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最期の反撃






瀬野さんたちが悪魔狩りにきているかもしれない。力を使ってはダメだっ止めないとー、


八王子湖の畔にある貯水ダムに一人の女性が佇んでいた。真冬にも関わらず肩を大きく開いた服装に頭から全身水をかぶったのかずぶ濡れで、この時間帯も考えると、明らかに不自然だった。

遠目でも聞こえるほど何か日本語ではない言語をブツブツと呟き、目は虚ろで焦点があっていない。やはり、悪魔付きだ。


しかし既に人間に取り付いていたのが厄介だ。この女性は多分、精神が弱っていたのね。それに漬け込んで支配しようなんて、許せない。

私は警戒しながら見つからないように先程よりもさらに距離を縮め、気づく。上級の悪魔だ。

気配こそそんなに強くなかったのに、、上級悪魔だなんて、、気配を消していたのね。



「天の父にめいをくだしたまわんことを伏して願う

天軍の総士霊魂を損なわんとしてこの世を徘徊するサタン 数多の悪魔を、天主のお力により地獄に閉じ込め給え」


距離を保ちながら

祈りの言葉を口にしたが、しかし女性は全く苦しむ素振りすら見せない。



今まで病院の入院患者しか祓ったことはなかったし、一人の悪魔祓いは初めてのため緊張感が押し寄せる。


女性は近くにある鉄パイプ製の柵を握ると、そのままゴムのようにぐにゃりと曲げて折った。

やはり人間の所業ではない。

周囲からはおぞましいほど強い冷気が溢れ出している。


十字架を女性の前に掲げると祈祷の言葉を読み上げた。


「悪魔、悪霊、全ての邪悪なるものよ、そこから出て行きなさい!」


即座に聖水散水機で聖水を女性の額に振り撒いた。


悪魔の断末魔が夜の闇に響いた。


「下衆な人間どもめ、、!この女は俺のもんだ、邪魔をするな…!!」


直接脳裏に響いてくるようなおぞましい悪魔の声がきこえた。


「お前の名を明かしなさい!」


「フ…お前の名を知っているぞ 円城寺結衣 エクソシストの皮を被った悪魔だ」


「な、なぜ私の名前を…」


「……奴らが待っている」


「え?」



「おい!そこをどけ!」


「きゃ」


突然横から突き飛ばされ振り向くと聖水と日本刀を手にした瀬野さんが立っていた。


「瀬野さん!どうして来たんですか?」


「はあ?気配がしたから悪魔狩りのために決まってるだろ」


突然女性の身体から抜き出た悪魔は

凄まじい並外れたスピードでまっすぐに瀬野さんに襲いかかった


応援を要請しようとしたのだろう、無線機を取り出したが、反動で取り落とした。


無線機に目を取られている間に悪魔は、周りに巻かれた聖水を全てなぎ倒して襲いかかる。


瀬野さんは咄嗟に刀で相手の攻撃を防いだが力が強すぎたのか後ろに倒れ込み覆いかぶさる形になってしまう。




「危ない!」


私は咄嗟に目をつぶった。

……

でもいつまでたっても衝撃音も声も聞こえてこない。私は恐る恐る目を開ける。




どうやって交わしたのか、先程と同じように向かい合う形で悪魔と瀬野さんが立っている。どうやら身を挺して交わしたようだ。でもよく見ると瀬野さんの右肩の部分の制服が敗れ血が滲んでいる。


瀬野さんは瞬く間に聖水を近くの地面にふりかけ、自身のたつ地面のまわりに召喚陣を描き始める。


瀬野さんはロザリオに口付けをしかざす


「高潔なる天使 ジークフリートー」


閃光が煌めきあたりは白い光につつまれる。

天使を召喚するつもりだ。




「瀬野さん!ダメ!!」


「え?」


「召喚してはダメ!!」


私は身を翻して瀬野さんの背中に飛び込んだ。


強い聖なる力で守られている身体は熱湯よりも熱く鋭い針で体中を貫かれたように激しい痛みが走る





「な…!?円城寺!?何やってんだ!離れろ!!」


「エクソシズムを、使っては、ダメです!

もしどうしてもというのなら、天使は呼ばないで下さい!」




「貴様ふざけているのか?

お前死ぬつもりか!?」


「い、嫌です!絶対に…!お願いします!今は、今だけは呼んではダメです!」



「………分かった。だからとにかく離せ」



観念したのか瀬野さんは聖書を閉じた。

私は瀬野さんから離れた。身体中が痺れて立っているのもやっとだった。




気配を察知したのかエクソシスト隊が向こうからかけてくるのが見えた。

葛城先生と斗真さんに、修道長だった。私は何とか引きずるようにして路地裏に隠れた。


「大丈夫ですか!?」


「私は平気です。この女性は気を失っているだけです。もう取り憑かれてはいません。すみません、悪魔を逃がしてしまいました…」


「…2人が無事なら、何よりだわ。私の車で病院まで連れていきましょうか?」


「そうですね。お願いします。修道長、斗真と俺は逃げた悪魔の行方を追おう。瀬野は怪我をしているようだし、修道長と病院に行きなさい」


「いえ、大した怪我ではありません。寮に戻って自分で手当しますので、お気遣いなく」


「そうか…分かった。なるべく人気のない場所は避けるのだよ。気をつけて」


「はい。」


私は皆が見えなくなったのを見計らうと、隠れていた物陰から出た。






「一体何のつもりか話してもらおうか」


瀬野さんは鋭い目付きで睨みながら冷たく告げた。


「…瀬野さん、ひとつ、私の質問に正直に答えて下さい。瀬野さんは、夢はありますか?」


「は?」


「将来の夢です、大人になったあとの」


「それは……もちろん。私はずっと葛城神父やユナン神父のような司祭になり教会を支え続ける、それが私の運命であり使命だ。」


「そうですか、以前も言ってましたね。素敵な夢です。きっと瀬野さんならなれます。立派な神父に。……だから、今後一切悪魔祓いをしないで下さい」


「…は?」


「瀬野さんは天啓を得たエクソシストですから、もう金輪際、エクソシズムを使ってはいけません」


「お前、何を言っているんだ?」


「自分の意思でできるなら天使の契約を解除して下さい。」


「お前…自分が何を言ってるか分かっているのか!?」


「幼いころからクリスチャンだった瀬野さんにとって天啓はどれほど重いものか分かっています。エクソシストにかける重いも。

でも

その天使はあなたの生命力で動きます。

このままエクソシズムを続ければ八割以上の確率で瀬野さんは20歳までにエクソシスト病と呼ばれる不治の病で必ず死にます。」


「…お前、、、バカなのか?また呪いで頭がイカれたんじゃないのか?」


「天使の力は人間には相当不可がかかります。何の代償もなしに力を得つづけることなんてできない!


柚ちゃんが…八王子病院にいないことも、知っていますか?」


「は…?」


「柚ちゃんはエクソシスト病を発症して、教会の地下にある病院で入院しています。でも、もう長くありません……。」


「教会の地下?病院だと?」


「はい。教会の地下深くに大きな研究所があるんです。そこにはかつてエクソシスト病にかかった患者が、入院と称して閉じ込められています。さらに地下では悪魔祓い後も、更生することの叶わなかった魔人が、監獄のような酷い環境で収容されています。私は三日前、ユナン神父に連れられて監獄に閉じ込められて、殺されかけました。

この教会の中でも、誰が黒なのか、まだよくわかりません。でもフィオナさんとユナン神父は確実に関わっています。」





「お前、私を貶めようとしているのだろう、そんな出任せを言って!分かっているんだぞ、お前が向こう側の人間だったことも、お前の罪も全て!そうやって巧みに操ってエクソシストを減らしたいんだろう!?お前らにはエクソシストは邪魔だからな…!」



!やっぱり…瀬野さんは知ってたんだ、、

でも、たとえ憎まれていると分かっても、瀬野さんには先代のエクソシストと同じ運命を辿ってほしくない。生きていてほしいと願う気持ちが、自分でも驚く程に強くなっている。心の奥深くから湧き上がってくるこの感情が何なのか、私には分からなかった。


「…私は、確かにかつてハルフィアにいました。でも、今はエクソシストの味方です。

瀬野さん、明日の夜、その地下施設で行われている惨状を、修道院中に知らせようと思います。斗真さんから連絡があったら、教会の裏門と、孤児院のあいだにある路地裏まで来てください。お願いします。」


「ふざけるな!!ユナン神父を侮辱するような戯れ言を…!!」


通りに向かって早足で歩いていってしまう瀬野さんに必死でついて行く。


「瀬野さん!目を背けないで下さい!!


先輩エクソシストの誰とも連絡が取れなかったでしょう!?それは皆エクソシスト病にかかりそのまま亡くなったから。地方左遷や戦死なんていうデータは嘘です!」


タクシーを引き止めて乗り込もうとする瀬野さんの腕を引き止めたがすぐに振り払われてしまう。


「五月蝿い五月蝿い!!出ていけ!!もう二度と顔も見たくない!」


「私、ずっと待ってますから…!信じていますから!!」


扉を閉めて去っていく車にむかって叫んだ。


「…信じています。瀬野さんの信念が、偽りではないことを…。」


………………………………………………………………


ホテルに戻り、私は先程の出来事を思い返していた。あの悪魔…どうして私の名前を?それに、奴らが待ってるって……もしかして、ハルフィアのこと、知っている?あの悪魔を追えば…ハルフィアのアジトを教えてくれる?いや、そんな簡単に上手くいくはずがない。私は二重契約できるほど強くないし、、それにあの悪魔は野良だ、ハルフィアに帰るとは限らないか。



…………………Thestrategeday…………………………






瀬野さん……私は、瀬野さんに憎まれても、嫌われても構わない。だけど…瀬野さんにはやっぱり柚ちゃんのようになってほしくない。

葛城先生と天使の力を借り、教会の地下で入院している柚ちゃんのビジョンを私の精神に見せてもらった。。……あの研究所の悪事が無事暴けたら、柚ちゃんや、今、まだ生きてエクソシスト秒と戦っているエクソシストたちを、必ず普通の病院に連れていく。そう約束した。

たとえ、治る見込みがなくてもー、、。


私は、この研究所を暴いて、どうしたいのだろう。

ユナン神父たちのやっていることは決して許せない。だけど、ユナン神父やフィオナさんにとってはあれが、、正義なんだ。その研究所で働く人達もきっと。フィオナさんにはさんざん騙されて上手い嘘で丸め込まれて、ユナン神父には殺されかけたけれど…。

…2人を追い詰めたいわけじゃない。



そうこうしているうちに、斗真さんから、ユナン神父が動いたと連絡が入った。


私はすぐにホテルを出て待ち合わせ場所に向かったが、そこで予想外の事態が起きた。待ち合わせ場所には人1人いなかった。

どうして?誰もいないの!?連絡があってからまだ10分ほどしか過ぎていない。皆そろそろ来ていい頃合なのに…!


もしかして、何かあったんじゃ…?

もう先に入ったのかもしれない。

私はもう半刻待ったが誰も現れなかったため、1人で侵入した。

あらかじめ壁の仕掛けは葛城先生から聞いていたため、開くことができた。正門はセキュリティー管理されているため、部外者は下水道の地下通路から入るように言われている、しばらく下水道を歩いていると、小さな小屋のような建物がある。その中に、研究所の地下牢へと続く通気口があると言われていた。私は

1人で狭い通気口を進んでいく。しばらく進むと開けたところに出た。

集合場所のB7階の、誰も使用していない地下牢の一角にでた。むせかえるさびたような鉄の匂いと悪臭が充満している。


やはり、、誰もいない。私は不安に駆られた。葛城先生が先回りしB7の階の研究員を捕らえている間に斗真さんたちがシスターを連れてこの地下通路から研究所に侵入する計画だ。修道院で何か問題が起きたのだろうか。

改めて携帯を見ると斗真さんからメールが来ていた。


《少し予定が変更になりました。私たちは今中央制御室に集まっています。結衣もこちらに来てください。》


中央制御室……確かここを進んだ先の奥の扉だったわよね。


扉を開けた先に待ち受けていたのは、シスターでも葛城先生でも斗真さんでもなかった。


「ごきげんよう、結衣。」


「!どうして…フィオナさんが」


中央制御室の椅子に座りながら嘲笑うような嫌な笑みを浮かべながら振り返った。


「どうしてあなたが…!皆はどこ!?」


「あんたたちが何を企んでいたかなんて、丸わかりなんだよねえ。」


「え?」


「あの携帯メールは私が送った偽メール、残念ながらユナンはここには来ないわ。」



「そんな…先に来てたはずの葛城先生は!?どうしたの!?」



「葛城?さあ?ここには来てないわよ、

裏切ったんじゃない?」


「そんな、まさか…」


「通気口から入るなんてなかなかやるわね、でも今頃あの下水道から地下通路は警備員でうようよしてるんじゃないかしら?」



「……あなたは…何なの?」



「私はここの断罪人、フィオナスカーレットよ。あの電動鋸どうだった?最高に震えるほど興奮したでしょう??


生きてでられると思わないことね、でもすぐに殺しちゃったら断罪の楽しみがなくなるわねぇ、、

どんな拷問をしてあげようかしら、、手の指を1本ずつ切り落としていく貼り付けの系とかどう?それとも爪を1枚ずつ剥がす拷問道具も楽しそうねぇ…!!」




「ずっと、嘘、ついてたの…?」


「は?」




「フィオナさん、言ったよね、私に。

お腹の子は斗真さんの両親の子だって!代理母として受精卵を移植しただけだって!

私たちが誤解しているだけで2人に愛はなかったって!」


「……あはは、あははははははは!!!!!!」



突然ゼンマイの巻かれた人形のようにけたたましく高笑い始める


「今更何ほざいてんの??まさか本気で騙されてたなんてね!!どうだった、私の会心の演技??」


「どうして…?どうしてわざわざ、あんな嘘を…!信じて、いたのに…フィオナさんのこと、いいひとだって、、」



一瞬、フィオナさんを纏う空気が変化したような感じがした。フィオナさんは頭を抑えながら苦しそうに私を睨む。


「はっ またそれなの、どうして どうして どうして

あんたはいつもそう、そればっかり、自分では何にも考えようとしない、それで答えが得られてもそれで終わり。その先は考えられない。

あんたの頭の中は空っぽなのよね!?」


「……フィオナさん、、?」


「そうやって!いつもいつも悲劇のヒロイン気取りもいいとこよ!!

それじゃあ本当のことを言ってあんたはそれで納得したの?」


「だって、フィオナさんは…今まで、私に…

あんなに、」



何かが違う、先程までと。ほんの少しだけだ。でも確かに違う、雰囲気が、空気が、瞳が、、。



「は、何言ってんの、あたしははなから神なんて信じてないしエクソシストなんて微塵も興味ないわよ

なに悲劇のヒロインぶってるわけ?でもあの程度であっけなく死ぬんなら、私には見合わなかったってことねー。あはははは!!」




!バン!


そのとき、制御室の扉が勢いよく開いた。





………………sideother…………………………………


「結衣!大丈夫ですか!?」


斗真が勢いよく中央制御室の扉を蹴るように開いた。

なぜか斗真の携帯電話が通信障害を起こし結衣に届かなくなり、連絡が取れなくなっていた結衣に、ハッキングに気づいた私が、結衣の居場所と黒幕を知り、身の危険を感じて少し予定は早いが部屋で寝ていたユナンを無理やり縛って、連れてきたのだった。

やはり、予想は的中した。


縛られた状態のユナンは斗真により無造作に投げ入れられた。

続いて大勢のシスターたちが入ってきた。


フィオナはきっと私たちがこの施設を暴くことを薄々感ずいていたのだろうか、厳しい表情で私たちを睨んでいるだけで焦った様子も抵抗しようとする素振りはない。


「私は聖アトランティス教会の神父葛城誠人、この地下研究所で無断で行われている拷問及び隔離、人体実験、断罪は法律に違反しています。既に幹部であるユナントランディーノ、フィオナガーランドは捕らえました。もうハン国もすれば次期に警察が来るでしよう。今管内に残っている全ての研究員はB7階の大広間まで来なさい。」


館内放送のスイッチをオンにして手短に告げた。


「既にこちらには全修道院のシスター、並びにエクソシスト全員が揃っています。無駄な抵抗はやめて投降しなさい。我々はあなたがたに危害を加えるつもりはありません。今、投降すれば罪は軽くすみます。繰り返します、



研究所といってもここはまだ小さなものだ。地下牢とエデンの園の研究いんを合わせても50人ほどだろう。既に入り口の警備員とこの階の研究員を抑えてあるから、今残っているのはもうあとわずかのはずだ。


ユナンはすっかり脱力したように空虚な瞳で虚空を見つめて項垂れている。

修道長は慣れた手つきでコンピュータのデータをUSBに移行している。


結衣は地下牢の監獄に収容されている囚人が映し出されるはコンピュータの監視カメラの画像を驚愕と絶望の眼差しで見ている


結衣の意見を聞いたとき、衝撃を受けた。でもー、

そうか……こうすれば良かったんだ。俺は間違っていたのか。



俺は、あのとき逃げたんだ、それは分かっていた。でも、自分は正しいことをした、やれるべきことはやったのだと思い込んでいた。エクソシスト病が低迷し始め、研究も発展せずエクソシストたちは解剖され遺体が供養されることもなく放任され、悪魔使いのこうせい施設のはずが拷問と処刑だけの血に塗れた地獄のような施設とかしたここから、まだ苦しむ教え子らを見捨てて、

俺は、あのとき、現役エクソシストたちに何をした?エクソシストに未来はないからエクソシストをやめろと言って回っただけだ。ここの現状を話もせずに、それで自分の役目は終わったと思い込んでー、






ガタン!


背後で大きな物音と誰かの怒りの満ちた叫び声がきこえた。

ユナンが縛られていた椅子が蹴られてそのまま前倒しになっている。


「よくもうちの大事なエクソシストを手にかけようとしてくれましたね…!!」


「許せない!許せない!許せない!許せない!」


頭上から容赦なく近くにあった機材や資料を手当り次第に何度も何度も振り下ろす。

他のシスターたちも戸惑い驚いた表情をしている。

突然の変貌に訳が分からず為す術もなかった。


正直、見ていられなかった。



「辞めて!」


庇うように立ちはだかって止めたのは意外にもフィオナだった。




「こんなクズを庇うのですか?あなたも利用されていただけなのに?」



「ユナン神父は私の…恩師です。何が…あっても。」


「は!今更罪を軽くするために善人ぶったって無駄ですよ。この女はフィンランドでは有名な極悪指名手配犯ですしね。。あなたのせいで、私や繭の人生をどんなにめちゃくちゃにされたか…!どれだけ服役したって、罪は償われはしません…!」


円城寺繭…斗真の義理の姉で、弱っていたところをクラウスに魅入られたばかりに、悪魔に身を売り人生を狂わされた哀れな少女ー



「刑を逃れる気はないわ。私は受け入れる、どんな結果であっても。…分かっていた。こんなやり方が正しいわけがないって。罪だって、分かっていた。でもユナン神父は、私が教会を追い出され荒野でさまよっていた私に手を差し伸べてくれた、私と、斗真、あなたの命の恩人だった。裏切りたくなかった。信じたかった。…ごめんなさい。」


「今まで2年以上ずっと無慈悲にその手を汚し続けていたくせに、、何を今更…!」


フィオナ……



「さっきからだんまりですね。ユナン神父、少なくともフィオナは明かしたというのに、あなたは弁明もないんですか?」


「斗真様…こんなことをいっては忍びないとは思いますが、ユナン神父は本当にこの件に関わっているのですか?捕まえた研究員の話にも彼の名前は出てこないようですし、、仮にも彼は優秀なエクソシストです。もし間違いであれば彼を抜かれるとこの教会のエクソシスト隊はかなり追い込まれます」


捕らえた研究員の一人を尋問していた修道長が話を遮った。


「いいえ、彼はここの幹部、リーダーに近い役職です。必ず、決定的に関わっています。それに皆、騙されないで下さい!この男はエクソシストなんかじゃありません

なんの力もない、ただの一般人ですよ」


侮蔑に満ちた冷たい眼差しでユナンを見下ろして吐き捨てた。


「え!?」


シスターたちの目線が一斉にユナンに向けられる。

フィオナの過去は大体知れ渡っている、だがユナンのことは皆神父として尊敬していただろう。それが今、ようやく覆ろうとしている。


「あなたは、最後まで、天啓を得ることを許して貰えなかった、大罪人、そうですよねえ?」


「天啓を、得られなかった…って?」


「この男は、ルーエン神父の元で長年修行しながらも天啓が降りなかったんですよ、20歳のその時まで、1度もね。」



「じゃあ、

ずっと私たちを騙してエクソシストの講師なんかをやってたんですか!?

いつも、さも現役の頃は優秀だったかのように話して…!」


背後でシスターの1人が叫ぶ。


「エクソシスト病のこと、自分には関係ないからそんなことができたんじゃないですか?あんな非人道的な実験紛いのこと! 」



その第一声につられて他のシスターも次々に飛び交う。



「あなたは神父なんかじゃない!神父の皮をかぶった悪魔よ!」



そろそろ警察が到着する頃合だろう。ユナンたちの研究が無意味だったとは思わない。実際、エクソシスト廟の進行を抑える薬を開発できなかったら、斗真も柚もとっくに死んでいただろう。


ユナンももう終わり、か。。




「……私だって……私だって、エクソシストになりたかった!!」


今までずっと黙り込んでいたユナンは突然声を上げて立ち上がった。

どうやって縄を解いたのだろう、

私は祭服の懐から取り出した物体を見て硬直した。

ハンドガン、だった。

その銃口はまっすぐに斗真に向けられていた。


「嘘、でしょ……」


「ユナン神父…?」



「きゃあああ!」


シスターたちは驚き目を見開き現実を受け入れられていない発言をするものや、身動きひとつできず立ち尽くすもの、断末魔を上げて逃げるものなど様々だった。斗真は自分が狙われているにも関わらず表情ひとつ変えずユナンを睨みつけたまま微動だにしない。


ふと隣の瀬野を見るとまるで茫然自失といったような商店の合わない呆けた表情でよろよろと後ずさりそして身体の全ての力が抜けきったあとかのように、その場にへたり込んでいる。

そりゃあそうか、あれだけ師匠と崇めて止まなかった人がエクソシストですらなくただの一般人どころか、こんな史上最悪の研究所を作ってエクソシストたちを実験だいに使い、今こうやって、殺人すら犯そうとしている。



助けなければいけない、この一瞬で。1秒のミスも許されない、私が、

懐から聖水をゆっくり取り出し気づかれないよう地面に巻く。

召喚陣がなくても錬成は可能だ、私の力ならば、きっとー。

両手を構えたその刹那、聞こえるはずのない、笑い声がきこえた。背後のシスターたちの嗚咽、断末魔に紛れて、それは笑いを堪えるの必死なように途切れ途切れに聞こえる、私たちを嘲笑い、この状況を楽しんでいるかのような、

不気味な笑い声、、、


誰だ、一体?


私が呪文を唱え終わる真近、シスターの輪の中の誰かが横から飛び出し、斗真の身体を突き飛ばしたのと、凄まじい銃声が当たりに響いたのは、ほぼ同じタイミングだった。

次回は 悲劇の始まり をお送りします

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