有様だった。宿泊客のものと思われるキャリーケースが転がり中の衣服が散乱している、現金を盗み出したのか、レジスターは開かれ硬貨が大量に床下に散らばり、無残な状態になっている。

一体、何があったのだ、最初、強盗事件か何かだと思った。


でも、自動扉の先に移る外の景色を見てその推察は簡単に砕かれた。



扉を開けたら、街が破壊されていた。


そう、言葉どおり壊滅していた。


外に出てしばらくのあいだ何が起きたのか分からず放心するくらいに。


呆気にとられ言葉を失っていたが頭が働きこの異常な状況を分析している自分がいる。


それは、最初、大地震か何かでも起きたのかと思った。

建物は見るも無残に倒壊し、駅前のいくつかの構想ビルは倒壊を免れていたが、ほぼ全ての建物が形を留めていなかったから。

それほど新しくもないこのホテルが、ほぼ無傷で立っているが、酷く奇妙に見えた


足元には高層ビルから砕け散ったのであろうガラスが散乱している。

地面は地盤沈下し所々抉れて大きな底なしの穴があいていて、落ちたら一溜りもないだろう。


そして、あたり一体、泥水が足元辺りまで溜まっていて、地盤沈下の影響が至る所に身られる


火災のあともみられ、所々建物が燃え尽き焦げた匂いも充満している。


まさに、災害か何かが起きた後としか思えなかった。

それも、私の知る歴史史上未曾有の大災害。


地震、だろうか、でも、それにしては不自然だ。こんな大きな災害があったというのに、私は何も気づかずに眠っていた。それに、、

人が、誰1人いないのだ。逃げ遅れたにしても、避難場所には人がいるはず、それに救助の自衛隊員やパトカーくらいいるはずなのに、、車1つ走っていない、電波もない。


まるで、この街から人が忽然と消え去ったように…。


すぐにその理由を知ることになる、

少し高台に歩き街を見渡した瞬間、街をぐるりと囲むように巨大なコンクリートの壁のような隔壁が四方に取り囲まれていて、

まさに隔離されていた

こんな隔壁、1日や数日じゃ不可能だ、予め、地下に作られていたとしか思えない、


一体これは、何なんだ

予測された、災害……?




うっ

学園の近くに来た辺りで、とてつもなく大きな瘴気を感じた。

今まで、感じたことのない、禍々しい気配。強力な、悪魔の気配だ。それも、一体や2体じゃない、そこらじゅうから、


こんな都市部に、しかも昼間に、これほどまでに集まることなどありえない。


目をこらすと、


ガサッ


近くの茂みが動いた気がした。

もしかして、、人かもしれない!


茂みを掻き分け開けた所に出た瞬間、硬直して動けなくなった。


人の背丈ほどはある真っ黒な影で覆われたモヤモヤした霧のような化け物が何体も徘徊していた。


私はその正体をよく知っていた。


どうして…!どうして…!悪魔が……昼間からいるの!?



エクソシスト隊に参加していたときは、悪魔は黄昏時の夕暮れから夜しか出現しなかったし、そう聞いていた。


茂みを無我夢中で走り続け、なんとか八王子の住宅地に抜けた。

しかし、倒壊した住宅地に人の気配は全くなく、あるのはとてつもなく嫌な瘴気と、悪魔の大群だ。


おぞましい悪魔ばかりが徘徊する街にはうっそうとした静寂が横たわっており、意思のある人間は早々に避難したか、

全ては私が到着するよりずっと前に終わってしまっていた。

 


彼の……葬儀に、途中まで出たことは覚えている。でも、その後私は、



 なにが、あったというのか。

 なにかが、あったのだ。なにか、とてつもないことが起きたのだ。


少なくとも分かるのは人災だということ、隔壁が降りて八王子の街がまるごと閉ざされてしまっていること

夥しい数の強力な悪魔が街に溢れかえっていること、

悪魔結社が何らかの目的で悪魔を街に解き放ったのか、結社の魔人たちが故意にここまでの暴虐を行ったのか、それとも内部分裂か、偶然の事故か、何かの実験に失敗し た結果なのかは分からない。


だけど、これは現実で、何かとてつもない大災害に見舞われている。



誰かー、誰かー


私は錯乱したように呟き、駅前を通り越し、学園を横切り、住宅地をぬい、森の中を歩きそうして自分がたどりついた場所は、短いながらも私が身を置いていた場所、アトランティス教会だった。


その門を越えたすぐ先はもう、一度も見たことのない地獄へ様変わりしていた。


真っ先に目に映ったのは、無惨に喰い殺されたシスターたちの体だ。

4人の、まだ協会に残っていたシスター全員が折り重なるように倒れていた。辺り一体は真っ赤な血溜まりで地面を覆い尽くしていた。血は既に乾いていて、この惨劇から少なくとも数時間は経過していると思われた。

貪られた身体は強烈な異臭を放ち、遺体にはカラスが数匹群がって来ていた。

そこには、マザーの姿もあった。


「ひっ…!…」


シスターの一人の、もう何も映すことのない空洞のような瞳を見てしまった。

その場から目を背け、逃げるように立ち去った。






そして私は狂ったように生存者を探しに修道院に入った。階段をかけ巡り、全ての扉を開いていく。


しかし、元々閉鎖間際で数の減っていたここに、先程のシスター以外には誰もみつからなかった。

最後の扉を開け、私は行き詰まってしまった。



なすすべもなく途方に暮れていると、

ふ、と風が頬を撫でる感触が私の真横でした。風などどこからーと疑問を抱くまもなく、

それは本当に一瞬の出来事。

その刹那、息をつく暇もなく目の前にあった背丈よりも高い大きな縦長のクローゼットが爆破した。


「…え?」


そして轟音とともに崩れ去り残骸となった瓦礫が頭上目掛けて降り掛かってくる。

私はかろうじてなんとか転がるようにそれを避け、


そして何が起きたのか分からないまま、呆然としていた中で、


「流石は元魔人、反応だけは早いんですね。」


冷たい声が背後から降り注いだ。


秋霖学園の制服を着た、少し背は高いが私たちと同じ年齢くらいの、明るい茶色の髪の青年が立っていた。


その光景は異常だった。

その青年は自らが光源を放っているかのように全身が淡い金色に輝いており、その背中には目を奪われるほどに美しい、大きな真っ白な翼のようなものが左右から生えていた。

右手には人の背の半分以上の大きさはあるだろう巨大な剣を引きずっている。

それだけで充分異常だったが、さらに私の理解を拒ませたのは、その制服と、その大剣にびっしりとこびりついている赤黒い液体だった。

それが何なのか、考えたくもなかった。


「まだ生き残りがいたなんて…ハルフィアに関わりのあった者は全て殲滅しなければいけません。」


「!ハル、フィア…」


随分長い間その言葉を聞いていなかった気がした。いや、考えないようにしていたんだ。現実から、目を背けてー、


「そう怯えることはありません。元々、死ぬつもりだった、のでしょう。。」



一瞬光が明滅した直後に、頬に鈍い痛みを感じた。

足もとには、小さいながらも鋭い短剣が突き刺さっている。

そして初めて、自分の置かれた状況に脳の理解がおいついた。



「…避けちゃったんですか?

せっかく楽にしねたのに、、」


そう狂ったような笑みを浮かべながら一歩一歩ゆっくりと距離を詰めてくる。

無意識に後ずさり、背中に固い感触がした。それは行き止まりという八方塞がりの絶望的な状況。

巨大な大剣が振り上げられたと認識した刹那、甲高い音をたて真横の地面と窓が跡形もなく崩れ去ったのを目の当たりにした。

数センチ隣の壁には大きな風穴が空いていた。


手足がガクガクと震える。

駄目だ、これを真正面から浴びたら、確実に私は終わる。本能がそう告げていた。


時間稼ぎでも構わない、でも…こんな知らない人に殺されるのは嫌だ…!

落ちていた先程の短剣を拾い振り投げる。

手に持つ聖書のようなものを奪えばあの力は使えなくなるかもしれない。


私は、力の限り短剣を投げつける


「無駄な抵抗は、、え?」


彼は一瞬何かに驚き怯んだような予想外な声を上げ私を見る、

完全に狙いは正確に相手の手の甲に当たり、しかし傷1つ付けることなく、カランという小さな音を立てて短剣が落ちた。

相手は余裕で短剣を拾いあげようとしたけれどその反撃に体制をほんのわずか逸らしたその瞬間を、私は見逃さなかった。

これは賭けだった。


私は一歩後ずさり、真後ろのバルコニーから体を後ろ向きに大きく乗り出す。

そして、地面が足を離れる浮遊感、天地が逆さまになり、真っ逆さまに落ちていく感覚。

命懸けの賭け、

ここは三階、真下は花壇のはず。だけどそれは1部で、下はコンクリートの固い地面かもしれない。

それでも私の知っている教会の庭園ならば、、賭けてみる価値はあった。


だが主は私に味方などしてくれるわけもなかった。

案の定、身体の左側から落下し、左腕が鈍い音をたてて軋んだのを聞いた。



痛み、痛み、痛み、意識を失っていた方がよっぽどましというような体感したことのない信じられないほどの激痛が直後に全身を襲う。


落ちた先は不幸にも煉瓦造りの固い地面、、

左腕は肩から肘にかけて血が溢れ出し皮がめくれ骨がむき出しになりそうなほど損傷している。

これが折れている以上の惨劇だったが、それが脳でなかったことだけが不幸中の幸いだった。

そして、左足は膝から下の皮がぱっくりと抉れて血が留まることなく流れ出してはいるが、かろうじて折れてはいない。


歯を食いしばって、フラフラと立ち上がると壁に持たれながら足を引きずりなんとか協会から逃げることに成功した。



「はぁ…っはぁ…っ」


息が切れ、汗が顎を伝い、流れる血で点々としながら、それでも立ち止まることができずに歩き続けた。


なんで、私…逃げてるんだろう…もうとっくに、生きる気力なんて尽きた、もう目覚めてこないことをあれほど願って眠りについたはずだった。

なのに、、なんで、


分からない、分からない、自分の感情も、私が何をしたいのかも、何も。


でも、あの人がただものではないことは分かっている。

だから、かくれるのも、正面からたたかうのも無謀だ。


「うっ…痛…い…!」


折れた左腕から意識を持っていかれそうな程の痛みが襲い掛かってくる。


痛みに現実が追いつかないように私は必死で思考を逸らし先程の人物について考察を巡らせる。

あの人はハルフィアの生き残りを殺さなければいけないとはっきり言っていた。あの翼や光は、天啓を得ている瀬野さんたちと似ていた。エクソシストで間違いないだろう。だけど天使の姿は見つからなかったけれど。


私を、まだ契約者だと思って襲った…?いや、天啓があれば悪魔付きかそうでないかはすぐに分かる。

だったら、なぜ……

なぜここまで敵意を向けられているのか、私には分からない、今まで会ったことすらない、名前も知らない人、

そもそも、八王子が、こんな状態になっている理由すら何も分からないのだ。

これが八王子だけでなくて、もっと広範囲、だったとしたらー、考えるのも恐ろしかった。


「なんで、こんな…っ」



「逃げな、、きゃ、」


逃げるって、どこに?

私の中のもう1人の私が私を蔑み軽蔑した眼差しで見ている。


あなたの居場所はもうどこにもないのよ


「違う、、私、はー」


意識が朦朧としてくる中、必死になにかに追い立てられるかのように進み続けた。


あのときなんの躊躇いもなく私に向かって刃を振り下ろしたあの人間。

今度捕まってしまえば、今度こそもうなにもかもが終わってしまうのだと、そんな確信だけが今や私を追い立てていた。

逃げたって行く宛なんてない、それは嫌というほど分かり切ってはいた。もう私を守ってくれていた教会もない、八王子を無事逃げ切れたとしても、

だけど、もう、大切な人も、場所も、全て失われた今となっては、何もかも意味などなさないじゃないか。とっくに、どうなってもいいと思っていた。でも、心のどこかでは、死を受けいれる覚悟なんて、、私にはなかったんだろう

 

痛みにも哀しみにも耐え切れず、私には逃げるしかなかった。


「仕方、ないじゃない…! 私になにが……私だって!」


私だって、何?自分に何ができた?何も出来やしなかったでしょう?



…なにもわからない。

どうしてこうなってしまったのか、それは今この状況じゃなくて、全てが。

なにをしなければならなかったか。

なにをすれば世界は、皆は私のことを許すのだろう

そもそも私の目指していた理想がなんだったのかすら、もう分からなくなった。


「ここ、は…」



森の中を無我夢中で走り続けて、気づけば開けたところに出て足を止めた。100メートルほどの幅の、街が見渡せる展望台のようといったら聞こえはいいが、実際はガードレールもフェンスも何も無い崖、一歩間違えれば真っ逆さまの崖っぷち。

随分高いところまで登っていたらしく、限界まで近づいて見下ろす。悪魔が徘徊し建物はめちゃくちゃに破壊された街並みは、今は、お世辞にも綺麗とはいいがたい景色だった。


自分が、脚が震えていることに気がついた。

 一歩、一歩、踏み込めば全てが終われる。この苦痛から、この惨劇から、この絶望から解放される。楽になれる。

だけど、落ち切る覚悟すら私にはない。

先程の人に殺されるか、自決を選ぶか、2つに1つしかない状況だとわかっていながら私は迷っている。

斗真さんにはできたそれが、自分には勇気がない。笑える話だ。

 そんなことをしたところで、崖の下で自決した上悪魔に喰われた無惨な粉砕死体が一つ増えるだけ、誰にとっても悪化すらもしない。変化は起きない。


そして私は、後ろから迫る足音を確かに聞いた。


 「もう、逃げ場などどこにもないと、分かっていただけましたか?」


と、感情の見えない、抑揚のない声がした。


そうして、目をそらし続けていたものを見るのを恐れながら視線を持ち上げ――現実をようやく受け止める。


彼は息1つ切らさず、私に追い付いていた。


「私は悪魔付きじゃない…」


「それは承知しています、だけど、あなたはハルフィアの元幹部。メデューサであるとどうじに、悪魔を引き付ける何かがある、あなたという分子は我々エクソシストの脅威でありかなり危険な存在です。」



「私のことを、どこまで知っているの…?」


「人伝に素性を少し聞いただけです。私は、悪魔と契約したことのある人間は気配で分かるので、まさかあの場にいるとは予想外でしたが。気は済みましたか?」


そう言い切ると再びこちらへ一歩一歩近づいてくる。


私は後ろへズルズルと引き下がるしか術はない。

もう八方塞がりだ、どうしようもー、


えー

刹那、自分の足が石かなにかに踏みバランスを崩し、グラっと視界が揺れる


視界の隅に、崖の先まで追い詰められ踏み外したのだと瞬時に理解する


空中に身が投げ出され、 その刹那、走馬灯のように赤いフラッシュが閃光のように光り輝ききっとあの目の前の彼の、斬撃に違いない

私はキツく目を瞑った。そのまま意識がプツリと断絶された。



ーーー夢、夢を見ている


カーテンの締め切った、薄暗い部屋の一室、ベッドの上に力なく倒れる誰かがいる、否、これは私だ、 つい数時間前の私、 机の上や床、ベッドの上には大量の睡眠薬がバラバラに散らばっている。


ピーという機械音と共に部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。

赤みがかった茶髪の、知らない男性、でもどこか懐かしさを感じる、

血の滲んだ後のはっきりと分かる片目を眼帯で乱雑に巻き、隠し、見える範囲では、手足、首に至るまで包帯でぐるぐる巻きにし、身につけている漆黒のコートはビリビリに敗れ、敗れて見えた肌は、胸から腹にかけて1面に酷い裂傷があり、今も血が滴り落ちている。

フラフラと壁に手を付きながら、荒い息でゆっくりと近づいてきた彼は、険しい顔で私を見て、そしてその横の机に散らばった薬をチラと見て、酷く悲しそうな瞳をする。


見たことが、あるような気がする だけど、そのどこもかしこもが傷だらけで、記憶を手繰り寄せようとするけれど、判断がつかない。


しかし、すぐに向き直ると1歩ずつ、私のすぐ真横まで近づき、そっと手をかざし、何か小さく呟く すると、緑色の淡い光りが表れ、私を包んでゆく


《……っけほっごほっ》


! 力なく横たわっていた身体が、ビクリと動き、意識のないまま咳き込み、まるで息を吹き返したように見えた。



《I hereby pledge my undefeated oath》


?何か英語のような言葉をスラスラと発し、祈りを捧げるようにロザリオに口付けする


《Until the day ■■ dies, no one can ever kill her.I can hurt you, but I can never hold my breath except for ■■》


《Protect her from all attacks, demons, witches, exorcists》


呪文のような英語を唱え終えると、彼は ホッと安堵したかのように柔らかく微笑み、手に持つロザリオが赤く光り輝き、パリンという小さな音を立てて粉々に砕け散った。


そして、彼はそのまま最期の力を振り絞るように円陣を書くと、淡い青い光が彼を包み、そのまま姿を消した



この人は、一体ー


「! 」


目を開けると、硬い地面に倒れていた。

激しい左腕と足の痛みが現実に襲いかかる。

そうだ、私ー 崖から、


ふと周りを見渡すと、先程まで私を殺そうとしていたあの男性が、少し離れたところで何やら険しい表情で誰かと連絡を取っている


(……神父、魔人の残党を ……たのですが、……できません、強力な……にプロテクトされていて、……分かりません、悪魔の契約の……と思われますが、傷は与えられても、致命傷となる攻撃は……それと、彼女、あの斗真さんと……があるみたいで、我々の知らない記憶を、……しています、……はい、分かりました、)


何を話しているのか、ほとんど聞こえなかったが、斗真さんという名前は聞き取れた。なぜ、今更、彼の名が…?

困惑していると、ゆっくりと近づき、ため息をつき私を見下ろす。


「契約者の元に命じる、高潔なる大天使聖ウリエルよ、父と子と精霊のみなにおいて彼女に耐えざる癒しの力を与え給え。」


そうして近付くと突然膝をつき、祈りを捧げ始めた。


直後、眩しいくらいに光が明滅し、思わず目を閉じる。

目を開けた先には、

金髪の長い髪に、真っ赤に染まった大きな翼、そして左手には太陽のように激しく燃える炎 を抱いた人智を越えた生命体が目の前に浮いていた。


天使ウリエル…寮にいたとき文献で読んだことがある。

天使の階級最上級の熾天使の一人だ。



赤い炎が特徴のこの天使は、この姿は太陽の光そのものを象徴している。太陽の光のように、人々に恵みを与えることもあれば、時として恐ろしい災害ももたらすこともある。

地震や洪水などの地球環境の変化はこの天使が引き起こすとされている。

天界の中では懺悔の天使、地獄の支配者とも言われ他の悪魔から広く恐れられている存在


ノアの方舟ーノアの洪水を予言した天使とも言われ、能力は未来を予言することで、地震や火災、天災から戦争といった人災まで見通すことができる、とされている、今まで私が見てきたどの天使とも違う、圧倒的な強大な力を感じた。


なぜー、と呆気にとられていた最中、


スっとそれが私の左腕に手を翳すと、淡い青い光を放ちながらジクジクと小さな音を立てて腕の傷が変化していく。

数秒後には血が止まり、皮が再生し、大怪我をしていたとは思えないくらい綺麗に元通りになっていた。同じように左足も治してくれた。


そして、彼が何か詠唱すると、天使の姿は薄れ消えていった。


「すごい……」


「折れた腕はすぐには治りませんがね」


つい素に帰って感動してしまったがすぐに違和感に気づく。


「じゃなくて、」


私は瞬時に思考を切り替えて疑問を口にする


「どうして、助けてくれるの?」




彼は何も言わずに歩いていく


「こんな魂見た事がない、異例すぎる、一体、どんなー」


その間も独り言を呟きながら早足で歩いていく



「?あの、何の話ですか?」


「とにかく最終的な判断はリーダーに任せます。付いてきて下さい。今のあなたに拒否権はありません」


「あ、待ってっ」


意味がわからなかったが今反抗するのは危険だし、目的地は同じのためついて行くことにした。


森を抜け、大通りを歩く。そこら中に悪魔が徘徊していて、こんなに目立って大丈夫なのかと思ったが、なぜか悪魔は私たちには近づいてこないどころか、恐れて逃げていくようにも思えた。聖水や聖書を持っている上、天使の加護も受けているから、低級の悪魔は狩る必要もないのだろう。


それにしても、なぜこの人は、こんなに落ち着いているのだろう。八王子がこんなことになっているのに、、

悪魔をものともせずに…



「あの、あ、ありがとう…私を、助けてくれて」


「助けたのではありません。ついさっきまで殺されかけていた相手にお礼なんて辞めて下さい。まさかあれが冗談だったとでも?」


「ううん、でもー、例え利用するだけでも、殺さないでいてくれたから。それに、怪我だって治してくれたわ。」



「……命が保証されるとは限りませんので、覚悟はしておいて下さい」


「うん、大丈夫。…ところで、あなたのお名前を聞いても?」



「……朔夜です、九条院朔夜」


「え!?」


私はその名前を聞き身体が強ばった。


私は彼を知っていた。知っていたと言っても、葛城神父から少し聞いただけだけれど、日本の有能なエクソシストたちが集まっているエクソシスト協会から東京のアトランティス協会のエクソシスト隊に派遣されて、手伝っていると言っていた。

天慶を受けているとは言ってたけれど、こんなに高位の天使だったなんて…


そして、、彼と最期の日まで一緒に戦っていた、エクソシストー


「どうして、九条院さんはここに?ここで何をしているの?八王子で、一体何があったの?」



「……ハルフィアの召喚実験の失敗ですよ。

それにより大悪魔が暴走し、悪魔を閉じ込めていた魔窟が全て敗れたのです。

そのあとは、、言わなくても分かるでしょう

民間人はすぐに市外に避難させ、八王子の市境には防壁が降りていて、全国のエクソシストたちが総出で悪魔狩りに、入れるのはエクソシスト協会の私たちと、エクソシストだけ。私はまだ姿の見えないエクソシストの数人を探しているんです。

まあ、予想通り今回も被害は甚大です。生き残ったエクソシストはおそらくもういないでしょう。」


今回も…?


「その大悪魔というのは?今はどこに?」


「今は駅前の広場付近で我々エクソシスト協会の神父らが戦っています。性格には、完全に破壊することは難しいので、封印している、といったところです。私はこの街でまだ生き残っているエクソシストや一般人がいないか探しているんです。」


「……エクソシストは、どのくらい来ているのですか?」


「我々の協会のメンバーを除けば24名です。そのうち、まだ誰とも生きている人には出会えていませんが」


「そんな…皆、その大悪魔と戦って?」


「いや、それにより犠牲になった者も確かにいるが、多くはハルフィアの残党ー、いえ、話しすぎました、」


「ハルフィアの、残党がいるんですか!?」


「ええ、リーダーと幹部の数人は倒しました。でも、1部取り逃がした者で厄介な幹部の人物が3人います。それに、末端でもハルフィアの生き残りは必ず殲滅しなければならない。少しでも分子が残っていては、いずれまたハルフィアのような強大な悪魔崇拝組織が生まれて、また同じ過ちを犯すだけ。」



「あの、この、爆発が起きてから、どのくらい

経っているんですか?」


「…丸2日、といったくらいです。」


「そ、そんなに…」



「それより、あなたがまだ八王子に残っていたなんて、運が悪いですね。

てっきり長崎の協会へ写ったかと思いました。紫苑寺さんが紹介していたあの協会に。」


!!


「……」


「紫苑寺さんのことは、本当に残念でした。。エクソシスト病と戦っておられましたが、まさかあそこまで思い詰めているとは…」


エクソシスト病……



「彼はー、やはり、じ、自殺なんですか?闘いの最中に誤って足を踏み外したとかじゃなく?」



「……貴方は知る権利がある、か」

しばらく立ち止まって思案していたけれど、


「悪魔の封印は私と葛城神父の2人で戦っていました。紫苑寺さんは、体調があまり思わしくなさそうだったので、ホームの後ろで幻覚に囚われていた一般市民や、怪我をしていた市民の救助に向かわせたんです。途中までは、手当をしているのを私たちは見ていたのです……ですが通達が行き届いておらず電車が通過してしまって、機内放送がかかって、私は急いで緊急ボタンを推しに行って、その後すぐに突然紫苑寺さんがホームに向かって歩き出してー、幻想が見えていたとはいえ、追い詰められていたのは事実でしょう。」



「……そう、ですか」



「やはり、彼には何としてでも取り戻して貰わなければならないか…」


「?あの、どういう意味ですか?」


「いえ、なんでもありません。お気になさらず。さて、協会に着きましたし、入りましょう。惨劇から2日たっていますし、血の匂いが酷い、ここも嫌な予感がします、私も人探しに来たとはいえ、、覚悟をしておいて下さい。」


私は軽く頷き静寂の広がるユマニテック協会の門を開いた。


九条院さんはスタスタと先を早足で歩いて行き、時折止まり、何かに記録を撮っているようだった。


私は後ろから荒れた庭園をフラフラと歩いていた最中、前を歩いていた九条院さんが突然止まり足を止めた。


「どうして…」


驚きに満ちた表情で 佇んでいる先を、目で追った。


そして、倉庫に凭れ込むように倒れていた人物を見て我が目を疑った。

それは、白の祭服を真っ赤に染めて力なく座り込んたユナン神父だったからだ。


「どうして、ユナン、さんが…?」


彼はフラフラと後ずさり驚きに目を見開いて硬直していた。


「彼は研究所の襲撃の夜に事故に合われたと、、まさか、、ドルジ神父が、私を…?」


彼は何か一人でブツブツと呟いた後、神父の傍に落ちていた血にまみれた刀を手に取り、そのまま静寂の広がる寮の中へと足を踏み入れた。



取り残された私は、私をこれまで追い込み、殺そうとまでしていたユナン神父に目をやった。

警察に捕らえられていたはずの彼がどうして、とも思った。でも、何よりも彼がこの協会で、何かと戦っていたのは明らかで、私の一切の理解を拒ませた。


彼の辺りには夥しい量の血液が流れ出している。

その表情は自分の力不足を嘆くかのような、強い無念と、憤りが垣間見えた。そして、同時に何かを強く決意したかのような、覚悟も思わせた。

そして、倉庫の中のなにかをまもるかのように、持たれこみ倒れている。

私はその扉を開いてしまった。

彼が最期に何をしようとしていたのか、知りたい一心でー、


開いた瞬間、噎せ返るような鉄臭い匂いに思わず息を止めた。

倉庫は、尋常ではない量の血液が飛び散って真っ赤に染まっていた。


そして、その1番奥に、見てしまったものー、

その奥に折り重なるように倒れていたのは…孤児院で暮らしていたエクソシスト予備生の子供たちの変わり果てた姿だった。










 


酷い吐き気と耳鳴り、頭痛に襲われる。

指が強張り、動かない。

私はそろそろと後ずさることしかできなかった。



しばらく倉庫の前に手を付き座り込んでいた私は、我に返りフラフラと立ち上がる。



まだ見ていなかった隣の寮にいるかもしれない。

目の前の寮の扉を開いた瞬間、ここも、先程の匂いと同じだった。

溢れ返る血臭と、身も凍るような激しい戦闘の痕跡。通常のえくそしずむならばこんなに破壊されるわけがない、やはり、魔人の誰かと交戦したのだろう。


その血の跡は、この場所以外にも点々と続いており、戦いがこの寮内で長く続いたことを証明していた。


寮の壁や床が砕かれ、ガラスは割られ、骨組みだけが剥き出しになっている部分すらある。何か強大な存在が暴れ回ったとしか思えない、そんな廊下を歩いていた最中、私は立ち尽くす。


立ち尽くしながら、それを見た。


点在する血痕の先、最終決戦となったであろうリビングの扉を開けた先、中央のソファに俯きぐったりと座り込んでいる瀬野さんを見た。



 





…………………………………………………………………………






「もしもし、私です。九条院です。瀬野さんもやはり駄目でした…、はい、爆心地に近い総合病院が跡形もなく崩れていたので、この調子だと、桜田さんも…、

え?葛城神父様が?……そうですか…

はい、連れてます、今は白百合寮でー、はい、あの記憶喪失の、話した彼女です。はい、本当に厄介な契約で、サイコメトリーも弾きますし、まるで解けそうにありません。それで、気になることが、、

当初の任務とは異なりますが彼女の処遇についてお話があるので、1度皆さんと合流したいのですが、、いえ、危害は加えないことは約束します。それとーユナン神父のことについてお話が、

……はい、分かりました。ここでお待ちしております。失礼します。」



ー適合レベル99 ー

ー推奨加護天使

聖天使 ミカエラ ラファエルー


ー罪状 不明

祖先 不明 住所 氏名 不明 ー


彼女が意識を失っている間に色々調べさせてもらった

名前も住所も偽物とは、飛んだ詐欺師だ、しかも1番驚いたのは

魂の レベルだ

天啓を受けられる

天使との適合レベルが表示される

その者の罪や隠れた才能が可視化できる


初めて会ったときから読心術を使ってみてはいる、なのにまるで壊れたビデオテープのノイズのような耳障りな音しかしない

思考を読み取らせない高度な閉心術を使える者もいる、だけど、

ただの一般人が私の読心術を弾くなんて、

信じられない

それに適合レベル99ー、こんなに高位の天使の加護がほぼ100パーセントの確率で降りることになる


でも天啓は受けていない、啓示を受けたという報告もない

斗真さんが生前盲信していた気味の悪い女という認識しかなかった

だけど、それすらも今となっては何か大きな関連があるように感じる

一体何者なんだ、


この少女の存在が、万事休している我々エクソシストの危機を救う最後の切り札かもしれない、

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