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その日のデートは始終フワフワしていて、弥生はあまり記憶がなかった。

せっかくの治朗さんとのデートなのに勿体ない。

弥生が見たいと行った映画を二人で見て、カジュアルなイタリアンで二人で食事して、酔っぱらっちゃいけないと思ってお酒は控えたのに、そのほとんどを覚えていない。

弥生が見たいと言った映画だから、映画の感想とかを言い合ったと思うけれど、それも半分上の空で、その時の治朗さんがどんな反応をしたかも、記憶の片隅に少しある程度だった。

不思議なことに、こんなにぼーっとしている弥生を治朗さんが心配してくれた記憶もあまりなく、なんだか始終夢の中にいるような気分だった。

もしかしたら、これは本当に夢だったのかもしれない。


いつもどおり、治朗さんが弥生の家まで送ってくれて、

弥生が、どうしよう、部屋にあがってもらった方が良いのだろうか?などど考えを巡らせていたら、


「弥生ちゃん」と、頭の上から治朗さんの声が降ってきて、「はい。」と見上げたら、

治朗さんの唇が弥生のそれと重なった。柔らかく温かく心地よかった。

治朗さんの唇が離れた瞬間に「はぁ」と呼吸したら、また治朗さんと唇がつながって、優しくでも少し強引に弥生の口の中に舌が入ってきた。

”大人のキスだ”

弥生は冷静にそんなことを考えながら、されるがままにキスを重ねた。

弥生はただただ治朗さんとのキスに溺れ、そして気づいたら二人の唇は離れていた。

少しぼーっとしている弥生に治朗さんは優しく微笑みかけて、「大丈夫?」と声をかける。


我に返った弥生は、真っ赤になった頬を両手で隠すように包み込んで、「だ、だ、大丈夫です。」と答えたけれど、どう見ても大丈夫には見えなかったと思う。


「ごめん。弥生ちゃんがあまりにも可愛くて。」

いつもより少し上ずった声でそう言った治朗さんは、弥生を優しく抱きしめてくれた。


「あ、あの、寄って行きますか?」

唐突に、思い出したかのようにお誘いすると、


「それは魅力的なお誘いだけど、自制心が効かなくなりそうだから、今日は帰るよ。」

治朗さんは苦笑いしながら答えた。


そうか、ちょと残念だな、と思っていると、

「おやすみ、弥生ちゃん。またね。」

治朗さんが優しく弥生の頭をポンポンとする。


「はい、おやすみなさい。」

そう言ってまだこの夢のような現実から離れたくないなと考えていた弥生に治朗さんは、

「ほら、早く家の中に入って。」と急かすように声をかける。

「ちゃんと鍵をかけるんだよ。」と言う言葉と共に家に入るよう促された。

バタンと扉が閉まるまで、治朗さんは弥生を見送ってくれた。


閉まった扉に鍵をかけて、弥生はその場に座り込んだ。

キスを、してしまった。治朗さんと、大人のキスを。


唇に残る感触を感じながらさっきまでのキスを思い出し、キスってこんなに幸せな気分になれるんだと、弥生は初めて知った。


今日一日、ずっとフワフワしていたけれど、最後にやってきた特大級のサプライズは、弥生をさらに夢うつつにさせ、もしかしたら今日一日がずっと夢だったのかもしれない、と思わせた。


家に入ったあとも、ずっとボーッとしていたように思う。

どうやって着替えてどうやって布団に入ったのかも覚えていなかった。


ただ、この気持ちだけは弥生の中に明確に居座って、離れてくれない。

さっき別れたばかりなのに、もう治朗さんに会いたくて仕方がない。

そんな思いを抱えながら、弥生は眠りについた。


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