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エクソシストの危機

紫色の修道服が瞬く間に鮮血に染まっていく、


一瞬何が起きたのか分からなかつた。それほど非日常的で、夢にさえ思っていなかったんだ。まさか、こんなことに、なるなんてー


「フィオナ!」


力なく倒れた彼女は目を閉じたまま微動だにしない。息をしているのかどうかすら、感じ取れない。


「まさか…そんな……

救急車を呼んでくれ!誰か!早く!」


必死で叫ぶけれど、だけど周りのシスターは皆叫び声を上げながら思い思いに四方へ逃げていき誰も立ち止まるものなどいない。


ユナン、ユナンは!?

いつの間にかどこにもユナンがいなくなっている。まさか逃げたのか!?



「誰でもいい。応急処置のできる者はいないのか!?」



なんで…誰一人フィオナを助けようとしないんだ?シスターの中には副業として、看護婦も大勢いるのに、見向きもしない、、なんで……

神に近き神聖な場所で暮らす純粋で汚れなきシスターとは到底思えない光景だった。



そのとき、こちらに歩いてくる一人の人影があった。


「斗真…」


「もう駄目ですね、手遅れです」


フィオナの首元に手を添えるとすぐさま離し、

恐ろしいほど冷めた口調で 心にもなくたんたんとただ義務を果たすためだけに余命宣告をする医者のように軽々とそれを口にした。


「自業自得ですよ、これだけの悪行をしてきたのですから、当然の報いです。」



「お前は、自分が何を言ってるのか分かっているのか!?自分の母親だろう!


彼女はお前を助けるために、命懸けで庇ったんだ!」


「……私はーー」


斗真は一瞬何か言いかけたけれど次に聞こえた声によってかき消された。



「こっちです!」


勢いよく開いた扉から、シスターに続いて、銃を構えた警察官が2人突入した。その後、続々と警察官が取り囲むように包囲する。そこには手錠をかけられたユナンも警官に連れられていた。


「八王子署警です!今からこの施設内を一斉立ち入り調査をしますので一般人は外に出てください!!」



「私が先導しますので、落ち着いて走らず冷静に移動して下さい!」




「負傷者がいるんです、すぐに救急車を呼んで下さい!!」




「……お気の毒ですがこの方はもう…」


その男はフィオナに近づき一瞬瞳孔を確認すりとすぐに向き直りそう冷たく告げた。


「嘘だ…そんなわけ、、まだ今なら間に合うだろ!?なぁ!」



「……救急隊員が到着するまでこの方は我々が見ます

葛城さん、あなたは重要参考人です、署まで同行願います」


「医者でもないくせに勝手なこと言うな!…辞めろ、離せ、フィオナ……待ってくれ、フィオナ〜!」





……side heroin……………………………………………


散乱した機材、生々しい血痕、

警官は慌ただしく走り回り、シスターらの喧騒は止まない。シスターの1人が担架に乗せられ運ばれていく。

そんな地獄のような惨状を、ただ見ていた。

ー見ていた

どのくらい時間が経っただろう、

誰かが私の肩を叩いた。


「結衣、大丈夫ですか?そろそろ出ましょう

ここは警察に任せて、こんなところにいたら気が滅入ってしまいます」


斗真さんだった。いつもと変わらぬ笑顔でそう告げる様子に安心よりも不安を煽った。


「フィオナさんが…

何もできなかった…何も…。助けられなかった…私が助けなければいけなかったのに…、私は…」


「結衣の責任ではないですよ。ここは危険です。早く外に出ましょう。」



目の前で殺されたんだよ?斗真さんを庇って、そこまでしてくれた人を、どうして、どうしてそんなふうに簡単に言えるの?


でも、ユナン神父の狙いは斗真さんではない、その後ろにいた私。きっとユナン神父は私を狙ってた。だから、不幸な偶然が重なった結果だ。私が怖くて斗真さんの後ろに隠れたりしなければ、、、



拾の親であってもなくても、フィオナさんは今まで斗真さんを愛していた。

だけど、彼の心は憎しみに染まったまま、彼女を見るその氷のような冷徹な瞳が、私にはただ怖かった。







あの立ち入りがあった日、この研究所の悪事は全て暴かれた。

地下で拷問及び処刑を行っていた研究員20名は全員逮捕された、残りの入院施設で働いていた職員数名は、嘘か誠か、地下の惨状を知らなかったとされすぐに解放され刑を逃れた。

エクソシスト病を発症して治療中だったエクソシスト数名は、八王子総合病院に入院が決まった。柚ちゃんもその1人だ。でも、難病のエクソシスト病は、国の病院にも出来ることなどないのが現状だ。

地下に収容されていた人間は、身元の判明した者は家族に連絡を取り帰っていった。だけど、ほとんどがもう手遅れに近い悪魔付きか、指名手配犯で、社会に出すことができないものは精神病院や、刑務所に入ることになった。

そして、このアトランティス教会の敷地の地下で強大な悪質な実験を行っていたことはニュースで報道され、世論を騒がせた。

アトランティス教会は、これ以上世間体を悪くしないためにも、市長の意向で元々運営も破綻しかけていたこの教会は今年いっぱいで閉鎖が決まってしまった。

そして、修道院のシスターのほとんどが、出ていった。

そして、病院に緊急搬送されたフィオナさんは、やはり助からなかった。


教会に近づくことができない私は、近くのホテルに身を寄せている。

あれから教会には1度も行っていない。斗真さんにも会っていなかった。


私はただ…暴きたかっただけだった。間違っていたものを。私はただ、悪いことから手を引いて欲しかっただけだった。

それなのに、逆に必要のない犠牲者を生んだだけだった。どちらが良かったのか、もう今となっては分からないー






…………………翌日 明朝……sideother…………………………


警察の事情聴取から解放され、教会に戻れたのは翌朝の明け方頃になっていた。

事情聴取とは名ばかりで、まるで尋問だった。幸い私には刑法的な処罰はくだらなかった。

だが教会に帰ったところで私に休まる暇などない。7時には学校に出勤しなければいけない、昨夜校長から呼び出しを受けている。おそらく私の処分に関しての話だ。言い訳をするつもりはない。教師の仕事が本業だったが今回の件でよく分かった。私はエクソシストにかける思いの方が強い。

だからどんな処罰が下ろうと私は受け入れる所存だ。


耳を塞いでも聞こえてくる朝からひっきりなしにかかる電話をコードから引き抜き席を立つ。

斗真は考えたいことがあるからといい部屋にこもったままだ。瀬野はよほどショックだったのか心ここにあらずといった様子で食事にも手をつけずテレビを虚ろな瞳でに見つめている。


「葛城神父、ちょっと、お話よろしいですか」


食堂に1人のシスターがやってきた。


「ああ、」


彼女と中庭までの道を歩く。

…おかしい、朝のミサの時間を過ぎているというのに誰もどこにも見当たらない。シスターの気配がなさすぎる。


中庭には他にも5人のシスターが待っていた。


「葛城司祭、お暇を、下さい。」


やはり、予感は的中した。


「君ら皆か?」


「はい、」




「他のシスターたちはどうした」


「それは…」


「出ていったんだな、何も言わずに…」


「私たちは、ただのしがないシスターです。ここなら、安全だと思っていました。だけど、そうじゃなかった。皆、怒っていました、葛城神父たちを信用していたのに、裏切られた気分だって、」


「裏切られた気分だと?それはこっちのセリフだ!!

なんでフィオナを見捨てた?今まで10年以上共に戦ってきた仲間だったのに!アトランティス教会の恥さらしだとは思わないのか!?

自分だけさっさと逃げて、あなたたちはシスターどころか、クリスチャン失格だ!!」


「辞めて下さい!!」


私の話を遮り前に立ったのは瀬野だった。


「彼女たちを責め立てたってフィオナシスターは帰ってきたりしません、それに…あの研究所を知りながら野放しにしていた葛城神父、あなたにも非はあると私は思います」


「………君は何も知らなさすぎたから、そんなことがいえるんだよ、瀬野」


「エクソシストも、シスターも、聖人でもなければ機械でもない、生身の人間です。命の危機に直面すれば逃げることは人間の本能です。葛城神父、あなたみたいに、神の御心のために自分を犠牲にできるような人間は、もういないんですよ。」


「……勝手にしなさい」


どんなときでも主の志に背いたりしない。たとえ命懸けであっても、、。

私は私の信念のために戦う。それについてこられない奴らならば必要ない。




………………………………………………………………



「すみません、葛城神父は今気が立っているだけです、許してあげて下さい。」


「あ…はい、私も、出過ぎた真似をしてしまい、すみません…」


「…あなたがたは、行く宛はあるのですか?」


「あ、それなら、修道長が長崎と長野の教会を紹介してくれて、私たちを受け入れて下さるそうです。」



「それは良かったです。」



「もう行こう、摩耶」


「うん…瀬野さん、今まで、ありがとうございました。」









「そんな大荷物でどこへいくんですか?」




「……と、斗真様…ごめんなさい、私…やっぱりさ、殺人事件のあった施設の隣に住むなんて…信仰心に迷いが出てしまいそうで、、私は、これからも変わらずシスターでいたいんです。だから、」


「分かっていますよ、冗談ですよ、皆さんの信仰心を疑うわけないじゃないですか、クリスチャンを辞めて世俗の人間に戻るだなんてこと、ありえないですからねえ?」


「……」


「では、私はもう学校へ生きますので。さようなら、お元気で」



「…斗真様も、」





………………………………………………………………


「噂のエクソシストらが来たぞ 」


登校するや否や、生徒らはまるで奇異なものを見るような目を向けて、ひそひそと陰口を叩きあっている。


よくは聞こえなくてもそれが俺らエクソシストに関する良くない噂であることは自明だった。



「優馬、おはよ!久しぶりだな〜」


そんな中周りの注もくも厭わずこちらに手を振って走ってくる男子生徒がいた。1年の頃からフェンシング部の部活仲間であり、同じクラスの友人の1人だった。


「ああ、おはよう、」


「県大会出場が決まったんだってな、おめでとう。悪いな、何も力になれなくて、


「任せとけって、お前は何も気にすることねえよ。フェンシング部がここまで大きくなれたのも、いつもお前が俺らを引っ張ってくれたからだ、今度は俺らが助ける番なだけさ。お前の事に蹴りがつくまでお前を信じて待ってるよ、」


「あはは、何らしくないこと言ってんだよ、」


「何だと、俺はお前を心配してだなー」


「分かってるよ、ありがとう」



「痛っ」


一瞬手の甲に何か固いものがぶつかったような鋭い痛みが走った。下には手で握られるくらいの石が落ちている。


「エクソシストのくせに法律を破ってた犯罪者だったなんてな」




「犯罪者は出ていけ!」




「この学校から出ていけよ、」



少し離れた場所から男子生徒数人がわざと周りに聞かせるような声で言っているようだった。


「勝手なこと言うなよ!優馬はこの事件とは関係ないだろ!?」


「は!どうだか、、恩師だった聖職者たちの秘密を今まで何にも知らなかったなんて嘘くさいだろ?

手を貸してたんじゃねえの?」


「メディアの情報しか知らない部外者がこれ以上勝手なこと抜かすとただじゃおかねえからな!!」


「ちっ…金魚の糞め!」


啓真が血相を変えて持ち歩いていたフェンシングを抜き取ると3人は捨て台詞を吐いて去っていった。


「大丈夫か?優馬」


「ああ、俺は平気だ。お前こそ危ない真似は辞めてくれ。俺のせいで喧嘩にでもなったら大変だ。」


「悪かったよ、あいつらは上辺だけで、優馬もそうだけど、エクソシストの奴らのことを何も分かっちゃいねえ。」



上辺だけ、か……

エクソシストは元もと嫌われていた。斗真や柚には風当たりが厳しかったことも。

俺は非難の嵐を直接浴びたのは今回が初めてだ。でも、、こんなものをあいつらは毎日受けていたかと思うと、正直気が滅入った。


紫苑寺は、、大丈夫だろうか。あいつは元から周りに味方が少ないから…

俺が言っても火に油を注ぐだけ…か。


事の顛末が収まるまで、フェンシング部は休部し、副部長の彼に任せてもらっている。


これからここは、どうなってしまうんだろう。

学校でもあの噂が広がり、俺にももうどうしようもできないほどだった。

寮に戻ると正門の前にシスターが2人俺を待っているように立っていた。


「こんばんは、どうしたんですか?」


「あ…私、色々考えたのだけど、やっぱりここを出て、長野の教会に映ることにしたの。」


「そうですか、それが最善ですよ。ここにいれば罪のないあなたにまで肩身の狭い思いをさせてしまうことになります。それに、東京にはもうまともなエクソシストがいませんから、長野の方がずっと安全でしょう。」


「うん。。ごめんなさいね、優ちゃん…

あなたが神父になるその日までそばで見守ると約束したのに、途中で放り出してしまったみたいで…」




「いえ、そんな、孤児院の頃から皆さんにはお世話になりっぱなしでした、それだけで私は充分です。どうか私のことは気にせず自分の信じた道に進んで下さい。」


「優ちゃん…ありがとう、あなたは本当に優しいいい子ね、」


「私は、本当はこの教会を出ていきたくなどないわ、ずっと、ここのシスターでいたかった。

るーえん神父がいて、寮生も沢山いて、笑いの絶えなかったあのときが、まるで遠い昔みたい。皆が、優ちゃんみたいな人だったら、こんなことにはならなかったかもしれないのに…」



「修道長も、お世話になりました。」


「ええ。気をつけてね。」



「修道長?あなたは、行かなくていいのですか?」


「私は、ここに残るわ。」


「え?でもここはもう」


「閉鎖、するのでしょ、今年いっぱいで。私はこのアトランティス教会のマザーよ。放り出したりしないわ。シスターが皆いなくなっても、教会が解放されているなら、最後のそのときまで、私はここでシスターとして生きる。……私には、悪魔も見えなかったし、今までエクソシストたちの力にはなれなかった。でも、私はずっと見てきたから」


「そう、ですか」


「あなたは、出ていきなさい。」


「え?」


「このままここでエクソシストを続ければあなたの寿命はどんどん縮まってしまう」


「修道長、知って、いたんですか」


「優ちゃんには、生きていてほしい。もうこんな悲劇は終わらせるべきよ、私は思うわ、天啓さえ降りなければ、エクソシストたちの悲惨な運命を辿ることはなかった、エクソシストなんて、いなければ、誰も死ななくて良かったのに」


「修道長……」


「ごめんなさいね、エクソシストがいなきゃこの街は混乱に陥ってしまうというのに、ね。でも、そう思えて仕方ないのよ。

…葛城様のこと、恨まないであげてほしい。彼はずっと、今まで1人ぼっちになっても、頑張ってくれていたのを知っている。…生きて、幸せになって。あなただけでも、、それが私の最後の願いよ。」


「……考えてみます。」




…………side other………………………………………


「はい、アトランティス教会神父葛城です。」


「多摩総合病院の院長ですが、悪魔付きと見られる患者が昨夜救急搬送されてきまして、今大変な時期であることは承知ですが、早急を要します。悪魔祓いを頼めますでしょうか?」


「構いません。今からそちらに向かいます。患者の容態は?」


………


「はい、こちらアトランティス教会神父葛城です。」


「すみません、家族が突然常軌を逸した様子で暴れ始めたんです。もしかしたら悪魔にでも憑かれたのかもしれません」


「どのような行動をとっていますか、詳細を教えて下さい。悪魔付きの行動は精神病患者と勘違いされやすいのです」


「はい、こちらアトランティス教会ー」


「ちょっと!一体、オタクの教会はどうなっているの!?犯罪者を使って人体実験してたらしいじゃない!その教会のエクソシストとやらは、秋霖学園に通ってるそうじゃない、」


「待って下さい、今回の事件とうちの生徒

たちは全くの無関係です!彼らは何も知りませんでしたし、一切関わりはありません!……違います、だから、、彼らはー」


「葛城神父、もう電源を切っておけばいいのに」


「そうすれば本当に必要な悪魔祓いの依頼が受け取れなくなる」


「悪魔祓い…ですか、このままでは、2人とも倒れてしまいますよ、私、心配なんです。私がここを出てからの2人のことを思うと…」


「修道長が気に病むことじゃないさ、心配いらない」

………………………




「おはようございます」


「ああ、おはよう、斗真」


「もう食べないのか?昨夜も夜遅くまで依頼だったのだ、このままじゃ身体が持たないぞ」


「いえ、食欲がないんです。………ゲホッゲホッ」


「…大丈夫なのか?昨日も」


「平気です。学校に生きますので」


……………





今日も入院患者の悪魔祓いに来ていた



ベッドに横たわった女性は手足と胴体を拘束された姿で口にはガーゼが押し込まれている。


「斗真、厳しいだろうが今日も前線で祈祷を頼めるか」


「分かっています」


「召喚なら私が…!」


「瀬野は下がっていなさい、」


「……」


「高潔なる天使、リヴァイアサンよ、父と子と精霊のみなにおいて彼女を悪より救い出せ。」


「汝の命に答えよう」


「悪魔アシュタルト、主のみなにおいてお前を封ず!」


私たちの周囲の空気がいっそう冷え込み、ドライアイスのように冷えた空気が白く淀んでいる。


召喚後、眩しいほどの煌々とした光につつまれた天使が舞い降りる


「汝の声に応えよう」


祈祷と十字架の効果が現れ悪魔付きの女性から悪魔が浮かび上がりそのおぞましい姿を表した。


「斗真、どうしたのですか?早く聖水散水機を!」



「は、はい」


斗真はふらふらした足止りで鞄から聖水を取り出し女性に振りかけた。

アシュタルトの眼球が白く濁り、血の涙を流した


悲鳴を上げてアシュタルトの影が部屋中に散った。


「契約者の元に命じる、戻れ」


リヴァイアサンを封じるとすぐに斗真の元に向かった。


「大丈夫ですか、斗真、顔色が悪いですが」




「……すみません、先に戻ります、後始末は、頼みます、、。」




「………」




「葛城神父、どう考えても3回連続天使の力を使うのは無茶ですよ!私も戦えます」


「駄目だ、これ以上お前の命を減らす真似は私が許さない」




残ったのは取り憑かれた女性の惨事を物語る血の跡と、傷だらけになったエクソシストだけだった。











それから2日後、元々厳しかったエクソシスト隊の状況をさらに追い込むような出来事が起きた。

瀬野がいなくなった。朝、起きてこない瀬野を起こしにいった部屋には、何一つ残っていなかった。

学校に電話したが登校しておらず、携帯にも繋がらない。彼は孤児だから、頼れる身内もいなかった私は、為す術もなかった。捜索願いを出すという手もあったが、彼はもうすぐ成人だ。自分の意志で出ていったなら、今更見つけて連れ戻したところで私は彼を引き止められる自信はない。それに、今の現状を考えれば出ていくのも仕方がない。


でも、瀬野とはこの10年以上、共に過ごしてきた息子のような存在だった。あの施設とエクソシスト病を知ってから落ち込んでいたが、それでも悪魔祓いには参加してくれていたし、彼なら立ち直ってくれるだろうと思っていたのに。






もうだめだ、悪魔祓いの依頼が多すぎる。

悪魔の数も日に日に増えるばかりで、柚に加えてフィオナとユナンまでいなくなったこの隊はもはや壊滅寸前だ。他の地区もこちらに異動できるほど人員はいないというし、斗真はあんな状態だし、

もう到底私たち2人だけでは無理だ。

最後の手段に出ることにした


……side heroin………………………………………



私の身を寄せているホテルに葛城神父が尋ねてきたのは、あれから五日後だった。



「か、葛城神父……どうして」


「頼みが、あってきた」


「頼み…?」


「……私が、またエクソシストを、、ですか」



「君だって、手詰まりなんだろう?まだアジトの場所だってわからない

それに…そろそろアンプルが切れるころだろう。薬は限りはあるがまだここにある。薬を渡す代わりに、もう一度ここでエクソシストたちを手伝ってくれないか、」


……


「シスターのことは気にしなくていい。随分数も減ったから、君を疎んでいた人たちはほとんどがもういない。それに、、君だって、今は斗真のことが心配なんじゃないのか?」


「……私にできることなんて何もありません。天恵も来ないと分かっているどころか、私の存在は逆に悪魔を呼び寄せるメデューサです。それに…私はもうエクソシストをする資格なんてない」


私は罪人だ、悪魔に身を売った裏切り者、

純粋で、汚れなき神の御心を受け継いだエクソシストたちとはもう同じ道を歩けない。それにー、


「そんなことはない。天恵がなくても君は才能がある。

それにこの間は1人で悪魔憑きの女性を救ったと聞いたよ」


「あれは、悪魔を取り逃がしてしまった時点で失敗です。私が、あのときちゃんと悪魔を、封印できていれば…フィオナさんは……」


「フィオナが悪魔憑きだと知っていたのか」


「…瀬野さんが塞ぎ込んでしまったのも、ユナン神父を犯罪に手を染めさそてしまったのも、元はと言えば私が悪魔憑きの魔人だったから。

フィオナさんがああなったのも私のせいです。私はもう誰も失いたくないし、傷ついてほしくない。会わす顔も、ないですけど…だから

私は戻れません。」


「意地をはっている場合ではないんだよ、結衣、もうアトランティス教会は閉鎖するんだ。

あの事件のあと、私たちは教会と施設の関わりはないと何度も訴えた、教会は残してほしいと、でも、から、市役所の意向で、これ以上世間を騒がせないためにも、取り壊しが決まったんだよ。隣の修道院も一緒に、今月末には壊されるだろう。


白百合寮と孤児院だけは存続させてもらえたが、寮生の最低定員は4人だ、このままでは定員割れで白百合寮も閉鎖しなければならない。なにより、もううちのエクソシスト隊は、異常なんだ、私1人で悪魔祓いに出ている、もう隊として機能していないんだ。」


葛城神父は白百合寮に来てから、必要なお金は全て先生が立て替えてくれていた。寮の家賃も、高校の授業費も、教科書代や、医療費、その他日常生活に必要な衣服などの日用品、普通ならば親が払うものを全て、葛城神父には本当に感謝している。でもー、


「なぜ葛城神父は私にそこまでするのですか?エクソシストが人員不足なのは知っています。今まで先生たちに返しきれないくらい恩を受けたし、それは今でも感謝しています。でも私はもうエクソシストにはなれません」


「………瀬野が、一週間前に寮を出て行った。事件のショックでずっと塞ぎ込んでいたが、荷物が全て無くなっていた


斗真は、エクソシスト病の初期症状を発症しているから、あまり前線で戦えない。それに彼もそうとう、参っているしな」


「エクソシスト病!?そんなまさか、だって彼は天恵を受けてないじゃないですか!」


「昔大きな力を使った分が、随分身体に負荷がかかっていたはずだ、天恵の代償は九割以上の人間が必ず発症する。その対価が今になって発症しただけのことだ。

お願いだ、結衣、本当にこのままではうちの隊は終わりだ。助けてくれ、頼む」


彼は玄関の前で頭を深く下げていた。


「少し…考える時間を下さい。」


辞めて、、私なんかにそんなことをしてもらう価値はないのに、


扉を閉めてカーテンをしめ、ロックをかけた。

……

あんな弱気な葛城神父は初めてみた。

私は間違っているだろうか、簡単な悪魔ははらえるけれど、天啓のない私にはろくな力はない。何も力になんてなれない。それどころか、私を守るために斗真さんたちは身をキケンに晒すことになるだろう。

それとも、戦うべきなのだろうか。どれだけ称賛がなくても、恨まれても、蔑まれても、それが償いだとでもいうのだろうか。

ううん、もう嫌だ。私が何かすることで、誰かがいつも傷つく。





呪いの影響で学校は欠席していた、でも私は学校にとってはただの不登校扱いになっているらしい。

今は調子は悪くないし、3年生に進級できないのは困る。学校…行くしかない、か。



私は翌日、ほぼ半月ぶりに学校に来た。

周囲の視線を一概に浴びて、全く落ち着けやしない1日だった。

ようやく放課後になり廊下に出ようとしたとき、先生から呼び止められた。


「今日は来てくれてありがとな。この調子で明日もよろしく頼むな」


「……はい」


ホテルに戻る下校のさなか、見知った顔を見つけた。

斗真さんだ


「…結衣」




「久しぶりですね、先生にこのままじゃ進級できないと言われて…今はくすりもあるし、とりあえず修了式までは来ようと思います」


斗真さんはずっと俯いたまま何も言わない。



そして無言で何かの資料を手渡した。


「聖バルビレッジ教会…?」


「長崎の佐世保にある、バルビレッジ教会、日本で最もエクソシストが多く、エクソシストに理解のある教会です。そこならば受け入れてくれるかもしれない。」





「私に…東京から出ていけというのですか?」


「…あなたが来たところで、もううちの隊は今やほぼ壊滅的です。

私はもうじき、柚や先代エクソシストのようにだんだん闘えなくなります。葛城先生はやる気かもしれないけど、彼一人でどうやって東京の悪魔を祓うのですか?」


「エクソシスト病のことは私が今、調べています。悪魔結社の場所さえ掴めれば、瀬野さんもいつか必ず帰ってきますよ。」


「いつまでそんな夢見事をいうつもりですか!」



「エクソシスト病の対抗薬を開発できる人間はもういないんです!

あなたがその研究所を訴えてしまったからね!

悪魔結社のアジトを突き止めるなんて無駄です

簡単に見つかるわけがない、仮に見つけたとして、裏切り者として、生贄にされていたあなたが何をいうのですか?

アンプルを半分わけてくれと言っておめおめと渡すとでも?」



「…斗真さんは……

これでいいんですか?天啓も戻らないまま、エクソシストでいられなくなって、そのまま何も出来ずに死を待つなんて、それでいいんですか?


罪を償うために、今までクリスチャンとして、

天啓を再び手に入れて戦うことがあなたの最大の使命なんじゃなかったんですか?」


「あなたに、私の何が分かるのですか!!

使命でしたよ、私の悲願でしたよ、エクソシストは、私の全てでした。

でも、

たった1人で戦わなければいけない私の気持ちが分かりますか?

周りからは疎まれ蔑まれて、非難の声ばかりで、唯一の仲間だった彼らもいなくなり、誰一人味方がいない中で、戦わなければいけない私の気持ちが!……結衣、もう分かっていたと思いますが、作戦は失敗です。

私は結衣を助けることができそうにありません。これは、私の個人的なお願いです。もう私たちのことは忘れて下さい。」


「斗真さん…」



何が、あったというのだろう。今まで、どんな目にあっても、いつも、どんな時でも私を守ってくれると、私の味方だとしんじてやまなかった彼から、突き放すように言われ、胸が痛んだ。



「分かり、ました。今まで、私を、守ってくれて、もう一度、友達になってくれて、ありがとう。さようなら、、」


「結衣、あなた…」


斗真さんが何か言いかけたけれど、私は聞かなかったフリをした。











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