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第78話 煩い奴の再来

「お前……ベルか? なるほど、あのクソ執事何か企んでやがると思ったがこういうことか。それにしてもタイミングが悪いな」

 裏切る腹づもりの男がいるが、そこには彼女味方は一人もいない。ルコルも実の父親を手にかけ、悪魔としての一歩を踏み出した。

 それがなくても今のベルはまるで別の生き物のように変貌しており、唯一の家族である者でも彼女に嫌悪していた。

 見た目が醜いというだけでなく、その内に秘める膨大な魔力に恐れをなして。

 唐突に現れ、何十もの悪魔に囲まれるが言葉も発さないまま何処か遠い目をしている。

「おいおい、俺様が話しかけてるってのに無視とは随分と偉くなったもんだな。あ?」

 沈黙に耐えかねたペオルがいつものように毒づくが、次の瞬間には首を吹き飛ばされ二度とその口が開くことはなかった。

 あまりの早さにその場にいた者たちも何が起きたか理解できないでいる。ただ彼女が腕を動かしただけなのに。

「消えろ雑魚。食う価値もない者共は前に立つな」

 もはやベルの面影すらないその悪魔は辺りを見渡して何かを探しているようだったが、そんなことを気に留めることもなく歓喜する悪魔がいた。

「素晴らしい! その力があれば魔界だけではない。あの忌々しい天界すらも滅ぼせるではないか。欲しい……欲しいぞ! その力を寄越せ」

「何を言っているんですか? 既に覚醒しているんですよ」

「だがまだ完全ではない。彼女から王冠を奪えば良い。蠅の王などコントロールしてみせる」

「でも、今の状態で無理やり王冠を剥がしたらベルがどうなるか……」

「知るかそんなこと。悪魔がそんなこと気にして何になる」

 他人を気遣うことなど悪魔ではあり得ないことだ。私利私欲で、本能のままに、好き勝手に生きるのが悪魔。

 しかし、彼女は違った。

 ただ可愛い妹のために姉として手を尽くしただけ。実の父親を手をかけたのもそれが理由だ。

 あの男がいては妹とはまた何処かへと行ってしまうと思ったから、そしてベルの母親を死に追いやったのを許せなかったから。

 だからこそ裏切ったというのにベルが亡くなっては意味がないので必死に止めようとするが耳を貸す気はないようで臨戦態勢に入る。

「その目は何だ? 父親の次はこの私を裏切るつもりか。節操のない女だ」

 既に周囲にいる彼の部下たちは覚醒したベルと反逆の意思を見せるルコルにすぐに攻撃が出来るようにしているが、その悪魔たちは瞬きをする間に消し炭になっていた。

 ルコルは駆けつけたルインが盾になったおかけで生き延びたが一度に色々とあり、頭が真っ白になって意気消沈していて呼びかけても反応がない。

「さて、ベル……ではないな。あの執事の言う蠅の王という者か。ベルを取り込むつもりか?」

「強い……がお前は違う。お前はサタンではない」

「ああ、俺はルイン。ただ不死身なだけの男さ。その体はお前のではないだろ。すぐに返すんだ」

「この娘には悪いがサタンとの決着をつけるのに必要だ。返すわけにはいかない」

 それだけ言い残すと蠅の王の体は数百もの虫となって散り散りになって遥か彼方へと飛んで行ってしまった。

「逃げたか。しかし、サタンとは一体誰のことだ」

 先ほどまで意気消沈していたルコルがようやく気を取り戻して、その素朴な疑問に答える。

「それなら初代魔王様のことです。蠅の王とは因縁があったとか」

「再戦を望んでいるようだったが、その初代魔王はまだ健在なのか?」

「いいえ。もう何百年も前に亡くなったと聞いていますけど、封印されていたあの方はそれは知らないでしょうね」

「では無理やり王冠を剥ぎ取るしかないのか……」

「正式な方法で封印が解かれているようでしたのでそれは危険です。蠅の王が自ら出て行ってもらうのが一番ですが」

 これといった救出方法が見つからず、苦慮しているとそこに行方不明になっていた煩い蠅が颯爽と現れ、助け舟を出す。

「それなら手伝ってやろう。ロリコン野郎に頼るのは癪だが、主人のためなら一肌脱ごう」

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