学園に蔓延る噂
「フィオナさん 教えてほしいことがあるんです。」
私は翌日の朝、朝食の後修道院工場に向かおうとするフィオナさんを呼び止める。
「結衣ちゃん、どうしたの?もしかして昨日の、
倉庫での話のこと?」
「いいえ、この間の話は、もう、大丈夫です。
斗真さんの、ことで…彼が背負っている罪のこと 」
「それはどの罪を言っているのかしら、」
「え?えっと、
2年前の、、橘さんの件です、私が知りたいのは」
「どうして知りたいの?」
「それはー
最近の彼は、ずっと、心ここに在らずというかー
整体の前で、祈り続けています。何かに取り憑かれたかのようにー、休日も、
一日中閉じこもって、
前に、懺悔室で、少しだけ話してくれたんです。もう2年もたっているのに、ずっと何かに苦しんで、 一人で抱えて、
ユナン神父が言っていました。
彼は、自己犠牲を厭わない、致命的な欠点をもった人間だって
私、彼の力になりたい。彼が天啓を取り戻すことができるように、、
でも、本当にこんなやり方でいいとは私は思わない、だから…」
「分かったわ。話しましょう 」
「!ありがとうございます」
「あの話をする前に...彼の生い立ちについて、あなたは知っている?」
「え、いいえ、ほとんど
三鷹にある、とても広い家が、実家だって、最初に、連れて行ってもらいましたけれど、誰も住んでいないって、」
「そう 、あの子は、あそこにあなたを…
斗真はね、この教会の近くの森に捨てられていた、捨て子だった。」
「え?!」
「当時の神父たちが予言でビジョンを見て、斗真はギリギリのところで助け出された。」
孤児院で育ったって、聞いてたから、わけがあるのだとは思っていたけれど、、
「斗真の母親は、、、遠い地の外国人で、売春をして生計を立てていた。だけどそこで犯罪を犯して、指名手配されて、お金もないのに日本に逃亡してきて、定職にも付かず、男を取っかえ引っ変えして生計をたててきたような、女だったわ」
「………」
「子供ができたと知ったとき…… 真っ先に考えたことがなんだったと思う」
「?えっと、育てるためのお金の工面の仕方、とか?」
「どうやって誰にも知られずに 始末するか、だった」
「酷い……」
「逃亡してきたわけだから、当然、身分証明書もない、病院には行けなかったわ。でも罰が当たったのね
あの子を産み落としたのはたまたま見付けた人里離れた森の奥、 その近くには強いエクソシストたちがたくさんいる教会の結果範囲で、つまり、この協会よ。かのじょの行動はつつ抜けだった
すぐに赤ん坊は保護されて、孤児院で暮らすことになったの 」
「運が、良かったんですね。
でも、
母親は、、どうなったんですか?」
「1度は、、職務質問されたわ。でも、、釈放されてね、その後すぐにどこかへ行ってしまった。
あの人は…
彼女はもう、この世界のどこにもいない の」
?そう何処か懐かしむような憂いのような表情に私は少し疑問に感じた
まるで、その頃を見てきて、
よく知っているかのようにー
「話が逸れたわね。
教会の運営する孤児院で育った彼は幼い頃からキリスト教に触れ、さらにメデューサであった彼は早くから祓魔師になる道を選んでいたわ。周りも、優秀なエクソシストに囲まれていたしね。
あれは中学1年のとき、彼は学校に通いながら祓魔師をしていたけれど、信仰心も暑く誠実で努力家だったからかしらね、すぐに天啓が降りたわ。
中学生で天啓を得たのは歴代最年少だった
しかも、サンダルフォンという熾天使クラスの第2位天使、」
「えっと、、?」
「ああ、まだあなたには分かりにくいか、天啓には階級があるの いわゆる天使の階級ね
1番エクソシストに与えられる加護に多いのは、
下位三隊 「聖霊」と呼ばれることの方が多いかしら、
権天使
大天使
と呼ばれる天使、瀬野君や桜田さんもこの大天使の加護を受けているわ。
葛城神父や、ユナン神父なんかの大人で加護を受けている天使は、その精霊よりも位の高い中位
主天使
力天使
能天使
と呼ばれる天使よ、
そして、
特に滅多に与えられないと言われているのが
上位三隊 と呼ばれる
熾天使
智天使
座天使(王座)
その中でも最も位の高いのが、熾天使、
彼はわずか14でエクソシスト教会の幹部と同じくらいの 天啓を得ていた」
「そんなに、、強かったんですね。」
「ええ、本部に推薦されて、幹部として隊を組んで、任務を果たしていた時期もあったわ」
だけどその先はフィオナさんは言わなかった。
今の彼に、天啓は与えられていない 本部から帰ってきた理由も、その天使の天啓がどうしてなくなってしまったのか、その理由を問いただす勇気はなかった。
「白百合寮の中でもとりわけ優秀で、白百合寮の、アトランティス教会の中では、次世代を担う希望の象徴のように多くの人々から尊敬され、期待されていた
天啓を得てからの話よ。
でも、彼は……父親の愛人との間にできた、望まれない子だった」
「え?本当ですか?」
「ええ。母親はその由緒ある名家の家庭教師として潜り込んで、旦那様に取り入った。結局、愛など無かったのだから、すぐに捨てられてね、愛人と彼は… 一家の面汚しと蔑まれて、しばらくは世間を賑わせたわ。
産まれながらに捨てられた彼は、しばらくは孤児院で神父たちの保護の元暮らしていたわ。でも、何年かのちに、行政の指示で血の繋がりのある親戚の家に引き取られたの。
でも折り合いが悪くて、その後何度も、親類の家を転々とたらい回しにされて、ずっと肩身の狭い思いをしていた。」
「………。」
「小学校高学年の頃、孤児院に一時的に戻り数ヶ月したある日、子供に恵まれなかった八王子市に住む紫音寺という中年夫婦が、斗真を養子として引き取ることに決まったわ。彼らは斗真がメデューサの能力を持っていても、気にせず優しく迎えてくれた、心優しい人たちだった」
「紫音寺という性は、養子に迎えいれてくれた人達の性だったのですね。」
「ええ、あの頃は、笑顔でいる日が増えたわ でも、そんな日々は、長くは続かなかった。
斗真は実は、音楽の才能に秀でていてね、幼少期から コンクールで賞を取ることもよくあったわ」
「斗真さんに音楽の才能があったなんて知らなかったです」
「ええ、実の父親が偉大な音楽家でしたから、実家も豪邸だったでしょう 」
そうか、だからあんなに、、
「斗真の両親共に優れた音楽家だった。しかしそれも、今は廃墟になっているけど……」
「それで、ではどうして紫苑寺夫妻の家をすぐに出て行ってしまったのですか?今までの家で一番優しくしてくれたんですよね?」
「それは、、、実の父の兄が斗真を引き取ったからよ」
「え!?」
「斗真と血縁のある兄夫婦よ、今までは大阪に住んでいたけど、本家の人間が誰もいなくなり、空き家となっていること、斗真の存在をどこで知ったのか、分からないけど、子供の存在を知った彼が、半ば無理やり紫苑寺家から引き取ったのよ。
紫苑寺夫妻も斗真も反対したけれど、、斗真の親権はその男性にあったから、何もできなくて、、
彼らは廃墟となっていた本家で暮らし始めたわ
その頃までは、彼は、ずっと人の顔色を伺って気を使ってばかりの、
可哀想な思いをたくさんさせてしまったけど、彼は優しい子だったわ。
でも、引き取られてからは、、彼は変わってしまった
毎日来ていた礼拝も、だんだん来なくなって、エクソシストの集まりにも参加しなくなって
のちに知ったのだけど 監禁されていたのよ」
「そんな……」
「彼らは一般人で、エクソシストや宗教を嫌っていた。だから彼の力を封じようとして、閉じ込めた。斗真はね、、その頃から、笑わなくなった」
「私に案内してくれた、あの大きな家、ですよね。でも、誰も住んでいる気配がなかったのですが、今、そのお2人は… 」
「実は、その本家の夫妻は、事故で2人とも
亡くなってるのよ。」
「え!?」
「それで、まだ中学に上がったばかりだった彼は、またここに戻ってくることになった。
でも、斗真は変わってしまった。私たちには心を開いてくれなくなってしまった 仲が良かった葛城神父や、昔からのマザーや、瀬野くんともね
そうして、彼は自分を卑下して、自己犠牲も厭わない、冷たい、孤独な子になっていったわ。
エクソシストに執着しだしたのも、自分には役割があるんだって、少しでも役に立てているんだって、存在価値を見出そうとするようになった。
周りが心配になるほど、毎日毎日闘いに
明け暮れてー
本人は、学園には行きたがらなかったけれど、エクソシストの試験は、高卒以上が資格だから、仕方なく通っていたみたいなものね、そこが今の蹂躙学園の中等部、
祓魔師は、一般市民には理解の薄い職業であり、悪魔を見ることができない生徒たちは悪魔や天使の存在を信じていない人がほとんどだった。祓魔師として学業よりも祓魔師の依頼を優先し、度々学校を早退したり授業を免除されていた彼は、まわりからいつも浮き、1人だった
軽蔑され陰口や皮肉は日常茶飯事。」
「そんな、、、」
「あなたは、学園での彼を、見た事があるかしら?」
「え、なんどか、移動教室の際に、見たことは、あります、でも、クラスも違うし、校舎の階も違うからか、ほとんどありません、」
「そう、、、
彼に、友達はいなかったわ。いつも一人だった。今は、どうか分からないけれど、中等部までは、ずっとね」
……
「中学3年になってすぐの頃、彼が祓魔師だと知りながら、敬遠せず蔑みもせず分け隔てなく接してくれた生徒がいたの。それが、当時クラスメイトだった橘彩香という女の子。
ブロンドの、ショートヘアの可愛い女の子で、
彼女はなんの力もない一般人だった
彼女は一般市民で悪魔を見ることができなかったわ、でも悪魔の存在を、信じてくれた唯一の人だった。よく教会にも来てくれて、子供たちと遊んでくれたわ。
祓魔師を、素晴らしい人たちだと、言ってくれた。」
「斗真さんは、彩香さんとすぐにお友達になれたんですか?」
「あの毒舌で無愛想なあの子のことだもの、かなり苦労したって言ってたわ。でも何度冷たくされても、彩香ちゃんは諦めなかった。
彩香ちゃんは1人だった彼にもうしつこいくらいに声をかけてね、本人に言わせれば、当時は
鬱陶しいことこの上なかったって でも、彼女のおかげで、また笑ってくれるようになった 私たちは嬉しかったわ。」
「私は今の斗真さんしか知りませんが、珍しい、ですよね 彼はいつも、穏やかなイメージなので…」
「あなたは、特別なのよ。あの子にとって
彼女は、優しい子だった。ほうっておけなかったのよ。彼は、、虐められることも、少なくなかったから
それからすぐ、2人は科学部を作ったわ。
祓魔師として日々忙しい彼のために一週間に二、三日ほどの活動だった。さらに彼は彩香と親しくなったことで、クラスメイトの見方も変わり、風当たりは以前より少なくなっていった。
結局のところ、人間の力でどうにでもなるのかもしれない。
相変わらずエクソシストは忙しくしていたけれど、、あの頃は幸せそうに見えたわ。
やっぱり私たちは大人だし、同じ年頃の友達ができて、嬉しかった。
こんな毎日が、卒業まで、ずっと続くものだと、、私も、教会の皆も思っていたわ。
でも、、事件はある日突然前触れもなく起きた。
ある日、彩香ちゃんが泣きながら私たちシスターのところに駆け込んできた。
斗真が私の話を効いてくれない
私を避けて、私とも縁を切ろうとしているって
詳しい話をきくと、元は数枚の動画と写真だった。
制服姿の彩香ちゃんが見知らぬ大人の中年くらいの男性と親しげに肩を抱きながら銀座の高級ホテルに入っていった数十秒の動画と、そのホテル付近で今度は別の中年男性との口付けを交わしている写真だった。
これは本当なの と聞いた。そして彼女は本当だと言った。」
「え……」
「私たちも初めは驚いたわ
でも事情があったということも
彼女の家は、すごく家系が苦しくてね、借金を抱えていたの
病気でお父さんが伏せっていてね、 学費と、
稼ぐために、売春に手を出してしまった
もちろん学園の規則違反よ、だから彩香ちゃんは停学処分になってしまった
結衣ちゃんはどう?」
「え?」
「お友達が、 そういうことを黙ってしていたら」
「それは……正直、嫌です。でも、そうせざるを得ない理由があったのだとしたら、
話は…聞くと思います。そして、そんなことしなくても、解決できる方法を、一緒に考えたい」
「そうね、普通は、そう考えるわ
でも、天啓は、純粋で、穢れなき人間にのみ与えられる尊いものだと教えられていた彼は、友達の彩香ちゃんの行いが許されないと思ってしまった 」
「まだ、中学初等部だったのなら、難しい判断、かもしれません」
「ええ、そうかもね、彼は誰にも頼らずに生きてきたから。
それに、斗真の母親は、遊女だったでしょう、そして、手を出してはいけない人と関係を持ってしまった。
実はね、彼の義理のお姉さん、最後に暮らしていた本家の娘さんもね、援助交際に手を出していたのよ それで自分自身を不幸にした
そんな、そういう、醜い部分ばかりを見てきたからでしょうね。
彼は、彩香ちゃんを受け入れようとしなかった
彼は裏切られたと感じ憎んだわ。彩香ちゃんを、1点の穢れなき綺麗な心の持ち主だと信じていたから。」
「彼は、そんなことを考えて、彩香さんと友達に?
それってなんだか…すごく寂しい」
「そうね、汚れなき人間なんて、私はこの世界のどこにもいないと思う。そして、それを判断することができるのもー
元々この写真と動画は、彩香ちゃんを嫌う1部の女の子たちが、嫌がらせにやったことだった。
でもそれが元で彩香ちゃんはクラス全員を敵に回すことになった。部活を辞めざるを得ず、クラス中から、援交中学生と罵られ虐められるようになり、今まで彩香と仲が良かった生徒も掌を返したように冷たくなり、
彼も同様に、彩香ちゃんを虐めたわ」
「そんな、斗真さんが、、?斗真さんを助けてくれた、友達だったのに?」
「ええ、罰を受けて当然だと、思ったんでしょうね。」
そんなこと、する人だとは思わなかった…
「祓魔師は純粋であるべきという勝手な判断で 救いを求める者に手を差し伸べなかったこと 、友人を裏切りまわりと一緒になって追い詰めた、これはキリスト教徒としてあるまじき行為よ
彼の天使は1度警告していた。
彼は自分の判断は正しいと最後まで主張していた 誰の話にも耳を貸さずに……
その結果、3月の卒業式を控えた寒い朝だった。
それが、悲劇的な結末を迎えてしまった。」
………………………………………………………………
「フィオナ」
!!
後ろから冷たい声が響いて
驚いて振り返る
いつの間にか気配もなく斗真さんが私たちの背後に立ち尽くしてフィオナさんを睨みつけていた
その恐ろしいほど冷酷な 声色と瞳に言葉を失う
「勝手に私の過去を話さないで下さい 」
「ご、ごめんなさい でも、結衣ちゃんは、あなたのために」
フィオナさんは人が変わったかのように
頭を下げる
?
「言い訳なんて聞きたくない!約束も守れないシスターなんてここには要らない 」
……約束?
「結衣、行きましょう 」
あ…
咄嗟に手を引かれ その場を離れる
フィオナさんは俯いたままずっと立ち尽くしていた
寮には戻らずに、中庭を奥の方まで進んでいく
やがて足を止めたのは、庭園の中の小さなベンチ、
彼はそこに学生鞄を置き、そっと腰掛けた
「ごめんなさい……」
「どこまで、、聞きましたか」
「え?」
「フィオナの話、」
冷たく刺すような瞳でキツく 私を見る。そんな彼を見たことは初めてで、戸惑う
「3年生の、卒業式の朝、のところまで、、」
「ああ、そこまで話したのか、、」
長い沈黙が場を 支配する。
そして彼は息を吸い込、俯いていた顔を上げ、
「結論だけ、いうと、、
彩香は、自殺しました」
そう、ポツリと抑揚のない声で呟いた。
何も反応できず、私はただただ淡々と話す彼を黙って聞いていることしか出来なかった
「卒業式の朝に、校舎の屋上から
彩香は意識不明の重体で運び込まれ、その翌日、彩香は息を引き取りました。
私は彩香を、助けを求めていた彩香を、無視し虐めて、自殺に追い込んだ
だから私の天啓は切れた 」
どこか断言するように語尾を荒らげて
告げる
「これが、哀れなエクソシストの、罪の全てです。」
彼は自嘲めいた悲しい笑顔で振り向きそう呟く
「満足ですか?私の、過去が知れて」
「斗真さん……、」
「いえ、違うんです、こんなことが言いたいんじゃない……っ」
彼は頭を抱えて俯きながら首を振る
「すみません、でも、もう私のことを詮索しないでください。私の天啓のことを、あなたが心配する必要なんて、どこにもないのですから。」
あ…
彼は有無を言わさぬ雰囲気でそのまま立ち去ってしまう。
………………………………………………………
登校してからも、今朝の話が気になって仕方がなかった。
彼は、私が右も左も分からず暗闇の中にいたときに、最初に手を差し伸べて、光を与えてくれた人だ。彼がいたから今私はここで笑っていられる。それなのに、彼が、そんな寂しい環境にずっといて、今もずっと悩み続けているのかと思うと、自分も苦しかった。
その日の昼休み、私は彼のことが妙に気になっていつもの友達とのお昼を断り、別棟へと足を運んだ。
中高一貫校でその生徒数は他に類を見ないほどの数を誇り、1学年は10クラスまである。私のクラスは1組に対し彼のクラスは10組、今まで、彼のクラスとは校舎は同じでも長い廊下を挟みかなり距離があったし、階も離れているから、行くことはなかったけど、
なんだか彼の学生生活が妙に気になった。
そっと彼の教室を見遣る
教室の窓際に、斗真さんを見つけ声をかけようとする、しかし、彼の周りに4、5人の男子生徒がまるで追い詰めるように彼に嫌な笑みを浮かべながら近づいて何かを一方的に話していた。
何だか、様子が……
私は少しだけ教室に入り、聞き取れる位置まで近づく
「木なんかガン見して気持ち悪いんだよ」
誰かが彼の肩を乱暴に押す 同時に持っていた数冊の教科書が床に散らばる
「あなたたちには関係ありません」
「またあれか?お決まりの そこに取り憑かれた動物がいたんです〜 いや、今度は虫か?」
「あはははは」
「イカれ狂信者がっ 」
「クリスチャンとやらになると頭のネジまで飛ぶんだよなぁ」
「いつもいつも早退して 休んで、そんな奴には授業受ける必要ないんじゃね〜?」
「せーのっ いえーい!」
地面に散らばった教科書を2人の男子生徒が教室の後ろにあるゴミ箱に投げ入れる
「汚いカバンと教科書はゴミ箱行きだな〜?」
彼は何も言わずにゴミ箱まで行き拾い集めている。その最中にも、今度は別の場所の席から何かの飲み物のパックが彼にいくつも投げつけ、中身が入っていたのか彼の髪や制服に かかる。
「ゴミはさっさと消えろよ! 面汚しがよ!」
「きったなーい 近付かないで下さいます〜?」
見ると数人の女の子たちがクスクス黄色い声で笑いながら彼を嘲笑している。
「あ?お前はー、1組の転校生だろ?名前なんだっけ? うちになんか用?誰か探してんの?」
先程飲み物を彼に投げつけた女子生徒の一人が笑いながら近づいてくる
! 一瞬斗真さんは私を見たけれどすぐに目を逸らし、そのまま後ろのドアから出ていく
「い、いえ……っ失礼します」
後ずさるように私は教室を出る、
フラフラと廊下を歩く
しばらく呆気にとられ何が起きているのか、理解が追いつかなかった。
ー彼はずっと、一人だったわ ずっと孤独だった ー
フィオナさんから聞いた斗真さんの中等部時代の悲しい話を思い出す
あれから、私は自分のクラスに戻らず、休み時間が過ぎチャイムが鳴った後も、彼を探していた。
5時間目、10組を廊下からこっそり見渡すけれど、、彼の姿はどこにもない、
先生に見つからないように、広い校舎を歩き回りながらようやく見つけた場所は、 運動部や体育の授業などのときに使用している校庭の大きな手洗い場 ー
人気のしない怖いくらい静まりかえっている運動場の一角で、一人で彼は 汚れた制服を洗っていた
「斗真さん……」
「だから、言ったのに 私のクラスに来ないでほしいって」
彼は私が来ていたことに気づいていたのか、こちらを振り向くことなくそう淡々と告げる
………
近くにカバンからはみ出した教科書が見えた
そこにはおびただしいほどの酷い落書き、そしてビリビリに破かれたプリントが垣間見えた
イカれた新興宗教集団
学園の恥 さっさと退学しろ
妄想癖
「これって、学園の生徒は、エクソシストをそんなふうに思っているんですか?悪魔なんか、いないって」
理解が得にくい仕事だと、ユナン神父が言っていた。でも、まさかこんなふうに言われているだなんて、知らなかった
「そうですね
中には、見えたり、聞こえたりするメデューサや、宗教観のある 生徒もいますから、全員が信じていないわけではありませんが」
「それなら、信じてる人がいるなら、どうしてー
先生は、このことを、知っているんですか?」
「……知っているともいえるし、そうでないとも言えますね どちらにしろ、あの人たちには何も変えられませんよ ただの、歯車ですから
」
?
「早退や遅刻や、欠席だって、認められてるはず です 私たちは決して遊びなんかじゃない
斗真さんは、彼らに何もしてないのに……こんなの、おかしいです。やっぱり、先生が駄目なら、葛城神父に、葛城神父なら、ここで講義もされてる、何か助けてくれるはず」
「エクソシストは、それだけで、いみ嫌われるように出来ているんです。程度の違いはあれど、誰も私たちの味方などしない、先生も、校長だろうと、関係なく」
「どういう、意味ですか?」
斗真さんは、濡れた制服を絞り水を切り、袋に入れると鞄を その場を離れようとする
「そういう、噂なんです。エクソシストは嫌われなければならない、この学園に染み付いたルールなので
結衣も、決してエクソシストをしているだなんて、間違っても言わないでください 私みたいに、なりたくなければ」
「あ、待って下さい……っ」
嫌われなければならない、ルールって何?
全然、意味が分からないよ……