隠ぺいされた過去
祓魔師として正式に活動し、1ヶ月半、
夏休みに入った秋霖学園は、それぞれがしばらく休暇に入っていた。
任務も少し落ち着き、ここ最近は依頼のない穏やかな日々を過ごせている。
桜田さんは、実家に長期で帰省し、夏休みが明けるまで帰ってこない。瀬野さんは、フェンシング部に所属しているらしく、夏休み中も毎日のように部活動に通い、身体が鈍るからといい悪魔狩りや見回りに出ていることが増えた。
斗真さんは、 また礼拝堂で、何時間も祈りを捧げてばかりで、そうでなくても、自室に籠り、必要最低限しか外出しない、とても学生とは思えない生活に、私は心配になる。
1度は、ほどほどにすると言ってくれたのに、また最近は一緒に食事をすることも少なくなった。
懺悔室で聞いたあの話が、ずっと頭の中から離れなかった。
結局、私はあの日彼が苦しみながら話してくれたあの過ちを、皆が知っているから話す必要もないと突き放されたあの話を、私は誰にも聞けずにいた。
フィオナさんなら…真実を教えてくれるだろうか
思い出したくない過去に無理やり踏み込むのは斗真さんをとても傷つけることになる。親しい友達でもない私にそんな資格はないし、できることならそんなことは私もしたくない、
でも…
それが、無くした天啓と関わることとなるというのなら、、話は別だ。
私はモヤモヤした気持ちのまま、日々を過ごしていた。
ある休日の朝食を終えた後、修道院工場でフィオナさんの手伝いをするか図書室でエクソシストの教本を読むか迷っていたときだった。
「結衣 ちょっと頼みたいことがあるんだが、いいかな?」
「何ですか?葛城先生 。」
寮に戻るために中庭を歩いていたら、葛城先生が私を呼び止めた。
正直、
学校やミサ以外で葛城先生から私に話しかけられることが珍しく凄んでしまった。
「大したことじゃないんだがね、教会の隣に倉庫があるんだけど、掃除を手伝ってほしいんだ。
あいにくシスターたちは半分が地方の病院に駆り出されていてね…人手が足りないんだよ。」
「倉庫の掃除ですね、はい、全然大丈夫ですよ」
「ありがとう、落ち葉や土がかなり舞い込んできているから、そこの掃き掃除と、あと使えそうな机などの家具を外に出しておいてくれないか、クリスマスのミサで使うからね。私はこれからちょっと学園に用事があるから、あとから戻るから、先に進めておいてくれ、」
「え?はい。」
一緒にやるものだと思っていた私は呆気にとられる。
私は汚れてもいい服装に着替え、箒とちりとりを手に倉庫に向かう。
予想はしていたが、やはり倉庫の中は散らかり放題だった。
使われていないテーブルや棚がごちゃごちゃに置かれており、古い書籍や食器、細かい雑貨が無造作に積まれている。何年もの間誰も手をつけられていなかったのか、至る所に蜘蛛の巣がはっており、そこら中ホコリだらけ、葛城神父の言ったように床には落ち葉の枯葉や枝が大量に舞い込んできていた。
……これは時間がかかりそう。
とりあえず、使えそうな家具を出してほしいと言っていたっけ。
片付け初めてすぐ、奥の棚に比較的新しい綺麗なピンク色のポーチ鞄が不自然にぽつんと置かれていることに気づいた。
棚はホコリを被っていて、雑貨も古びたものばかりだったのに、このポーチだけは新しく、つい最近のものだと分かった。
誰かの忘れ物かな?
それにしてもこんな所にこんなものを忘れる人なんている?
誰かの忘れ物を、別の拾った誰かが、ここにおいた…?いや、それならこんな所に置く必要性が考えられない。
とりあえず、中を確認して、名前が書いてあればその人の元に届けよう。分からなければ、修道院に届ければいいよね。
鞄から出てきたのは一つはスマートフォンと、どこかの家かなにかの鍵、そして1枚の紙切れだった。
その紙切れを見た刹那、固まったように動けなくなった。
そこには……私の、名前が、はっきりとかかれていた。
それは、私の以前通っていた学校、星城学園の、学生証だった。
松永結衣とはっきりと書かれている
………どういうこと?どうして私の学生証が、こんなところに……
それに、これで桜田さんが言っていた私が星城学園に通っていたという話が本当だったということが分かる。
不自然な点は山ほどあったけれど、私は携帯電話をダメ元で操作してみる。
電源ボタンを長押しすると、真っ黒な画面から起動中の白い画面に切り替わった。
え?動いた?
携帯電話は、倉庫に捨てられるように無造作に入れられていたから、動かないと思っていたけれど、あっさりと電源がついたことに少なからず驚く、しかも電源がきられていただけでまだ充電は半分ほどあり電池がなくなっていたわけではないようだった。
あの鞄は、私の鞄なのだろうか?私の学生証が入っていただけで、判断するのは難しい。病室で、私は何も身につけていなかったって、看護師さんも言っていたし。
それにしても、どうしてずっと探していた携帯が教会の倉庫に?この学生証は前の高校のものだ。私はこの教会には幼いときしか訪れていなかった。ということは、事故にあったあと、誰かが故意に学生証をここにおいたってことになる。おそらく…私に見られては困る事情があった、ということ?これを見れば大体私の交友関係、やメールのやり取りが分かる。それがもとに記憶が戻るもっとも可能性の高いもの、、。
考えているうちに画面が変わる。私は画面が待受画面に切り替わった瞬間思いもよらない驚愕の事実を目の当たりにした。
それは、5人の男女の晩酌の写真だった。豪華な食事が広いテーブルの上に豪勢に並んでいる。それは、パーティーだろうか、だがどれもコスプレをしたような派手な格好の人ばかりだった。
一番手前でカメラに向かって 笑みを浮かべている濃いピンク色の長髪に露出度の多い夜の店にいそうなくらい派手な格好をした気の強そうな女性が写っている。その隣には、男性だろうか、紺色の和装を身に付け 何故か頭にはシルクハットを被り、額には不可思議なシルエットのペイントが施されたオレンジ色に近い長い髪の、オッドアイの人が写っている。その人は、、一瞬脳裏に戦慄が走った。
この人…私が路地裏で出会った人に似ている…髪型は違ったけれど、服装と、あのシルクハットが、そっくりだった。向かいに座っているのは高校生くらいのロックバンドにいそうな銀髪に紫のマフラーをまいた、とても派手な格好の少年だった。
その隣に、同じく銀髪のロングヘアの、黒を基調とした長いコートを着た男性が写っている。この人は無愛想そうな表情で横を向いている、なんとなく他の人と比べると貴族のような紳士らしさを感じた。
そして1番奥の上座に、金髪に近い茶髪の、紅い瞳をしたスーツを着た男性がどこか困ったような笑みを浮かべながら写っていた。他の個性的な容姿や服装の人達に比べると、普通の男性に見える。だけど、何故だろう、1番この人に恐怖を覚える。
……
「っ痛っ」
その人を見ていると、激しい頭痛が襲ってくる
私はすぐにその写真を閉じた。
この人たちを……私は知っている。記憶も思い出せないのに、そう本能が感じる。拡大はしないようにして、さっと見ただけでも、アルバムに同じ人たちとの写真が何枚もあった。ビリヤードや、ダーツをしていたり、旅行だろうか、有名な建物や風景も見て取れた。そして、
どれも快活で、笑顔で写っている。特に、シルクハットを被ったあの人との写真が多い
頭が痛い…… まだズキズキする頭を抱えて学生証とポーチをしまいこんだ。
…似ている…路地裏で会ったあの人、桜田さんが語ってくれたあの人と…。私は、、この人たちと、知り合いだった…。
考えていたってわからない。私はもやもやを振り切るようにして別の情報を探すことにした。
そういえばメールが来ていたのだ、そちらから見ることにする。
新着が2件来ていた。着信も7件あるようだ。
私は半ば何かに導かれるようにメールの受信フォルダを開いた。ほとんどのメールが消されたのか、開封済みのメールは一つもなかった。
差出人は、、クラウス…?
アドレスにそうあだ名のような変わった名前で登録されていた。
『リリア、今一体どこにいるんだ?契約が突然切れたから驚いたよ。何があった?
メデューサだから心配なんだ、あのときは手荒な真似をして本当に悪かったと思っている。
君がいないと計画が上手くいかない。ジョーカーも姿を消したし、八方塞がりだ。だから、戻ってきてくれないか。せめて連絡だけでもほしい。待っている』
リリアって、誰?
契約?あのときは手荒な真似?一体、なんの話をしているの……?でもこの人はメデューサであり悪魔に狙われやすいということを知っている、ということは、エクソシストだろうか…?
もう1件未読メールを開く。
差出人は、、ジョーカー?先程のメールの差出人にも出てきた名前だ。
『結衣、私は君の味方だ。記憶がなくて混乱していると思うが、落ち着いて聞いてほしい。
君の記憶の欠落は特殊なものだから簡単には戻らない。私たちが君の記憶を消した。記憶を取り戻そうとしないでほしい。でないと君は確実に殺される。
これから言う通りに従ってほしい、もう面会しているかもしれないが、これから君と会うアトランティス教会の人達は信用できる。エクソシストたちのことも信じてほしい。彼らは君の味方だ。約束する。時期が来たら必ず君を助けてくれる。。
それまで、この携帯に知らない登録先からどんなメールや電話があっても、決して返信しては行けない。
だれも、信じてはいけない。』
クラウスと、ジョーカー…初めて見るはずの名前なのに、私はその名前を知っている。
妙にどこかで聞き覚えがあるきがした、でも、いつ、どこで?思い出せない。
私たちが、記憶を消したって、何?事故のショックじゃなかったの?
もう、訳が分からない。
……ジョーカーという人は私がこの教会の人達の所に 身を寄せることを知っていた? 、ここを最初に紹介したのは斗真さんだ。彼が名前を出さなければ、私はこんな教会の存在も知らなかった。
このメールは私宛に届いた私の携帯だ。
それは確実、でも私の元には届かず今まで誰も見られることなく教会の倉庫に捨てられていた。
この教会を最初に紹介したのは斗真さん、
ここを掃除してほしいと頼んだのは葛城先生、
このポーチは比較的最近置かれた。
葛城神父は戻ってくる気配はない。
きっと私にこの事実を知らせようとした。
この鍵は、何処の、なんの鍵だろう 私の、昔住んでいた家、だったりするだろうか。
私の携帯がこんな所にある意味…
それはー
どうして私の私物がこんなところに置かれていたのか。このポーチ類はきっと、事故当時私が身につけていた鞄に入っていたものなのかな。
だとしたら私が意識が戻ったときに私物は何1つなかった。
考えられるのは、私がまだ意識を失っているころ、救急車が来る前、誰かが、私の鞄を、携帯電話と学生証と鍵を持ち出した、ということになる。
私の第1発見者はー斗真さんだ。
彼は最初から私に記憶を取り戻そうとすることを執拗に止めようとしていた。
記憶に繋がりそうな私物を全て持ち出したかどこかに捨てたという可能性は十分に有り得る。
彼が私の私物を管理していたのなら、何故葛城神父は私に見つけさせたのか、理由は分からない。だけど、斗真さんの思惑を全て知っていて、それでも葛城神父は、私に記憶を戻させようとしているのなら、、
いや、記憶を取り戻すことに賛成している人が他にいるかもしれない
「もう、辞めましょう、孤独で悲惨な過去を知ったって苦しむだけ。過去のあなたはもう捨てるのです。思い出ならまたここで、1から作ればいいじゃないですか。
もう1度、リセットするのです。全てを、そして今、ここから、初めましょう。」
今になって、あのときの彼の言葉が蘇る。彼は私の過去を知っていて、それを隠しているー。
「結衣?どうかしたのですか?顔色が悪いですが。」
「いえ、ちょっと、疲れているのかもしれません。」
「大丈夫ですか?放課後のエクソシストの研修会は休みますか?」
「いや、それは参加します。皆さんに遅れをとるわけにはいかないので…。」
「そうですか……?あまり無理しないで下さいね」
「ええ…」
彼が私の記憶が戻らないように交錯していたことを知ってから、私は、斗真さんを信じることが出来なくなってしまった。
優しい言葉をかけられても、笑顔を向けられても、全てが何か裏があるのではないかと考えずにはいられなかった。
ただ、辛い過去しかなかったから思い出して欲しくなかっただけ、、本当に、それだけだろうか?
だって、斗真さんと私は幼馴染で幼いときは仲が良かったかもしれない。だけど中学以降は殆ど関わりがなかった、連絡もとっていなかったといった、そんな友達とも呼べない私に、そこまでする理由がわからない。彼は一体何を知って、何を隠そうとしているのか。
私は、勇気をだしてフィオナさんにこのことを打ち明けようか迷っていた。
…………………………Side other………………………
「結衣、この花壇はもういいわよ、」
「…あ、すみません…」
結衣はぼんやりと心ここにあらずといった虚ろな表情でさっきから同じ花壇に水をやりつづけていた。
「何か…あったの?私で良ければ、話をきくわよ」
「フィオナさん………」
結衣は話してくれた。
自分の携帯電話と学生証が教会の倉庫に捨てられるように置かれていたこと、この教会の誰かが、確実に結衣の過去を核心に至る所までだいたい知っていて隠していること、
結衣はこの教会の誰かと言葉を濁したけれど、それは100パーセント斗真だろうと伺えた。それに、教会の倉庫においたのはおそらく葛城神父だろう、結衣の携帯や鍵は斗真が全て管理していたから、間違ってもあんな所に置く理由がない。
「結衣……あなたは、どうしたいの?思い出したいのか、もう忘れたままでいいのか、はっきりしないと、迷いを抱えたまま闘うのはとても危険よ。」
「フィオナさん……私は、、自分の過去が悲しいものだってことは知っています、初めは、、思い出さなきゃいけないと思っていた。でも、、知るのが怖くなった。それに、何より斗真さんがそれを望んでいなかった。だから、いつの間にか思い出すことを諦めていた。知らないままでもいいと思っていた。でも、私の能力のことを知って、過去の私は、どうしていたのか気になるようになった。なにより、携帯が見つかって、中身を見て、知らない人に知らないメールや電話だったけれど… 私と関わっていた人は確実にいて、私を心配している。だから、知りたい、という感情とは少し違う、真実を、私は知るべきなんじゃないかって、私は何か、大切なことを忘れている。それだけは分かる。何より、待ち受けに写っていたあの人たちを見ると、胸が苦しくなる……。私、その人たちのことを思い出したい。」
結衣…あなたは…あれだけの強力な呪いを受けておきながらまだ、……それは、誰にも止められない、運命をも覆す力だと感じた。
「結衣ちゃん……。あなたがそこまで、望むなら、、いいよ、私が、あなたのことをー」
「フィオナ 」
突然中庭のどこから現れたのか、葛城神父が目の前に現れ話を遮った。
「…今じゃなきゃ駄目なんですか?今結衣ちゃんと大事な話をー」
「いえ…、もういいんです。気にしないで下さい。すみません、変なこと話して…フィオナさんは赤の他人なのに……」
そうポツリと俯きながら呟くと背を向けて歩いていってしまった。……もう結衣はこの話は2度と私にはしないだろうと伺えた。
私は葛城神父に向き直ると一体何の話かと怪訝に思いながらもあとをついていき話をきくことに決めた。
教会の裏手の人気のない場所で突如足を止めて振り返る。
「結衣に余計なことは何も教えるな」
「それはどういう意味ですか?」
「彼女の過去については誰も何も知らない、鑑賞しない、そうやって最初決めただろう、ルールを乱すな」
この人、私たちの会話を盗み聞き?…いや、それにしてもタイミングが良すぎる。…そうか、、天使の力ね…この人はまだ、、、あるんだった…。
私はこの男の言葉にふつふつと身体の奥底から怒りがこみ上げてきた。
「葛城神父、昨日、結衣の過去の携帯を教会の倉庫にわざとかくして結衣に倉庫の掃除と称して見つけさせましたよね?」
だから私も少し煽ってやった。
「…何の話?」
「惚けないで下さい!わざわざ斗真の部屋から盗んできた所をはっきり見たんですから!
葛城神父はどっちの味方なんですか!?
エクソシストを否定してかつて多くのエクソシスト候補生を追い出して!今こんなに白百合寮の人数が少なくなったのはあなたのせいなのに…!
エクソシストには一切関わらない、白百合寮の生徒には一切関わらないと宣言しておきながら結衣の携帯をあんなわかりやすい所に異動させて、記憶を取り戻すのに賛成なのかと思いきや今度は私に結衣には何も教えるなという。
記憶を何がなんでも必死で隠している斗真?教会が脅かされることを畏れて隠しているシスターたち?
一切エクソシストに関わらないというくせに神父として今も教会にい続けている、
悪魔祓いにも全く参加していないのに今も天啓を失うことなく加護を受けている。
あなたの行動は理解できない
あなたは一体、何が目的で、誰を守りたいんですか!?」
失礼なのは百も承知で葛城神父に目と鼻の距離まで詰め寄り問い詰める。
本心を隠しさらけようとしない葛城神父にいい加減業を煮やした。
彼は呆気にとられたようにしばらく固まって私を見る
「………私は、、、私が守りたいものはー、」
…………………………………………………………