贖罪と代償
「八王子の七里記念病院の精神病棟に入院中の20代女性患者が、昨夜から異常な言動を繰り返しているそうです。医師から悪魔つきではないかと、この教会に要請があったのです。」
「え!?それって、悪魔祓いの依頼!?」
「ー分かりました。女性の容態は?」
「元々重度統合失調症の患者で半年前から入院していた患者なのですが、昨夜から容態が急変し、今は拘束していますが自傷が酷く、一刻を争います。」
「分かりました。向かいましょう。あなたは戦える修道女たちを二、三名呼んできて下さい。」
…私は意を決して、ユナン神父に向き直った。
「ユナン神父、お話があります。」
彼は急いで鞄に聖水やら聖書を詰め込んでいる
無線機で他の寮生や修道院にも連絡をとっているようだ。
「後にして下さい。今から救急患者の悪魔祓いに出ますので、」
「その悪魔祓い、私も連れて行って下さい!」
私は忙しなく執務室を出ていき廊下を急ぐユナン神父に向かって意を決して叫んだ。
「え? 」
「私、祓魔師になりたい、皆のような祓魔師に、」
「本当ですか!? 」
ユナン神父は意表を突かれたような顔で振り向くと、目を輝かせなから私の肩を強く掴む。
「はい。やっぱり、何もしないで守られているだけは嫌なんです。私にも役に立てることがあるのならば、力になりたい。
だから、彼らの悪魔祓いを、もう一度この目で見たいんです。」
「結衣……」
「決して邪魔にはならないようにします、お願いします!」
「もちろんです、あなたの覚悟は分かりました。同行を許可しましょう。」
「ありがとうございます!」
「ただし、あなたが悪魔に襲われては身も蓋もないので、今回は室外の廊下で見学という形にしましょう。」
まもなくロビーに瀬野さんと桜田さんと2人のシスターが集まった。 その中にはフィオナさんの姿があり驚いた。
「え?フィオナさんも、祓魔師なのですか!?」
「私はただのメデューサなだけ。祓魔師たちの補助、のようなものよ。身体も弱いし皆みたいな力はないから。」
ユナン神父が用意してくれた車に乗り込む。
最後に、後から駆けつけてきた斗真さんは私の姿を見て硬直する。
「どうして……あなたがここに……。」
「私も祓魔師になることを決めたんです。今日は見学だけです、皆さんの邪魔にはならないよう気をつけます。」
………………………three hours laiter ………………………………………
桜田さんを除いた私たち寮生はユナン神父の運転する車に乗っていた。
外は真っ暗で、激しい雷雨が窓を叩きつける音と、
移動中、一言も会話はなく、皆暗く沈んだような顔をしている。。
今回の悪魔祓いは、失敗に終わった。正確には、悪魔の消滅には成功した。だけど、患者はー
長く根を貼り、深く潜り込んでいればいるほど、引き離すのに時間を有するという。
序列の高い大悪魔であったこと、病院側が患者の病気からくる衝動であると疑わず、中々エクソシストを要請しようとしなかったこと、そして、
「本当に、申し訳ありません、私に、もっと力があれば、、」
「何度も言うが、瀬野はよくやってくれました。仕方、なかったのです。あまり責めてはいけません。ほら、明日も皆学園ですから、早く自室に戻って休みなさい」
何度目か分からない瀬野さんの謝罪を、ユナン神父は優しく制する。
今夜の悪魔祓いは、瀬野さんが天使の召喚をし、中心で闘った。
彼は、すごく強い人だ、6歳のときから実践を積んで、エクソシストの家系でないのに、早くから天啓を授かって、今まで何度も悪魔狩りや、悪魔祓いに成功してきた。
失敗が、なかったわけじゃない、でも、患者が亡くなってしまうのは、ここ最近は、防げていたという。
元々、ユナン神父の天使は太陽の出ている昼間しか召喚が出来ないという大きな難点があった。そして、桜田さんは、運悪く、昨日から実家に帰っていた。実家の近くの教会で、サポートをしていることがよく、あるんだそう。
長い、3時間以上にも及ぶ闘いだった。今でも思い出せる。
あの、恐ろしい悲鳴に絶叫、そして、夥しい血痕が至る所に広がり、ガラスは粉々に割れ、ぐちゃぐちゃに物が散乱し、そして、ベッドの上に、力なく横たわる、あの女性のー
うっ
「ゲホッごホッ……っ」
「はァ、、っハア……っ」
激しい惨状が脳裏に焼き付いて離れない。
鍵のかけられた病室の廊下から、私はずっと見ていた。ただ、何も手を差し伸べることすら、出来ずにー
その日は、とてもじゃないが眠ることが出来なかった。
翌日の朝食時、私は改めて寮のメンバーと数人のシスターに、祓魔師としてこれから戦いに参加していく決意を表明した。
桜田さんとユナン神父は私を応援してくれたが、シスターたちは表面上は認めてくれたが、どこか納得していないような表情だった。
そして、一人学園に向かい、正門を超えたあたりで、数人の生徒に囲まれて何か楽しそうに話している葛城神父を見た。
「………」
この人は祓魔師でありながら、私たちの祓魔師隊には参加していない。天啓を得ている強い祓魔師でありながら、一人で、誰とも協力しないで、行動してるって、
学園の講師が本業だから、助けを求めても来てくれないって、ユナン神父に言われたときは、分かってはいた。いや、分かっている、つもりだった。でも、
携帯を取り出し、メールを見る
《夜分に失礼します。先程も留守電に入れさせていただいたのですが、現在七里記念病院にて患者の悪魔祓いを実施しているのですが、状況は芳しくなく患者の容態も悪化していて、葛城神父の力を貸していただけないでしょうか?お願いします。》
返事はなかった。電話だって何度もした。
彼は、教会に住んでいないし、家族だっているから、用事があったのかもしれない、それでも、葛城神父が来ていてくれたら、、!
天啓のある貴方が、助けてくれていたら、あの患者さんは…
駄目だ。私はこんなことを言う資格も、何も無い。私には、闘える技術も知識も、全く素人なんだ。だから、ユナン神父が良いというなら、従うしか、ないんだ。こんなことに躍起になっても、仕方ないのに…
帰宅後、
ユナン神父からエクソシストや悪魔祓いに関するの資料を貰っていたため、読みふけっていたが 流石に疲れ始めたため外の広場で息抜きでもしようと思い図書室を後にした。
「認められません!!」
!突然執務室の扉の向こうから誰かの怒声が聞こえた。その声は私のよく知っている、斗真さんの声だった。切羽詰まっているような緊迫した雰囲気を思わせた。
執務室ということは、向き合っている相手はおそらくユナン神父だろう。考えずとも何の会話かは想像できてしまった。
「結衣をこのまま祓魔師を続けさせるわけにはいきません!
メデューサなだけで恐れていたのに、まさか、祓魔師になる道を選ぶなんて……もう終わりじゃないですか!」
「斗真、あなたの言いたい事はよく分かります。」
「はっどうせあなたは自分の後継者を増やしたいだけでしょう、行く末地獄しかない祓魔師の未来なんてもう私たちの代で根絶やしにするべきです!!」
「斗真…私たち祓魔師の活動は国家から認定を受けているれっきとした職業です。祓魔師がいなくなれば人間はたちまち悪魔に蝕まれ悲痛な人生に身を落とすことになる。」
「私は結衣が目を覚ましたと聞いたとき私の祈りは神に聞き届けられたのだと確信しました。今日までクリスチャンであったことを誇りにもおもいました。
そんな結衣をまた命の危険に晒せというのですか!?」
「違います、そうではありませんよ、斗真、結衣は危険だと充分分かっていた上で自ら身を守るために祓魔師になる決断をしました。祓魔師はどれほど危険な仕事か分かっています、ですが何もしなくても結衣は危険です、だったら祓魔師として戦う道を選びたい、そう結衣が覚悟を決めて話したのです。」
「そんなはずありません!結衣が自ら戦いたいなんて言うわけ…
あなたが何かしたんでしょう!?結衣を脅して…!あなたが唆したに違いない!!」
「……もう勝手にしなさい!!私は知りません!
そんなに結衣を引き止めたいなら私に当たらず自分で何とかしなさい!!」
バン!
ユナン神父は勢いよく扉を開ける 私は驚き隠れようという意図もわかずすこし後ずさるだけになってしまった。
ユナン神父は私に気づき一瞬驚いたような表情をしたが、何も言わずに去っていった。
「結衣…… 」
執務室の奥で斗真さんが嘆くような哀しい瞳で力なく呟く。
「嘘ですよね…祓魔師になるなんて…」
「いいえ。
私は決めたんです。祓魔師になって自分の身は自分で守る。私は祓魔師になりたい。」
「どう…して…」
「あなたが教えてくれたんですよ。あのとき、皆のエクソシズムを真近で見て、怖さもあったけれど感動しました。恐れることなく悪魔と闘った皆に。斗真さんのまっすぐな瞳に、信念に、私は心を動かされたから。私がここに来ることがなかったら、ずっと知らなかった世界だった。知らなかった感情だった。
斗真さんが私を心配してくれる気持ちはすごく嬉しい、病院でひとりぼっちで行き場を失っていた私に手を差しのべて居場所を与えてくれたこと、感謝しきれないほど嬉しかった。だからもう、守られるだけじゃなくて、自分の力で、ある程度の護身は身につけたい、そう思った、だからー
「祓魔師になれば必ず後悔することになる、自分の命を無駄にしているんですよ!?あなたが悪魔祓いを続けたって…そんなことをしたって無駄なのです!結衣に天啓が降りることは決して、100%ありません!!あなたの行動はただの時間と命の浪費でしかありません!」
どうして、伝わらないの…?私は自分の意思で、決めたこと、これが私の一番の選択なのに…。
本気で血相を変え見た事もない表情で反論する斗真さんを見て、心が苦しくなった。
「私、斗真さんと同じ祓魔師になって支え合いたいです。仲間として、一緒に、きっとなれるはずです!皆が命をかけて戦っているのに、私は皆に守られているだけで、普通にただの高校生として生きろなんて…そちらの方が私は死よりも嫌です!!」
私は怖気づきそうになる心を必死で耐えて斗真さんを真剣な眼差しで見つめる。
「………もういいです。あなたにはお手上げですよ。」
しばらくお互い無言のまま斗真さんは私を射るような視線で睨みつづけていたけれど、そう諦めたように呟くと、そのまま執務室を出ていってしまった。
あ……
まだ戦ってすらないのに、私には天啓がこないとはっきり言われたことはショックだった。でも、まるで確信しているような口ぶりだった。
どうしてそんなに私をエクソシストから遠ざけるの?分からないことばかりだ。彼はいつも私に一方的にこうあるべきだと理想を語るくせに、自分のことも、本心も何も教えてくれない。
ねえ、あなたにとって、私って何…?
……………Side other……………………………………
部屋に戻りベッドに倒れる、襲い来るのは自責の念だった。
結衣に酷いことを言ってしまった。結衣は何も覚えていないのに…結衣を傷つけるつもりはなかった。そんなのただの言い訳にしかならないことは分かっている。
私には結衣しかいないのに……
貴方まで離れて言ってしまったら、私は…っ
『ねぇ、… 斗真、、…斗真、起きて 』
! 目の前に 制服姿の女の子が顔をのぞき込んでいる。茶髪のショートカットヘアに、ほんのり日に焼けた額が夕日を浴びてキラキラと彼女を照らしている。それは、忘れるわけもない、私のよく知っている人物ー、
『あや、か……?』
『まーた眠っちゃってたんだね~ もうとっくにホームルーム終わったよ 』
ここは、、教室…?自分の座っていた机には参考書が無造作に広げられている。
私は、なぜこんな所で、寝て…?
『一緒に帰ろ!』
笑顔で手を差し出す彩香に私は状況が整理しきれなくなる。
どうして彩香がここに…?彩香はもういるはずがないのに……あれ?いるはずがないって、どうしてそんなふうに思ったのだろう。彩香とは毎日放課後一緒に下校していたじゃないか。
『皆もう帰っちゃったよ 』
『彩香…今日部活は?』
『もうとっくに終わったよ?下駄箱に斗真の靴があったから、もしかしたら、と思って教室に寄ったの。』
『もう黄昏時じゃないですか そんな時間まで待っていてくれたのですか?』
『だって斗真全然起きないんだもん。でもわりとLINEとかしてたらすぐだったよ』
『斗真、最近疲れてるんじゃない?』
鞄に教科書を詰め込んでいたさなかに
ポツリと彩香がもらした一言に手が止まる。
『え?』
『何だか顔色、悪いからさ。』
『そうですか?……確かに、昨日の夜救急患者が運ばれてきて、寝たの3時くらいでしたから。。』
『3時!?大丈夫なの?祓魔師のお仕事も大切だけど、身体を壊しちゃ元も子もないんだから、あまり無理しちゃダメだよ。』
『私は平気ですよ、慣れていますから 』
『もーいつもそればっかり!斗真はもっと自分のことを大切にしなきゃ!
青春は今しかないんだからさ~』
『はいはい。でも彩香の方こそ、気をつけて下さい ね
あまり暗くなる前に帰らないと、最近悪魔が増えてきていますから』
『私は大丈夫!悪魔なんかやっつけちゃうもん!
体操部の力を甘く見ちゃいけないよ!
彩香キーック!!』
『あはは、彩香は見えないでしょう? 』
空中で飛び蹴りしてみせながら笑う彩香の姿に釣られて微笑む。…なぜだろう、こんな光景があまりにも懐かしく見えた。
今なら…いえるかもしれない。彩香に、伝えなければいけないことがあった。ずっと、
『彩香……私…』
いつの間にか教室から景色が屋上に一変する。風が吹き荒れ今にも振り出しそうな曇り空だった。
『ん?』
微笑を浮かべながら振り向いた彩香は、屋上のフェンス越しに もたれかけ 今にも 夜闇に紛れて消えてしまいそうなほど儚い。
髪は水浸しに濡れ制服は乱れ、汚れた惨めな姿だ。
『彩香……大丈夫、ですか…? 』
『大丈夫だよ』
『!本当に!?私、ずっと…彩香に、謝りたくて…!』
『全部分かってる』
『許してあげるよ、斗真のこと 』
彩香はそう優しい声色で呟くけれども涙を流していた。
だんだんと彩香の姿が薄れていく 彩香の存在が、身体中のひびというひびから溶けて滲んで消えていくように…
『彩香…!』
手を伸ばしたが時既に遅く、足元が崩れ落ち、まっ逆さかまに落ちていく。
『うわあああああああ!!』
迫り来る風圧と 衝撃の中、、意識が途切れる瞬間まで、はるか頭上で彩香は私をただじっと、無表情に見下ろしていた。
ジリリリリリ!
!!!
時計のアラームの音で飛び起きる。時刻は深夜3時を過ぎた所だ。
…私、どうして今頃あんな夢を…?当時は毎晩悪夢のように彩香の夢を見たけれど
最近見なくなってきていた彩香の夢を…。
あの彩香は私だ。三年前の私。彩香が苦しんでいるのを知っていながら、助けを求める声を全て無視し、ただ無感情に見ていただけの私。
『すごいね!祓魔師って!』
『…え?』
『だって、悪魔から人々を守っているんでしょ?彩香には見ることはできないし、無宗教だし、力もなにもないけれど、これだけは分かる、斗真たち祓魔師は世の人々の命を救う誇らしい人たちだってこと!』
『私の話を、信じてくれるのですか…?』
『信じるよ!当たり前でしょ。だって私たち、友達だから。』
彩香………
私は、あなたを、、信じていたかった。
なのにー、、
………………………………………………………………
祓魔師になって、1ヶ月が過ぎた。
私は人間の悪魔祓いには皆のサポートという形だが、小動物など人間以外の低級の悪魔祓いは一人でもできるようになった。また気配を察知すれば悪魔刈りに同行している。さらに自分の身を守れるようにと剣術を教わっている。
最近は昼間でも依頼があったり、気配を感じるときが増え、学校を早退する日もしばしばあった。
だからだろうか、最近、私に対する周りの目が冷たく、よそよそしい感じがしていた。
「良いよね〜祓魔師は、成績も内申も関係なく学園をサボれて」
放課後、帰ろうと教室を出た最中、廊下でヒソヒソと言い合っていた女子生徒数人が、私を見るとあからさまに聞こえるように声量を上げ嫌な笑みで笑いながら言う
最近、よくあることだった。
私は無視し彼女らの横を通り過ぎようとした。
「ただでさえ気味悪いのにうちのクラスからも最悪だわ〜」
「祓魔師はあなたたち一般人と何ら変わりない1生徒だ。彼女たちを悪く言うことは許さない」
いつの間にか、現れたのは瀬野さんだった。
間に割って入り拳を握り締めながら反論している。
正直、呆気にとられ、何も反応出来ずにいた
「……またなの、この人、、あれでしょ、3年の、フェンシング部の、、私聞いたんだけと、あんたも祓魔師で、あの呪われた教会にデイりしてるって言ってたわよ」
……
呪われた教会というのは、アトランティス教会のことだ。あまり人気のない森の奥深くに、建てられていることと、近くに広大な墓碑がある。そのことを不気味に思う生徒らからはそんなふうに呼ばれることも少なくない。
「じゃああんたも頭いかれてるんじゃないの?前からおかしいと思ってたんだよね、先生は誰も否定しないのに、いつもいつもあいつらを庇ってきて、悪魔なんているわけないじゃない」
……あいつら?
「戯れ言や妄想癖もいい加減にしてほしいわよね〜この誇り高き由緒ある学園の恥ですわ」
「信者で塗り固めて、洗脳してお金を巻き上げてるなんて、悪徳商法と同じじゃない〜?」
「「あはははははは!」」
「悪魔は存在している、確実に、戯れ言でも妄想癖でもない!確かに、悪魔祓いで病院や、企業から報酬としてお金は得ている。でも、それは決して悪徳商法などではない」
「へぇーそう」
彼女たちは一瞬戸惑っていたけれど、嘲笑するような笑みを浮かべながら近づいてくる。
「じゃあ実際に連れてきて証明してみせなさいよ!その天使だとかを使って悪魔を払ってみなさいよ!」
「ああ、お望みなら、いつでも見せてやるよ だがその後に、お前らが忘れていなければな!」
……?
「はっ!またそれ、いつもそういうよね。言い逃れは苦しいって。もう認めちゃいなよ 全て私たちの妄想の世界ですって」
「妄想なんかじゃありません!!私も、見えます。悪魔が、メデューサと呼ばれる特殊な能力者なら、見ることができます。
」
「能力者って……あはははははは!
よく恥ずかしげもなくいえるよね。」
「……見えないからって、分からないことを、知らないことを、否定したり、蔑むのは間違ってると思います。」
瀬野さんは呆気にとられたようにしばらく私を見ていた。
気づけば、少し人だかりが出来て、注目の的となっていた。
「知ろうとすること、理解しようとすることを、矯正するつもりはありません。自分の信念や、生き方、考え方は人それぞれですから、だから、私たちはその姿勢について何も言いません、でも、それなら、思い込みや固定観念で、否定する権利だってあなたたちにはないはずです。」
震える声で女子生徒たちに反論する。初めてだった。
許せなかった。祓魔師のことをよく知りもしないくせに、悪い噂を広める人たちが、
「何なの、こいつ……」
「なんだ、どうしたこんな所で 」
階段を上がってきた別の教師が 廊下の真ん中で言い合っている私たちの間に入った。
「……もう行こう
こんな奴らと関わっても時間の無駄だよ」
「そうね。あんたらといると、私たちまでそういう目で見られそうだし」
彼女たちは、そう冷たく言い放つと、階段を降りて去って行った。
」
そして、瀬野さんは何事もなかったかのように去ろうとする
「あ、あの、!私を、庇ってくれて、ありがとうございました。」
「君のためじゃない、これは、俺の、、いや、なんでもない。」
階段を振り返ることなくそう呟いた。
薄情な人だと、思っていた。ずっと、
でも、何か理由があるだけで、本当は違うのかもしれない。
……………………………………………………………
…眠れない。深夜12時頃、 どうしてか眠りにつけなかった私は外の空気を吸って息抜きをしようと1階に降りた
…?ロビーの鍵があいている。誰か、外出しているのだろうか。
気がつけば教会の目の前に来ていた。天井のステンドグラスが月明かりに照らされ淡い光を放っていた。聖堂に入り奥に歩いていくと、暗くてよく見えなかったが一番前の祭壇に近い場所の椅子に人影があった。
「斗真さん…?こんな所で、何してるんですか?」
電気も付けずに1人座り込みマリア像の方角を見つめていた。祈りを捧げているわけでもなく。
何か思い悩んでいることでもあるのだろうか。
「 少し考え事をしていました。
ここに来れば、落ち着きますから。私の好きな場所なんです。結衣こそ、どうしてここに?」
「私も同じです。考え事をしていたら眠れなくて…息抜きに外に来たのですが、気がついたら教会に向かっていました。私もここの空気が好きです。心が洗われる気持ちになります。」
そっと隣に腰掛ける。この一般のクリスチャンたちが座る場所に私が座るのは初めてだった。いつも祈りを捧げるときも、ミサのときも前にたって司祭の補助やシスターと共に動いていたから。
「昨日のこと、瀬野から聞きました。あなたは、、強い人だ。とても」
「いえ…白百合寮の祓魔師たちは私を救ってくれた命の恩人ですから。。それに、私だって怖かった、瀬野さんが最初に言い返してくれなかったらきっと、ずっと言われっぱなしで、何も出来なかった。
いつか皆さん分かってくれますよ。私たちのこと。
祓魔師が、世の人々全てに、理解されることを、願っています。」
斗真さんは突如振り向き驚いた表情をする。
「?どうかしましたか?」
「今のあなたは記憶をなくしてすぐのあなたよりずっと強くなりました。
瞳につよい意志と決意を感じます。
実戦を積めば結衣はもう立派な祓魔師として闘えます。
天啓を得ればもう、私がいなくても、あなたは自分を守ることができます。」
「……天啓が来ると、思っているんですか?」
「そうですね。確率は、限りなく低いでしょう。貴方がずっと感じてきたように、私は結衣、あなたのことをよく知っている、でも教えられないんです。そういう決まりだから、ごめんなさい」
「…はい、気づいていました。でも…それが私を守ろうとしてくれているならば、私はこれ以上、今は追求しません」
「ありがとうございます、必ずあなたを救います。だから、今は、私を信じて下さい」
そう、 悲しいほど寂しそうな表情で、私を見て話した。
救うって、どういう意味ですか……?私は喉もとまででかかった言葉を飲み込む。