壊れかけの信頼
……………八王子総合病院 内科 ………………………
あの事件から1週間後、俺は柚の病室を訪ねていた。本当はもっと早くに見舞いに行きたかったが、悪魔祓いの依頼が立て続けに重なり時間がなかった。それに、俺も色々なことが起こりすぎて整理する時間が必要だった。
「来て、くれたのね。」
扉を開けると四人部屋の1番奥のベッドに座り読書をしていた柚は俺に気づくと顔を上げて微笑んだ。
顔色は病人そのもののように青白く手足の見えるところだけの皮膚でも幾重にも巻かれた包帯から痛々しい傷跡が見え隠れしている。つい2週間前まで普通に登校し、エクソシストを続けていた柚とはまるで違う雰囲気に様変わりしていて絶句した。
ベッドの横には車椅子まで置かれている。
「あ、ああ…遅くなってすまない。色々悪魔祓いの依頼がたてこんでいてな、」
「いいのよ、でも本当に、大変なことになったわねぇ、、シスターたちも混乱しているでしょう?」
「え?あ、ああ…まあな。」
柚は…知らないんだな、今、アトランティス教会がどうなっているかを…
「あの2人は隊の主力戦力だったから、特に厳しいでしょ?誰か他にうちに援助が来てないの?ユマニテック教会のエクソシストたちは?」
「…大丈夫さ、俺らのことより、柚こそ大丈夫なのか?
この車椅子は…もう歩けないほど悪いのか?」
「…優馬は、これからどうするの?エクソシストを続けるの?」
「当たり前だろう、どうしてそんなことを」
「優馬は天啓を得ているから、きっとエクソシスト病にかかってしまう。私みたいになってしまう。そうなれば神父になる夢も叶わない。それでも?」
「俺は10年前からずっと、命ある限りエクソシストを続ける違いをたてた。神父になれないのは仕方ないさ。先代のエクソシストが通ってきた道だ。俺だけ逃げたりしないさ。他に行く宛もないし、夢もない。元々死ぬかもしれないと分かっていてエクソシストになった。この力で誰かを守り抜くことができるならば、戦いで死のうが病で死のうがそれほど変わらないしな」
「優馬、3年前、初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「え?どうしたんだ突然」
「葛城神父に無理やり教会に連れてこられて、後悔に苛まれて、生きる希望も失っていたあのとき、
私の過去を聞いて、みんなが、私を哀れな目で見て、みんなが私は悪くないって、庇ってくれた。でも、優馬は、違った、いきなり平手打ちをかまして、どうして復讐なんて望んだんだ、私にも責任があるって言って、怒ったよね
びっくりしたわ、同時に、腹が立った。
何で初対面の奴にそんなこと言われなきゃいけないんだって、
でも、そのあと、シップと消毒液を持って私の元に来てくれたよね、
嬉しかった。本当は、心のどこかで、私のこと本気で 怒ってくれることをのぞんでたんだと思う
優馬はさ、学校でも、寮でも、教会でも、いつも周りにはみんなが集まってたよね、忌み嫌われるエクソシストでも、そんなの感じさせないほど、優馬の周りには自然と仲間が沢山いた。フェンシング部だってそう、
優馬はね、自分では気づいてないかもしれないけれど、 すごい人なんだよ。
だから、死んでも構わないなんて、そんな悲しいこと言わないでよ。
優馬がいなくなったら、フェンシング部はどうなるの?みんな部長があなただからついてきていたのに、途中で放り出すの?」
「そういうわけじゃないさ、ことが落ち着いたら、学園には復帰するつもりだ、お前は何も心配しなくていい、」
「…優馬…ところで、結衣の居場所を知らない?話さなければいけないことがあるのだけど、連絡が取れないのよ。」
「さあな、教会には来てないけど。お見舞いにも来ないのか?はっ、最低な奴だな、あいつに期待するのは辞めておけ。何を話したって何も変わらない」
「私ね…、結衣がこの状況を形勢逆転してくれる、唯一の鍵じゃないかとおもっているの。エクソシストでもあり、悪魔付きでもある彼女には、秘めた力を感じる。彼女が契約悪魔を上手く制御できたら、きっとこの上なく強い味方になるはずよ。」
「何だと?馬鹿なこと言わないでくれ。誰が悪魔付きなんかと一緒にエクソシズムをやれるもんか。それにあいつの悪魔を制御するなんて無理だ。今でも死にかけだというのに、あんな生半可なやつにエクソシスト未来が救えるわけがない。あいつはとてつもなく悪質な罪人なんだ、柚だって被害者だろう!?」
「3年前のこと?確かに復讐をお願いして、遂行したのは紛れもない結衣よ。でも、あのときの結衣は、力はあっても、どこかいつも寂しそうな瞳をしていた。
私は結衣の過去をよく知らないけれど、誰だって何の理由もなく悪魔と契約したりしない。それに、生半可な理由じゃ契約は成功しない。きっと結衣には、どうしても叶えたい願いがあった。悪魔は人間の心のすきに漬け込んで悪の道に誘い込む、まさしく悪そのもの。誰もがもつ人間の欲望を、極端に引き上げて罪を犯させ、堕落させる。
いっときの金や名誉や、地位と引き換えに、
結衣もきっと、悪魔の被害者なのよ。」
「そんなの、無理だ…そんなふうに考えられない」
「人の心は変わっていくものよ、
愛していたのに、覚めたり、恐れていたのに、理解したり、憎んでいたのに、許したり、」
「俺も時が経てば、あいつを許せるというのか?
俺は何度考えてもあいつの気持ちなど欠片もわからない、理解したくもない。」
「あのときの結衣は、悪い鬼に取り憑かれていただけ、きっと本心じゃない。エクソシストの未来を救うためには、結衣が必要よ。悲劇が重なっただけ、結衣は、私たちの知っている結衣を、あなたは忘れたわけじゃ、ないでしょう?約束、したよね、私たちは、いつまでも、結衣の味方だって。」
「そんな昔の口約束…」
ガラッ
刹那病室の扉が開いた
「桜田さん、検査のお時間ですよ、あら、すみません面会中でしたか?」
「いや、構いません、もう出ようと思っていたんで、それじゃ、また来るから」
「…うん」
逃げるように柚の病室を出て、病院の出口を出ると、途端に疲れが押し寄せてきた、
…何してるんだ、俺は。柚にもっとかけてやらなきゃいけない言葉があったはずなのに、
直る保証は0に等しい、死を待つだけの患者の面会がこんなにキツいものだったとは思わなかった。
柚…どうして柚なんだ、
この世界には、
神も仏もいやしないのか…?こんなことが続くと、自分が何のためにクリスチャンになって、祈りを捧げているのか意味がわからなくなる
……あいつを、許すことなどできるわけがない、許してしまえば俺は、俺の信じてきたものが根底から覆ってしまう。
俺もこのままエクソシズムを続ければ、、いつか…
エクソシストになると決めたときから、死と隣り合わせだという覚悟はしていた。悪魔祓いのときはいつだってそうだったし、
初めにエクソシスト病のことを紫苑寺から聞かされたときは驚きよりもショックが大きかった。夢だった神父が叶わないと分かったことに、、
俺は今までそれだけを望みに生きてきたから、、神父になるという夢、あるのはそれと、あとひとつ、自分の信じている信念、己の正義、それだけ。
だけど、俺の信念が揺らぎ始めたのは同時に聞かされた地下施設の酷い惨状、、
その研究所にユナン神父とフィオナさんが関わっていると言われたとき。
ユナン神父は、俺の道標のような人だった。迷ったときや、困難に立たされたとき、いつもユナン神父が俺に正しい答えを導いてくれた。
ユナン神父とフィオナさんは俺の命の恩人だった。
多くのエクソシストが身の安全のために、もう為す術はないと治療を放棄した。
だけど、アトランティス教会のエクソシストだけは俺を見捨てなかった。
ユナン神父は当時長野の教会の神父だったけれど、葛城神父が海外に留学中の半年かん、アトランティス教会に派遣されていた。
他のエクソシストは経験が浅く、未成年だったためほとんどがあの2人が悪魔祓いに訪れた。その数は、前代未聞の 15回にも及んだ。
あのとき、俺の中で希望の光がさした。
最初は、命の恩人である彼らに恩返しがしたい、それだけの理由でエクソシストになった。
だけど、だんだん彼らを尊敬するようになった。どんなに傷だらけになっても、決して怯まず立ち向かう強さに、
感謝の声よりも非難の声の方が大きかった。
それでも、彼らは決して諦めなかった。だから俺も、闘おうと思えた。
ユナン神父は確かに誠のエクソシストだった。
なのに、誠のエクソシストであるはずの彼らが犯罪者として捕まり、神に身を捧げ、強い信仰心で結ばれたはずのシスターまでいとも簡単に教会を捨て、俺は分からなくなった。…どこで道を間違えたのか、考えていた。あの地下施設に、監獄を作り非人道的な実験や拷問を始めたのは大体5年前だという。5年前といえば、あの北九州のメデューサの児童殺害事件で、悪魔結社の強さに手も足も出ず多大な犠牲を払い徹底を余儀なくされた事件があった。
あのとき、ユナン神父は相当落ち込んでいた、仲間のエクソシストを失って、ユナン神父は誰よりも悪魔を憎み、悪魔をこの世から根絶やしにしたいと思っている。エクソシストを思う気持ちは本物だった、
悪魔を殲滅する、それが彼の正義だったんだろう。だが大きすぎる正義は時に歪んだ形になっていく。7つの大罪の中で知られざるもうひとつの大罪が正義だと言われるように。
俺はフィオナさんの過去を知っていたけれど、辛い過去を乗り越えてきた強い心を持った人だと勝手に思い込んでいた。
明るく振る舞っていたけれど、そのうちには自分の運命を呪う暗い感情が渦巻いていることに気づけなかった。
俺だってそうだ。いつだって自分は正しいと思っていた。早くから天啓がきて、1番年上で期待も高かったからかな。
慈恩寺が過ちを犯して天啓を無くしてから、俺はことある事にあいつを責めて、あいつの気持ちも考えずに、ずっと追い詰めてしまっていた。
円城寺のこともそうだ。慈恩寺の1番大切な人だというのに、俺は過去だけを見て、今のあいつを知ろうともせずはなから突き放して、傷つけることを沢山してきた。
道を間違えたのは俺も、同じ、、か。
俺は、、あいつのことは生涯赦すことなどできない、でも、シスターに嫌われ、学校でも孤立しながらも、必死で祈りや聖書を勉強して、寮に恥じないクリスチャンになろうとしていた、自分の契約と罪を知ってからも、もうダメかと思ったときもあったけれど、最後には立ち上がって、自分の悪魔祓いは後回しに、エクソシストを続ける決意をした。変わろうとしていた。
もういいんじゃないか、認めてめいいんじゃないか、そう心が動いたときもあった。
敵討ちをしようとか、不幸にさせようとは思わない。それは神の意志に反するし、俺はそんなこと望んでない。柚や、ユナン神父や葛城神父のように割り切って付き合うなんて無理だった。
だってルーエン神父たちはどうなる?
あいつの組織に、最悪は彼女に、殺されたかもしれない彼らは、憎むべき相手と、彼らの敵の相手を仲間と呼ぶことなどやはり俺には……
「俺はーこの先どうすれば…」
厳しい冬の寒さも過ぎ去り、覆われた雪が溶け始め、そこから新たな緑の新芽が見え始め、春の訪れを感じさせるころ、フィオナシスターのお墓は、教会から少し離れた 、歴代エクソシストたちが眠る丘にたてられた。
その墓碑に刻まれた年齢はほとんどが、10数年で
その八割以上がエクソシスト病で若くして亡くなったエクソシストだった。
今まで私は、何を見ていたのだろう。エクソシストの死の運命も、地下の惨状も、何一つ知らずに今まで、のうのうと生きていた自分が、愚かだった。俺は誰を責める資格もない。
キリスト教徒の習わしに従い立てられた大きな墓碑には、フィオナ スカーレットという文字が掘られている。
フィオナシスター…俺が取り憑かれて悪魔とたった1人で戦っていたあのとき、ずっと手を握って、何度も諦めるなと励ましてくれた。目を覚ましたときはいつも隣でたわいない話をして元気をくれた。孤児院に連れられてからも、誰も信用せず全く笑わず可愛さの欠片もなかった俺に、いつも笑顔で接してくれた。
本当の母親のような存在だった。
それなのに……どうして…
駄目だ、俺らしくない。それに今更こんなこと考えたって後の祭りだ。
フィオナさんの本名はわからないままで、過去は壮絶さを物語っている。罪を犯したこともあった。でも、それでも、フィオナさんは立派な、エクソシストだった。
「主よ、永遠の安息を彼女に与え、耐えざる光を彼女の上に照らし給え
彼女の魂が安らかに憩わんことを アーメン」
これからエクソシストはどうなっていくのだろう。元々非難の声の方が大きく理解の薄いエクソシスとが、今回の事件で明らかに世間を敵に回した。
なるべく大事にしないように、ニュースでは放送されたが、週刊誌はその裏の実態にどこから入手したのか、監視カメラの映像や写真が漏れていた。
この事件をきに、あの2人の消失が、この14年間受け継いできたアトランティス教会のエクソシスト隊に、多大な影響を及ぼしたことは明らかだ。
ポケットの中で携帯電話が震える。……
着信17件、留守番電話サービス6件…、、相手は確認しなくても分かっている。
ひっきりなしにかかってくる電話から目を逸らすように電源を切った。
薄情者だと、罵られるだろうか。
俺はもうクリスチャン失格だろうか、
このまま天啓も消えてしまうだろうか。
でもー、この決意が変わることは決してない。
決して、、、。
少し過去の話をしようか、何一つ面白い話じゃない、むしろ呆れてつまらないほど暗い過去だけど。
俺が産まれてすぐに、本当の父親は家を出ていった、
理由は知らない。
その後、母親と2人で三鷹市の小さなアパートで暮らしていたものの、母親は次から次へと浮気を繰り返し、家にもろくに帰らないような人間だった。
小学校に入る年になっても、学校に通っていなかった俺に、学校の先生や児童相談所の職員が、何度か訪問しに来たときも、面倒くさそうに対応していた
それからすぐに、母は荷物をまとめて、家を出ていった。
きっと男と逃げた。いや、絶対そうだ。朝起きたら、2人のにもつが全て無くなっていたから。
隣町の児童保護施設に引き取られて、悲劇が起きたのは、小学高学年の、ある日、前触れもなく起きた。
公園に1人で遊びに行ってー、そこで見つけた怪我をしている子犬に、触れたことが発端だった。
一瞬、噛まれた。本当に、瞬きするクラいの一瞬の出来事だった。それほど痛みもなく、少し跡が残っただけで、その場は何事もなく帰った。急変したのは、その夜から。
高熱を発症して、恐ろしい寒気と玉のような冷や汗が止まらず、傷口は真っ赤に爛れて、鋭い爪で引っ掻いたような傷跡が腕にいくつも出来ていたり、
身体中か杭で突き刺されたように激しい痛みに襲われた。
その犬には何十もの悪魔がとりついていた悪魔付きの犬だった。それが噛まれた拍子に乗り移ったのだ。
最初、医師たちは狂犬病だと思い込んでいた。症状がとても似ていたから、色んな治療法を試した。でも数週間たってもまるで効果がない。
この左目は、自傷衝動で自分で引っ掻いて失った。悪魔は恐ろしい生き物だ。自我などなくなり悪魔に乗っ取られている間は何も感じないからいい。だが幻覚や幻聴がきこえ想像を絶するほどの痛みと苦しみが身体中を襲う、死んだ方がマシだとはこのことだった。
その病院には、運悪く悪魔に理解のあるエクソシストもシスターもいなかった。
それから、ようやくお手上げだと感じた医師らは、藁にもすがる思いで噂で聞いた悪魔祓いをしているという神父を呼んだ。
最初に訪れたのは多摩市内のユマニテっく教会のエクソシスト隊だった。だが彼らは私の症状を見るなりもう手遅れだと匙を投げた。
当時のエクソシストは、葛城先生はちょうどその頃イギリスに留学中で、長崎から派遣されてきた新任神父のユナン神父だけが1人でエクソシスト隊を率いていた。
だが、ここからがまさに本当の戦いだった
闘いは3ヶ月以上にも及んだ。
何度ももう終わらせてくれと頼み込んだ。家族にも捨てられ、身よりもない自分にはこんな思いまでして生き延びる希望などなかったから。
だがユナン神父らは決して諦めなかった。
彼らが俺に居場所を与えてくれた。希望の光を、照らしてくれたんだ。
本当は、俺に手を差し伸べてくれた人なら誰でも良かったのかもしれない。それがたまたまエクソシストだっただけ。
結局、エクソシストは破滅を生むだけ、そういいつづけていた葛城神父の言葉は、誠だった、というわけか。
こんな結末しかないなら、俺は、なんのために、エクソシストになったんだろうな…
……………sideother……………………………………
「葛城君…君はー、本気かね?」
「はい、私の気持ちは変わりません」
「ここは公務員だ、よっぽどの犯罪を犯さないかぎり何年でも休業できるし収入もずっと安定しているのだよ?
本当にそんな先行き真っ暗で不安定なエクソシストだけで生きていくつもりか?
君の家族のためにももう一度考え直さないか」
「いいえ、私はこの残りの生涯全てをエクソシストを本業とし神に身を捧げるつもりです。先行きが不安な今だからこそ、私が立ち上がらなければいけない。
絶対に、エクソシストを滅ぼすわけにはいかないんです」
「そうか…君の決意は分かったよ。…認めよう」
「ご好意感謝します」
「だが、良いのかね?エクソシスト病が解明されない限り彼らに未来はない。
真実を告げずにエクソシストたちに早死させても、君は
このままこの悲劇を繰り返すつもりか」
「過去の私はそれがあまりにも理不尽で、哀れだった。だけど、今はもうエクソシスト病が悲劇でしかないなんて、おもっていませんから。お世話になりました。失礼します。」
俺は今まで間違えていた。この5年間、エクソシストの血に濡れた運命から目を背け、人々の助けを求める声から目を瞑り、教え子たちを見捨てた。もう俺は、
逃げたりしない。闘ってみせる。
どんなに勝算がなかろうと、俺は最期までエクソシストとして、闘うんだ。
………………………………………………………………
「……よく頑張りましたね。無事、悪魔祓いは終わりました。もう1週間もすれば包帯を外しても大丈夫でしょう。」
「ああ、ありがとうございます。この子を助けていただいて、本当にありがとうございます。この御恩は決して忘れません。」
「いえ、初期の段階で早急に対応してくれたあなたがたのおかげで、大事に至らずにすんだのですよ。」
「これは謝礼金です。少しばかりですが、どうか受け取って下さい」
「ですが、規定の額よりも…」
「いいんです。今、あなたがたエクソシストは世間で後ろ指をさされていることはご存知です。でも、命をかけて尽くしてくれたお2人を見てわかりました。私は信じています。どうかあんな噂に負けないで下さい。」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで、充分です。」
「今から柚の病院に行く予定だが、斗真も来るか?」
「柚の、ですか?」
「ああ。明日からまた悪魔祓いの依頼が入って立て込むからな」
「わかりました。私も行きます。柚に会えるのも、もういつになるかわからないですし、ね」
ふと後ろを振り返ると立ち止まり小さな咳をいくつもしていた。
「大丈夫か?」
「ゲホッ…少し疲れただけ、です…」
「………」
病院を尋ねたが柚のベッドは空だった。
「あの、柚…桜田さんは、どこに?」
近くにいた看護師に声をかける。
「ああ、ご面会の方ですか、桜田さんは今、定期検査に行っておられます。もうすぐ戻られると思いますが、お待ちになりますか?」
「…いや、今日はお暇します。また後日改めて伺います。」
「そうですか、かしこまりました。」
「いいのですか?」
「ああ…夜も遅いし、検査のあとならばきっと疲れているだろう」
扉を開けると見知らぬ女性と鉢合わせした。
30代くらいの、細身の人だ、疲れているのか疲労が見え窶れた感じに見えた。私たちを見ると表情を一変させた。
「よくも、よくもおめおめとあの子に会いに来れますね!」
どこかで見たことのある女性だと思った。やはり…
「あなたは…もしや、柚の、お母様ですか?」
「そうよ、うちの娘をあんな目に合わせておいて!」
「お母様…エクソシスト病に関しては、本当に申し訳なかったと」
「弁解などいりません!!影であんなことを平気でやれるようなエクソシストに綺麗事など言われたくないです。こんなことになるなら、、あの子をエクソシストなんかにさせるんじゃなかった……」
「お母様、あの事件はー」
「斗真、」
「帰って下さい。もう二度と来ないで。」
「私たちは…まるで悪者のようですね。」
病院からの帰り道、斗真はポツリと呟く。
「斗真、俺たちは確かに悪者だよ。柚の母親の気持ちらよくわかる。柚を守ると約束してこの寮に連れてきたのに、こんなことになってしまった。全ては、俺が悪いんだ。」
「先生」
「エクソシスト病のことを隠して戦わせてしまった俺の責任なんだ。地下室のことも、知っていて黙認していた。こんなふうに、エクソシストを追い詰めるつもりなんてなかった。エクソシスト病はきっと解明される、治療薬の開発に成功してくれると過信していた。
俺の過ちだ」
「先生まで弱気にならないで下さいよ。今更過去を悔やんだって、何も変わりません。」
斗真、なぜ君はそんなに……
………………………………………………………………
「斗真、朝ごはんは食べないと、本当に身体が持たないぞ」
「…食欲がありませんので」
……もうこれ以上黙って見過ごすわけにはいかない。俺はポケットからあるものを取り出すと斗真の前においた。
「どういうことですか」
「アンプルと薬だ。とりあえず1週間分はある。」
「必要ないです」
「発症しているんだろう!このままじゃ柚と同じ運命を辿るぞ!」
「どういう意味ですか」
「不純物は摂取しないというキリシタンの桜田家の代々続く伝統を守りたいとゆずは1度も薬を飲んでいない。。いつ最悪の事態が訪れてもおかしくない」
「…柚らしいですね。
私にはそんな伝統はありませんが、これは結衣にでも送ってやって下さい」
「どうして?なぜ飲まない、まだあのことに自責任を感じているのか?」
「葛城先生、どうせこの街の教会はもう閉鎖されます、この街のエクソシストはもう壊滅的です。この状況で、私だけが足掻いたところで何も変わりはしない。先生は学園を辞めたからわからないかもしれない、でもエクソシストが今学園でなんて言われているか知っていますか?イカれた信教宗教集団、狂った精神異常者に、 頭のおかしいカルト集団
確かにエクソシストはまだまだこの国に定着していない、未成年者が集まる学校ならばなおさらその傾向が顕著でした。だけど今までは境界線は保てていました。でも、あの事件後全てが台無しになった。先代のエクソシストたちが誇りを持ってたたかい、守り抜いてきたエクソシストの秩序や信念が、無駄になったのです。
事件を暴いたのは間違いでした」
「何だって?自分が何を言っているか分かっているのか!?あのままあの施設をないがしろにしていたら、、!」
「エクソシストの未来を繋ぐのも私たちの立派な役目だったはず。こうなった以上、誰も東京のこの街にはエクソシストは来たがらないでしょう、結果的に、エクソシストは募りにくくなった。日本中のエクソシストに迷惑をかけたのです。」
「迷惑、だって?」
「そうでしょう!?よそのエクソシストの不祥事のおかげでエクソシスト全体の評判を下げたのですから!
こんな状況なのに唯一同じ東京都のユマニテっく教会の神父から連絡一つない!彼らも、私たちを援助する気なんてないんですよ。もうエクソシストを辞めて一般市民に戻ったのかもしれませんね。」
「ずっとお前には言いたいことがあったが今はっきり言わせてもらう、俺はお前のその態度、性格が気に入らないのだ」
「何ですって」
「何かにつけて自分のことを卑下し死んでも良いだの罪人だのいって、エクソシズムにも簡単に命をかけ無茶な戦いをして、最初はそれは強い忠誠心と信仰からの賜だとおもった。
だけど、斗真、本当は神など信じていないだろう?
使命や運命という言葉で片付けて現実から目を背けている。
エクソシスト病を知ったときもお前だけは驚く程に冷静だった
君からエクソシストを取れば、君には何一つ残らない、。そうだろう?
自分がエクソシスト病を発病したと気づいたとき、こうおもったのでは?
ようやく、楽になれる、、と。
あなたはエクソシストをかろんじている。だから今、こうしてエクソシスト全体の危機に直面したら簡単に役目を放棄して降りようとしている。
斗真、君になぜいつまでも天啓が戻らないのか
教えてやろう
お前はずっと、彩香君の自殺が天啓を失った原因だと感じているようだが、
確かに彼女も原因の一つだった。だけど斗真には天啓を受けるべき資格が足りなかつた!
ずっと強く憎んでやまなかったいた人がいただろう!?それも、殺したいほどにー!」
「……っていますよ、」
「クリスチャンとして、聖書の教えにある当たり前の戒律が、お前には欠如していた」
「そんなこと、言われなくても分かっていましたよ!!!
自分が聖書の教えに背いた行動をしていることくらい!
フィオナは浮気などしていなかった。本当に私たちの誤解と母の悪魔の能力の影響だったこと。DNA鑑定を見て、ようやくわかりました。
でも、フィオナ自信がそう話した。私は教会でフィオナから生まれた、そんな確固たる事実を誰が疑いを持つでしょうか?誰もいなかった。
葛城先生だってつい最近まで知らなかったでしょう!?全ては傲慢な理由で契約を交わした繭と母と、代理母の話を持ち出した父、それを簡単に受けたフィオナ、そして才能目当てで私を引き取った強欲な叔父夫婦のせいで、私がどれほど苦しんだかあなたに分かりますか!?
ずっと夢だった神父になれて、お金にも恵まれ、天啓を得ていながらエクソシスト病にはかからないという奇跡的な身体を持って、今まで何不自由なく暮らしてきた葛城神父には分かるはずがない!
これで誰も憎まず、羨まず、寛大な心で受け入れるなんて、絶対にできないー」
「斗真、君の生まれや、育った環境は確かに過酷だった。それには同情するが、同じように厳しい環境に生まれた人間なんて山のようにいる。
瀬野は幼いときから浮気を繰り返す酷い母親だったし、柚は中学時代ずっといじめを受けて精神的に追い込まれていた。自分だけが、苦しんだわけじゃない。」
「天啓もない死にかけの私などいてもいなくても同じですよ。
私なんかより、日本中のエクソシストに声をかけた方がよっぽどマシじゃないですか」
「斗真!」




