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第7話 ベルの能力

「それで客が来るということは招待状を送ったのだな」

「そう。もうすぐ来る予定よ。まあ、あのチャラ神が忘れてたのはただのミスに決まってるわ」

 奴がいなくなると清々しいほどがらりと雰囲気が変わっていつもの調子に戻る。やはり目上の者には弱いということか。

「で、いつになる? その客がここに来るのは」

「明後日よ。それまでに準備をしといてよね」

「準備と言われてもな。まともに働いたこともないので何をしたらよいやら」

 自己紹介は先ほど終えたところでもうすることはない。

「そんなの自分がしたいことをすればいいの。私だってあまり考えずに感覚でやってるわよ。要はセンスよ」

 個人的なものを押し付けられるがそこに助け舟としてセリエが間に割って入った。

「リルフィーさん、新人さんに適当なことを吹き込まないでください」

「何よ、じゃあ今日からこいつの面倒はセリエに任せるわ。私は私でやらせてもらうから」

 それだけ言い残すとリルフィーは早足にその場を立ち去った。

「二人は仲が悪いのか?」

「折り合いがつかないだけです。それよりも頼まれたからにはしっかりと貴方の面倒を見ますから覚悟してください」

「うむ、ではご教示願おう。おっとその前に自己紹介がまだだったな。俺の名はーー」

「カレイド・ノスフェラトゥーグ・ルインさんですね。長いので今後はルインさんと呼ばさせていただきます」

「構わん。それで準備だったな。一体俺は何をしたらいい?」

「まずは掃除です。お店の印象は第一印象で決まります。汚い所だとお客様が寄り付かなくなりますので」

 経営に関しての知識は浅いが確かに俺も汚い店に入りたいとは思わないな。

 単純明快で分かりやすく、理に適っている。リルフィーとは正反対だ。

「ちょっとセリエさん。師匠にそんな雑用させるなんて駄目ですよ。代わりに私がやりますから」

「いや、気持ちだけ受け取っておこう。店の一員として受け入れてもらうには行動で意を示すのが一番手っ取り早いだろうからな」

 無論、ただ掃除をするだけで認めてもらおうとは微塵も思っていない。信頼を得るのに時間が必要なのは痛いほど知っている。だが幸い不死身の俺は時間は有り余っているのだ。快く引き受けよう。

 しかし、掃除など久方振りだ。拠点を転々としていたせいこの行為は俺にとって必要のないことであったがまさか今になってする事になるとは思ってもみなかった。

 任されたのは資料室の整理。

 アズリエが手を貸してくれると進言してくれたがセリエが「一緒の場所をやっても効率が悪いので」と言い、他の場所の掃除をさせている。

 気の毒だがその方が個人的にやりやすくて助かる。弟子の扱いなど知らないのだから。

 ここにそれに関する本は置いてないだろうか?

 辺りを見渡していると本棚と本棚の間に誰かいるのに気がついた。

「ルインさん?」

「ベルか。そこで何をしている」

「いえ、特に何も。ここは落ち着くので」

「成る程。確かにここは静かで落ち着く。しかし、俺はセリエにここの掃除を任されていてな。出て行けとは言わんが邪魔はしないでくれ」

「は、はい。すいません」

「怒っているわけではない。何故謝る。まあ、ここで本でも読んで待っていろ。少々広いがすぐに終わらせよう」

 特に目につくのは散らばった本の数々。これはきっとリルフィーが読んでそのままにしたのだろう。適当に本棚にしまうだけでも時間がかかりそうだな。

「ま、待ってください」

 何処から手をつけようかと迷っているとベルが立ち上がり、ルインを引き止めた。

「どうした?」

「いえ、その、お手伝いをしようかと」

「気持ちは嬉しいがこれは俺の仕事でな。お前の手を借りるというのは少し違う気がするのだ」

「けどここは私のお気に入りの場所ですから」

 折角、ベルの方から積極的に提案してきたのだ。ここで無下にするというのは野暮というものか。

「ふむ、では仕事の分担をしようか。本の片付けは俺がやるとしよう」

 量も多いし、こういった力仕事は男がするものだと相場が決まっているのだがベルはそれに待ったをかけた。

「あ、そのそれは私の能力でやった方が早いので」

「ほう、悪魔の能力か。興味深いな。では見せてくれ」

 ルインは高みの見物と椅子に腰をかけた。

 それを確認してベルはそっと目を閉じて集中するとそこかしこに置かれていた本が突然、意思を持っているかのように宙に浮いて本棚へと戻っていった。

「本が浮いた? これは一体どういったカラクリだ?」

「ええと、物にも微量ながら魂とかその破片のようなものがありまして私はそれを魔力で操っています」

「それは便利だな。しかし、珍しい。悪魔とは何度か会ったことがあるが魂を操る奴はいなかったぞ」

「こ、この能力は悪魔でも珍しいです。けどーー」

「けど、どうした?」

 それを言う前にベルはその場に倒れた。

 彼女が言いたかったのはこの能力は便利で強力であるが故にその反動も相当なものであるということだった。

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