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あの後から時々、治朗さんから電話がかかってくるようになった。

相変わらず忙しくてなかなか会えない日が続いたときに、弥生は思い切って「顔が見たいです。」と伝えてからは、ビデオ通話もするようになった。


だから、会っていないけれど淋しさは半減だ。

ビデオの向こうの実体には触れられないから、淋しいのに変わりはないけど。


今日も少し遅い時間に、もう寝る準備を整えてから治朗さんとビデオ通話をしている。


「やっと忙しいのが一区切りしそうなんだ。」

画面の向こうで少し疲れた顔をした治朗さんが優しく微笑む。

「お疲れ様です。少しゆっくりできますね。」


「うん。それでさ、次の週末に一緒に出かけない?」


「良いんですか?治朗さん疲れてるんじゃ?」


「疲れてる。」真面目な顔で治朗さんが言う。

「疲れてるから、弥生ちゃんが癒して。」

ちょっとだけおちゃめに治朗さんが答える。


弥生は顔を赤くしながら、「土曜日は仕事ですが、日曜日はお休みです。」と答えた。


「いつもの駅前に集合でいい?それとも家まで迎えに行こうか?」


「駅前集合でいいです。」

赤くなった顔を隠したくて俯き加減に答えた。


久しぶりに治朗さんとお出かけできる。何を着ていこうか、と弥生はわくわくしながら通話を終了した。




約束の日は存外早くやってきた。


この日のために新しく買ったワンピースに袖を通して姿見の前に立った弥生は、変じゃないかな?と全身をチェックした。

頑張りすぎていないように、でも可愛いと思って欲しいからふんわりとした可愛いらしいワンピースにした。

服に合わせてお化粧もナチュラルの中に可愛いの要素を取り入れて。


約束時間に遅れないように余裕を持って家を出たのに、久しぶりに履いたサンダルは弥生の足に合わなくて、駅までの道中でもう靴擦れを起こしかけている。


やばい、これ絆創膏を貼っとかなきゃいけないやつだった。

家に戻っている時間はないので、駅前のコンビニかドラッグストアで絆創膏を買った方が良いな、と思いながら先を急いだ。


こんな日に限って、信号によくひっかかる。


早めに家を出たはずなのに、痛い足のせいで早く歩けないのに加えて今日はやたらと赤信号にぶつかった。

ついてないな。

ふと頭に浮かんだ言葉を頭を振って振り切る。今日は久しぶりの治朗さんとお出かけなんだから、そんなこと考えちゃダメ。楽しいことを考えよう。

治朗さんの顔を思い浮かべると、自然と笑顔になれた。


駅前に着いたのは約束の10分ほど前だったけど、治朗さんはもうそこにいて、弥生の姿を見ると片手を軽く挙げて柔らかく微笑んでくれた。


「こんにちは、弥生ちゃん。」


「こんにちは、治朗さん。すみません、待たせてしまって。」


「いや、まだ10分前だし。僕が早く来すぎただけだよ。」苦笑しながら治朗さんは言う。

「行こうか。」そう言って弥生の手を繋いで駅に向かって歩き出した。


「あの、今日はどこへ?」


「あぁ、そうだね。言ってなかった。」驚いたように目を数回瞬いたあと、今度はいたずらっ子みたいな顔をして、「せっかくだから、着くまでのお楽しみにしよう。」と言って、さっさと改札を通り抜けて行った。


弥生は一瞬フリーズしてしまったが、ハッと気づいて治朗さんを追いかける。


改札の向こうで待っていてくれた治朗さんはにっこり笑いながら弥生に手を差し出した。

二人で仲良く電車を待つ間、電車に乗っているとき、治朗さんは最近知った雑学を面白おかしく話してくれた。弥生は最近読んだ本で興味深かった話をした。


電車を1回乗り換えて、30分くらいだろうか。「次で降りるよ。」そう言って治朗さんは弥生の手を握った。治朗さんを見上げると、ニコリと笑ってくれた。


降り立った駅は郊外の小さな駅で、だだっ広いロータリーがあるだけで周りに何もない駅だった。


「少し歩くけど、大丈夫かな?」


「はい。」


「じゃぁ、行こう」


繋いだ手は弥生の半歩前を進んでいくけれど、ちゃんと弥生に合わせてゆっくり歩いてくれる。時々伺うように弥生の方をチラチラと見ながら、治朗さんは迷いなく進んでいく。

つないだ手が弥生を安心させてくれる。この手に付いていけば間違いない、と。


「これから行くところさ、たまたま雑誌で見つけたんだけど、見た瞬間に弥生ちゃんを連れていきたいなって思ったんだ。」

前を見ながら治朗さんは言う。

「それは、楽しみです。お化け屋敷だったら泣いちゃいますけど。」おどけて言うと、


「お化け屋敷、ではないかな。」治朗さんもつられて笑ってくれた。



到着した場所はとても素敵な古民家カフェだった。

予約をしていてくれたみたいで、名前を言うとすぐに席に案内された。


「すごい。素敵なカフェですね。」

にこにこしながら弥生は言う。


「ここ、150年前の家屋を移築した古民家カフェなんだって。これを雑誌で見た時、弥生ちゃんのことが一番に頭に浮かんでね、連れてきたいなって。いつか、リノベーションの話をしたことがあったでしょ?こういったリノベーションもおもしろいんじゃないかと思って。」


「あ、はい。すごくドンピシャで興味があります。実は、古民家カフェを開くのが夢だったりして・・・。なので、すごく嬉しいです。勉強になる。」


「そうだったんだ、ここ、建物もすごく面白いんだよ。あの梁なんて、木の形をそのまま使って作られてるし、普通の古民家より天井がすごく高いでしょ。1階建てなのに。」


「そうですね。自然の素材をこんな風に活用して作れるなんて、本当に素敵だと思います。」


カフェの食事も素敵だった。

ランチセットのパスタを注文して、治朗さんの勧めもあってデザートプレートも付けてもらった。

食後に付いてきたコーヒーはマスターのコーヒーには負けるけど、食事もデザートも存分に楽しんだ。


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