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弥生の一番のお気に入りはハンバーグ定食なのだけど、今日はちょっと恥ずかしくて、チキンのトマト煮込みを注文した。

ジロウさんはとんかつ定食を注文していた。


二人でドリンクバーにドリンクを取りに行って、並んで席まで戻る。

こんなちょっとしたことが、なんだか嬉しくてこそばゆいような気持ちになる。


「ジロウさんはよくファミレスに来るんですか?」


「んー、そんなには来ないかも。どっちかと言うと、定食屋さんとか居酒屋とかが多いかな。弥生ちゃんは?」


「私は、外食をあまりしないです。一人で外食はちょっとハードルが高いので、家で食べることが多いです」


「そっか、さっき言ってたもんね」


ジロウさんはご飯の食べ方がとても綺麗だ。

無駄な動きがない。スッとお箸が動いて、綺麗なままジロウさんの口に食べ物が収まっていく。あまりにも綺麗だから、ずっと見ていたくなるくらい。

無意識にジロウさんの食べ方を凝視していたらしく、目が合ったジロウさんに「ん?」と首を傾げられた。


「ジロウさんって、食べ方がとっても綺麗ですね。」


「そう? そうかな?」


「はい。無駄がないというか、とても綺麗です。小さいころから食べ方について厳しく言われていたとか?」


「んー、そんな記憶はないんだけど、何だろうね?あまり意識したことがないから、自分ではよくわからないや。」


「ジロウさんは次男ですか?」


「いや、長男だよ。名前はジロウだけど、字は”治”に”朗”は朗らか。確かに、音だけ聞くと次男みたいだよね。」


「そうだったんですか。勝手に次男だと思ってました。ご兄弟は?」


「二人姉弟で姉がいる。だから、長男だけど弟で末っ子なんだ、実は。」


「え? 意外です。」


「そう?それはどういう意外なんだろう?」

首を少し傾げながら、ちょっと困ったような表情で問われる。


「弟か妹がいそう。」

「面倒見がよさそうってこと?」


「そう、ですね。優しいし、すごく気遣ってくれるから。」


「それは、母と姉の教育の賜物かも。」

苦笑いしながら治朗さんは答える。


「お母さまとお姉さまの?」


「そう、レディーファーストを叩き込まれたからね。女性には優しく!親切に!!って。」


「そうなんですか?素敵な教育ですね。」


「そうかな?でも、弥生ちゃんにほめてもらえるなら、そうなのかもしれない」

嬉しそうに笑いながら治朗さんは答えた。


「弥生ちゃんは、お兄さんがいる?」


「え? なんで分かるんですか?」


「んー、何となく?お兄さんが二人くらいいそうだね」


「えーっと、三人います。」


「あはは、そうなんだ。で、末っ子?」


「はい。四人兄弟の末っ子です。」


「きっと、大切に育てられてきたんだろうね。」


「恥ずかしいんですが、過保護に育てられた自覚はあります。」


「うん、良いことだよ。こんなに真っすぐ純粋に育ってくれるなら、お兄さんたちの自慢の妹なんだろうね。」


「過保護すぎて高校の頃なんて、門限が厳しくて友達と遅くまで遊べなかったし、一人暮らしもなかなか許してもらえなくて、説得するのに骨が折れました。」


「じゃぁ、念願の一人暮らしだったんだね。」

にこにこ笑いながら治朗さんは言う。


「大学でこっちに来た時に一人暮らしを始めたんですが、一人暮らしを認めてもらうために、大学に合格できるよう必死で勉強しました。」


「そうだったんだ。ちゃんと努力できるのは素敵なことだね。」

一人暮らしという目的のために選んだ進学先に多少の後ろめたさがあった弥生には、その言葉が温かかった。

そう言ってくれる、そう思ってくれる治朗さんを、優しいひとだな、と思った。


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