穢れた血の祖先
「結衣…あなた……悪魔の呪いを受けていますね、」
……
私は浅はかだった
同じ遺伝子ではない、全くの別人であるあの人と私は、
優秀な祓魔師が揃っているこの教会で、
いつかは見破られても仕方がないと思っていた。でも、こんなに早く、誰が想像できたのだろう
否、私は考えるのを放棄していたのだ。あの日からずっと、私は、この教会のエクソシスト達を助けるためという名目を掲げて、私は勝手に自分の居場所を作り上げた。
誰の許可も得ずに、本当のことを隠したまま、
だから、罰が当たったのだろうか
その日は、いつものように、朝食を終わらせ、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた最中、ユナン神父が突然私の腕を引きとめた。
最近、彼の姿を教会でも修道院でも見なかったし、悪魔祓いにも参加しておらず、臨時で葛城先生が来てくれていた。だから、数日ぶりに突然現れたときには驚いた
そしてその表情は、酷く険しく、その真剣さは今までのどの私の知るユナン神父とも違った
「ずっと些細な違和感がありました
悪魔付きの気配とも、エクソシストのそれとも違う、この世界で感じたことのない違和感
異分子、とでもいうのか
私はずっとあなたを調べていました 皆の知る松永結衣ではなく、今ここにいる あなたという存在を」
彼は私に目もくれずに俯きながらポッポつと話し出す
「何を、言ってるんですか?」
「あなたは、松永結衣ではない、彼女のフリをしているだけ、そうだろう、魔人」
キッと睨むように私を見て、その言葉に、私の予想していたそれとはズレた予測に、私は何が何だか余計にわけがわからなくなった
「…私が、魔人?冗談は辞めてください、戸籍はなくても、私を知る人がたくさんいます、それに、斗真さんが、教会の皆さんが私を見間違えるわけないじゃ、ないですか」
油断、していなかった訳じゃない。でも、私はこのユナン神父という人物のことを、何も知らない、エクソシストの講師けん、教会の神父という事実以外、
「私が、松永結衣じゃないなら、一体誰だって、いうのですか?」
「本当は君が1番よくわかっているのではないかね」
彼はさっと腕を捲り、何かを見せる。それは、銀色に輝くブレスレットで、真ん中には聖母マリアの銅像が掘られていた
どこかで、見たことのある紋章、そうだ、葛城先生も胸からその銅像のネックレスを付けていた
「教会長の力を借りてようやく気づけたよ、君の正体にね」
説明する気がないのか、さっと元に戻す
教会長……って?
「何を言っているのか、意味がわかりません、」
「強力な、古い魔法だ、生半可な魔人でも使えない術だぞそれは
いつ、どこで
本部ですら気が付かないなんて、一刻も早くーしないと」
ゆナン神父は自制心が効かなくなったかのように独り言のようにブツブツと呟き、手足をわなわなと震わせている。
私は思わず後退りする
「これ以上、あなたをこのままほうっておくわけにはなりません。」
キッと顔を上げると距離を取ろうとした腕を強い力で掴みユナン神父は
ズンズンと歩き出し私を引っ張っていく
「教会の地下に入院施設があります。
そこでしばらく過ごしなさい。
あなたの処遇は追って本部から連絡します」
「教会の、地下に…?どうしてそんな所に施設が?。」
……問いには答えず私の手を強く引き早足で歩き始める。
「ま、待ってください!私、騙していたことは謝ります!でも、記憶が戻ったのも本当に、最近で、私は、
望むなら今すぐこの寮も出ていきます、だからー」
「出る?出ていってどうするのですか、行く宛だってないでしょう、それにそんな危険な人間を街に野放しにするわけにはいきません。あなたはただでさえメデューさなのだから、あなたの強力な陰の気が他の悪魔を呼び寄せてしまう可能性だってあるんです。最悪、悪魔結社が攻めてくるなんてことがあれば、、うちはもう終わりです。」
ようやく彼の言わんとしていることが少し理解ができる
だけど、その突拍子もない解答に反論できる証拠も、力も何もない
「私は、悪魔を使ってここに来たわけじゃ…!
私はただの、、!」
抵抗も虚しく彼は強い力で腕を引っ張っていく。
やがて教会の裏手に出て、誰も通らないような狭い通路で、不意に立ち止まると、ユナン神父は壁の何かのスイッチを押す。するとまるでトリックのように地面だった箇所の一角が突然スライドし、道が現れた。下には長いハシゴがかかっている。
「こ、これは…?」
「いいから来なさい」
強く促され途方もなく長い階段を降りていく、ようやく足がつく場所に降りた。
地面は湿気と水たまりが至る所にできており、下水道のような嫌な湿気の匂いが充満していた。
しばらく歩くと、行き止まりにひとつの扉があった。中は電灯が一定の距離ずつあるが、薄暗く視界は開けない。
ユナン神父は迷わずその先に進んでいく。
使われているのか分からないような錆びた棚や机が無造作に置かれ、ところどころ扉があるが、相変わらず地面はぬかるんでいて、
うっすらと擦り切れた字でLv5患者 室とかかれた扉が見えた。
患者…?どういうこと、こんなところに病院などあるわけがない、本当は薄々気がついていた。だけど私は、ユナン神父のことを、私はこの期に及んでも、まだ信じていたのだろう。
奥に進んでいくに連れ、何だか鉄が錆びたような酷い匂いがあたりに充満している。
ユナン神父は階段を下っていく。
その階段の入り口で、私は恐ろしい看板を見てしまった。そこには、この先断罪部屋、とかかれていた。
不意にユナン神父の足が止まった。
刹那、強く背中を押され、無理やりある部屋に入らされる。
……
「見損ないましたよ、あなたが堕天使の遣いだったなんて、、!」
そう冷たい瞳で見下ろされ、
背を向ける
「私がこの世で1番憎むもの、、それが魔人、悪魔よりも、何全倍もな」
背を向けたままポツリと呟き、そして
奥の扉を強く閉めて出ていってしまった。
「待って下さい、ユナン神父!!
!扉が、開かない……」
電灯はなく、、月の光もさしこまない、ほとんど真っ暗な闇だった。
周りの景色がよく見えない。
刹那、背後に気配を感じた。
!振り返ろうとしたその瞬間、 口元をガーゼのようなもので強く抑えられた。薬品のようなツンとした独特の痺れるような香りが鼻をつき、だんだん私の意志とは裏腹に、視界が朧気になってゆく、
そして私の意識は途絶えた。
目が覚めたら、そこは薄暗い地下牢のような場所だった。小さなろうそくが部屋の隅に数本たてられており、うっすらとだがまわりが見渡せた。
頭がまだぼんやりし詳しい状況を把握できないが、付近でクレーン車のような大きな音が鳴り響き、私はなにかの椅子に座っている、動かそうと試みるも、できない。振り返ると、何かロープのようなもので手足を縛られているようだった。
だんだんと視界が開けあたりを見回す。まるで監獄のような、大きな鉄格子の柵が前方に見える。
扉は、付近には見当たらない。
そして、私の50メートルくらい前の機会を見て、私は硬直した。
360度全てが鋸の刃のような 恐ろしい機械がゴオオオと激しい轟音を鳴らしながら高速回転しているのだ。
音の正体はこれだった。
必死で叫び何とか縄を解こうと藻掻くけれど、全くビクともしない。
私、殺されるー
それだけは瞬時に理解した。
ようやく自分が切り捨てられたのだと脳が認識せざるを得なかった。
自分がとてつもない過ちを犯したような気になった。だけどそれは一瞬だけで、私は何故、どういう理由で
疑問、疑問ばかりが瞬時に浮かんでは消えていくー
深く考えている余裕も、何もない
そのまま恐怖か臨場感か、意識が途絶え真っ白になった
……………………………………………………………
《……》
目を開けると、 不思議な空間だった
世界から音が消え、拘束回転していた刃も止まっている
……?
そして、奥にいた看守のような人が不自然な格好で停止していた
まるでこの時間、空間が止まっているかのような、
!
目の前に、うっすらと紫色の光を纏いながらちゅうに浮く見知らぬ女の人がいた
背丈は、私と同じくらい、よく見ると、女の子ものの制服を来ている 学生だろうか、
《ここに来る人を、ずっと見てたの》
!
《あなた、は…?》
よく見ると腕が1部欠損し足も透けているのかと思ったけれども実際はスカートから下がなかった
咄嗟に自分の直前の状況を思い出し藻掻くけれど拘束されていたことに気づく
更に拘束具はびくともしなかった
《大丈夫、私はあなたを傷つけたりしないよ?もう死んでるしね》
あっけらかんと口にした女の子は、ふわりと浮かびながら私の周りをくるくると廻る
《あなたを助けてあげる代わりに、お願いがあるの、》
《え?》
《助けてあげてほしい人がいるの、あなたは、あの子の、1番近くにいる人だからーもしかしたら、できるかもしれない》
?、?
何も状況が分からないまま、景色はグニャリと歪んだようになり、視界が暗闇に閉ざされる
そして、脳裏に見たこともない映像と、知らない声が、まるで思念のように流れ込んでくる。
先程まで聞いていた女の子の声であることに気がつく
《私はクズだった。
両親は三鷹では割と有名な、1代音楽家ピアニストとヴァイオリニストだったにもかかわらず、
私は両親の才能を全く受け継がず 幼少期から様々な楽器を学ぶも、どれも上達しなかった。親のこねで音楽学校に通えてはいたが、全く 音楽技術は進歩せず、運動神経も悪く、かといって勉強もできず、いわゆるなんの才能もない、落ちこぼれ、、。
「大丈夫、次結果を残せばいいわ」
「あなたには向いていなかっただけだよ、落ち込まないでくれ」
最初は2人とも優しかったと思う、でも、何をやらしても駄目、両親はそのことに気がづくと、早くから愛想を尽かし何も期待しなくなった。物心ついてから、そのことに気がつくのはすぐだった。
2人はオーケストラに所属していて、日本中を飛び回る日々、いつも遅くまで2人は帰って来ない、家を開ける日も多々あった。私には毎週月曜日に、今週のお小遣い5万円の入った封筒が、リビングに置かれているだけ。ご飯や家事などは全てといっていいほどメイドがしてた。たまに顔を合わせても、まるで道をすれ違う赤の他人のような覚めた表情、
小さいときから私はメデューサであり悪魔を見ることができた。その頃はまだ低級の悪魔がほとんどで、たまに夜になると地下通路やトンネルなどの人気のない場所に現れた。私は悪魔から執拗に追われた。悪魔はかなり弱かった方だったわ、実際、足も子供の歩くスピードより遅く、殺傷能力は低い方だった。でも、私にしか見えない、謎の敵と闘う毎日は、私の精神を少しづつ、狂わせていった。
そのことが2人はさらに私を気味悪がる要因だったのかもしれない。
2人は実際も殆どの世話をメイドに任せ放任していた。だから、私は、音楽も学問も、何一つ、努力すらせず、小学校から、既に不良仲間とつるみ、犯罪にも手を染め、お金には不自由していなかったから、毎日遊び歩いていた。私は、自分が数少ない優位な立場の人間だと幼いときから分かっていた。だから、唯一持ち前の美貌と権力と巧みな話術でクラスの中でもいつも主導権を握り輪の中心であり、支配階級のトップに君臨し続けた。私が指示すれば周りの人間は皆従うし、私の仲間も皆が私の顔色を伺いながら自分のクラスにおける優位な地位の確立という傲慢な欲求のためだけに私をお膳立てした。
だから気に食わない人間は徹底的に虐めて不登校まで追い込んだし、理事長に圧力をかけ当時の生徒会長の父親を冤罪にきせ会長の悪い噂を広め私がその地位を奪った。
さらに夜遅くまでネットで知り合った色んな男の人と交際し、報酬としてお金を得ていた。いわゆる、援助交際だ。楽しかった。自分が主役で、一時の甘い罠だと分かっていたけれど、それでもその瞬間は、求められ、愛されているのだと錯覚できたから。
私は勝ち組で、周りの人間は全員下等種族としか見ていなかった。
だからかな、そんな私が権力だけで確立したスクールカーストも、永くは続かなかった。
高校2年の秋だった。私の父と雇われていたメイドとの不倫が明るみになり、雑誌に取り上げられてしまった。そのスキャンダルが元ネタとなり、私が援助交際をしてお金を巻き上げていたことを騙していた男の一人が裏切って警察に被害届を出した。
当時芸能人と並ぶほどの音楽界の実力者だった2人は、1時大きなニュースになり世間を騒がせた。最初は、正直どうでもよかった。父が誰と不倫しようがしまいが、私は彼らに何の感情も湧いていなかったから。
だが紗彩の、母の悪魔の能力の影響によりそれは伝染病のようにまたたく間にすぐに広がり、円城寺家はあっという間に名声を失ってしまった。それが人間だけの力でなかったことに気づくのは、もっと後のこと。
するとたちまちクラスメイトの私への見方も反転した。
子分だった生徒たちも皆が揃って掌を返し私を追い込んでいった。
「援交だと…?この、恥さらしが!」
「待ってよ、パパだってずっとメイドと浮気してたんじゃない!そんな自分が、私のこと責められるの?」
「五月蝿い!ただでさえ能無しのくせに…!
出て行け!
二度と敷居に踏み込むな!」
…絶望だった。
それから私の家はすぐに富豪から奈落に落ちた。私は家を追い出されしばらくは自分の貯金でホテルを転々とした。
でも豪遊していた私のお金はあっという間につき、生活に厳しくなった。さらに追い打ちをかけたのは、夜になると悪魔が襲って来るという現実だった。そうだんできる機関も、人もいない。
あのメイドが教会に行けば味方がいると言っていたが、あのメイドは父を誑かして円城寺家を地においやり金を盗んで出ていった裏切り者だ、そんな人間の話など信じられなかった。
たった3カ月、くらいだっただろうか。私は知り合いにも全て見放された私は、人の多い23区に移り、そこで飲食店のアルバイトをして金を稼いでいた。。
しかし今まで人に頭を下げたことすらなく、まともな人間関係を築いて来なかった私は、客を怒らせ店の評判を下げたとして最初の職はすぐにクビになった。
私が自分の家を追い出され行く宛がないことを知り、見かねた上司の1人が、私にまだ未成年ならば役所に行けば助けてくれるからと言われた。何なら私から連絡を入れようかと言われた。しかし私は、断った。
だけど、私はそんなところに行く気はさらさらなかった。
私には確かに親戚がいる、遠縁の親戚も合わせたらまだ多い方に分類される。そうすれば役所からきっと親戚の家に電話が行く。そうなれば彼らは私を引き取らざるを得ない。そして絶対になにかしら理由をつけて拒否するだろう。私はそんな血も涙もない親戚らにたらい回しにされるくらいならば、、1人で生きた方がマシだ。
でも、だんだんと分からなくなっていく。
私は、何のためにこんなことをしているのだろう、、誰のために、何の目的で、こんなことまでして生きているのだろう。
私は、急に何もかも意欲を無くしてしまった。
私のしていることも、この世界も全て無意味に思えた。
そんなときだった。
ふと目にしてしまった。三鷹の市街地で、あのメイドと父が幸せそうに、笑顔で歩いている姿を。
(仲睦まじく手を絡ませて歩いている女性、その女性を私はよく知っていた )
両親のことはあれ以来考えないようにしていた。でも、そのとき私は今まで抑えていた様々な感情が ごちゃ混ぜになり制御できなくなった。
私を、こんな目に合わせておいて、、
自分たちだけ、幸せになろうなんて、、
許せない、、許せない許せない!
「良からぬことを考えているね」
2人に襲いかかろうとした刹那、誰かに腕を捕まれ無理やり振り向かされる。
「離して!私はっ」
「感情的になっても君は勝てない。僕はきみの願いを知っている。僕ならば君の願いを叶えて挙げられる。君の復讐、手伝ってあげる」
「誰、あなた」
「。そうだな、クラウス、、とでも言っておこうか。」
(この人は、、いつだったか、携帯の画像フォルダで見た、金髪のスーツを着た青年だった)
(そして正面から見えた女の子の姿は、
藍色と黄色のオッドアイの瞳だった
この目を、この瞳と同じ目をした人を私はよく知っていた。そして円城寺と話した彼女の性ー、この人は…やはりー)
うっすらとまた視界が戻り、先程まで見えていたビジョンや、声が途切れる
目の前には、さっきの女の子、
彼女は薄く笑う
《 両親は私が殺した。でも何にも満たされたりしなかった。利用されて、心も精神も負けた私は、最期には生贄として実験の餌にされた 笑っちゃうでしょ?
嘲笑するかのように自虐的に笑うと、急に表情を変える
《でも、あの子は助けてあげたい、馬鹿で、どうしようもない 弱虫で、私も家族も記憶から抹消したようなどうしようもない奴だけど……それでも、私の、たった1人の弟だから》
《一緒に過ごした時間はないけれど、あの子がああなってしまったのは、本をたどれは、私が原因だから。お願い、》
《でも、私ー》
《知ってるよ、あなたが誰かなんて、正直どうでもいいの、今、あの子が1番、そばにいたいと思ってる、あの子が行きたいと願う、そう思える原動力が、あなただから》
《あの子は能力を悪用して、典型が切れた。その1番最初の 私たちを忘れること 一族から悪魔使いを出したその過去を、消し去ってしまった 。今のフィオナ スカーレットは人格を改変されてできた別人
今の彼女を恨んでも、何も変わらない
フィオナのこと、私は今でも許す気はないけれど、、記憶のない彼女にその憎悪をぶつけるのは間違ってると思う。もう記憶が戻ることは決してないのだから。でも、本人だけは気づける、
受け入れてもらわなきゃいけない
これから、彼は大きな試練に巻き込まれることになる。その試練に今の彼では負けてしまう
彼がエクソシストの称号を捨てない限り、
最期に待っているのは死だけ
え?!それって、、
天啓を取り戻さなければ、あの子に未来はない
そんな…
私は、あの子に無理やり知らされてほしくない 自分で気づいて、自分で受け入れなければ、
だからー、
現実味がしない、だけど、先程までの声も、映像も、どうしてか嘘だとは思えなかった。
だけど、例え真実だとしても、
私に、そんな事実を話せというのか 証拠も何1つないというのに、
彼が信じてくれるとは思えない、それに、冗談だとしても、こんなこと
約束、必ず守ってね
私はいつでも、貴方を見てるーー
私の考えを見透かすかのように、彼女は
最後に、呪いのような言葉を残して完全に音が消失する
私は痺れるような甘い香りに、再び意識を失った。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
更新はかなり不定期ですが宜しくお願いします。次回ももう少し結衣編を書きます。