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第79話 ミーミルの泉へ

「ビュートか。今まで何をしていた?」

「何ってそんなのテメェに教える義理はねえーーっと普段は言いたいところだが今回ばかりはそうも言ってられねえ。あの蠅の王は見ただろ」

「ああ、事情はこの悪魔から聞いた。ベルの姉だそうだ」

「そうか。じゃあ、時間もないことだし掻い摘んで話すぜ。実はこの俺様はただの使い魔じゃない。元は蠅の王と呼ばれ、恐れられた悪魔だった」

「蠅の王だと? しかし、それは……」

「ああ、目覚めた。目覚めちまった。あれは俺様の片割れだ。俺様は強すぎるからバラバラに封印されちまったんだよ」

「つまりベルを乗っ取ったあれはお前の一部というわけか」

「俺様が魂ならあいつは肉体だ。魔力源となる魂がないが、それは憑依した相手から吸い取ることで解決していやがる」

 どの世界にも魂魄概念がある。転生屋がどの世界でも同じ方法で転生させているのがその証拠だ。

 たまに機械生命体ばかりで魂がない世界もあるがそれはごく僅かで基本は魂は存在している。

 人間にも悪魔にも。

「それじゃあベルは……」

「このまま行けば吸い尽くされるぜ。だからそうなる前に引き摺り出さないと取り返しのつかないことになっちまう」

「引き摺り出すか。言うのは簡単だがあれは厄介だぞ」

「ほう。テメェにそう言われるとは光栄だな。確かにあれは肉体だけでも俺様のご主人の魂が補って魔界にいる悪魔じゃあまず相手にならないほど強力になった」

「それに付け加え、あれは魂と肉体の形がグチャグチャだ。蝿の王だけを引き剥がすのは困難になっているときた」

 ただ倒すだけなら問題はない。いくら強かろうと不死でない限り俺の敵ではないのだから。

 しかし、今回はベルが人質状態にある。

「だからこその俺様だ。肉体と魂は惹かれ合う。その性質を利用して俺様が分離の手伝いをしてやる」

「今はそれしか手がなさそうだな。それで蝿の王は何処にいるか分かるか?」

 一体化したせいかベルの気配を探してもそれらしいものが見つからない。もしかしたらこうしている間に探知出来ないほど遠くに行ってしまったのかもな。

「俺様のことは俺様が一番知ってる。あれは肉体だけだが封印される前の記憶はあるから、それに囚われていやがるはずだ」

「サタンがどうとか言っていたな。そいつはもう死んでいるようだが、ではそいつが拠点としていた場所に向かったのか?」

「いいや。魂感知は得意中の得意だからそこにサタンの野郎がいないのは察しているはずだ。となると向かう場所は一つしかない」

「ミーミルの泉ですね」

「何だそのミーミルの泉というのは」

「魔界の地下には天界との戦争の名残りがありまして、それがミーミルの泉です」

「まあ、簡単に言うと願いを叶える泉だ。けど大きな代償を払わないといけない上に俺様たちみたいな悪魔の願いを叶えてくれるかどうかは泉次第っつうもんだ」

 ルコルが説明してくれているのに良いところで奪っていくビュート。この性格は肉体を手に入れたらなおるのだろうか?

「代償って一体何を支払う気だ?」

「それは主人に決まってるだろ。自分が消えたら元も子もないないからよぉ」

「なるほど。それは急いで止めないとな」

「ああ、案内しながら引き剝がし方を教えるからついて来い」

「あの……それなら私も」

 名乗りを上げたのはベルの姉であるルコル。家族の中で唯一ベルを気にかけていた悪魔だが、彼女を連れていく必要性はない。

「姉としてベルが心配なのは分かるがここは任せてくれ。必ず連れて戻る」

 ベルから蝿の王を引き剝がすために一人と一匹はミーミルの泉へと飛んで行った。

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