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治朗さんは優しい。
どんな時でも弥生のことを優先して考えてくれるし、とても大切にしてくれているように感じる。
いつだってリードしてくれるのは治朗さんの方だし、弥生に無理強いはしない。
弥生の雰囲気や行動を的確に読み取ってくれて、過不足なく手を差し伸べてくれる。
まるで真綿でくるまれているように、優しく優しく守られているような気分になる。
治朗さんが弥生に好意を持ってくれているのは分かる。
その好意が恋愛によるものなのか、親愛や家族愛に似たものなのか、弥生には測りかねる。
治朗さんにとって弥生とは、ただ仲の良い友達として健全なデートをする間柄なだけなのかもしれない。
治朗さんにはもっと魅惑的な彼女がいて、だから弥生とそういった関係になる気はないのかもしれない。
もしそれが本当なら、世の中の男性を魅了する女性とは程遠い位置に自分がいると自覚している弥生に、勝ち目はない。
自分がどうしたらそういった対象に見てもらえるか、知る由もない。
ただ、与えられる幸せを享受して、この心地よい世界に浸っていれば良いのだろうか。
ひとつだけ、この現状を打破する方法を弥生は知っている。
だけど、全てが壊れてしまうかもしれないその方法を実行する勇気が、まだ持てない。
治朗さんのことが大好き。
この心地いい空間にもう少しだけ、留まっていたい。
そんな風に思いながら眠りに落ちた。