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第69話 血の化身

「ユースか。まさかお前がネクロマンサーの味方をしているとはな」

 不死身の吸血鬼が死霊を操るネクロマンサーと行動を共にしているとは滑稽で笑えない。

「ただ君を見つけるのに協力しただけだよ。さあ、僕と一緒に帰ろう」

「嫌だと言ったら?」

 あんな場所に帰るくらいなら死んだ方がマシだ。いや、死ねないのだが。

「力尽くで連れて行く。頼まれているからね」

 その言葉を合図に隠れていた刃物を持った男が姿を現した。気配で察知できなかったことからしてその正体が死人だとすぐに気付く。

「そいつが死霊か。死んでもこうして駒として使われるとは惨めだな」

 一度死ねたのは羨ましいが、死ねるとしてもこんな風になるならお断りだ。

「惨め……か。まさか逃げ出した君に情けをかけられるとは彼も思ってもみなかっただろうね。まあ、既に意識はないけど」

「やはりあのゴーレムの中にある歪な魂はお前の能力か。厄介なことをしてくれたな」

「邪魔が入っては君には勝てないからね」

「ふん。邪魔が入っても入らなくともお前は俺には勝てないさ」

「それはどうかな? 君がいなくなってから僕は修行を重ねて強くなった。力では勝てないけど無力化する方法ならいくらでもあるんだよ」

「俺の魂を抜き取るか。魂を操るのはお前の専売特許だったな」

 吸血鬼には特殊な能力を持っている者が稀にいる。ユースもその一人で彼は自身の血を代償に魂を操ることができるのだ。

「正解。そこの彼には君の動きを封じてもらおうと思ってね」

「俺の動きを……ねぇ。それにしては役不足じゃないか」

「安心してくれ。彼は生前、大量殺人鬼として恐れられた男。それに僕が血を与えているからね」

「死人に使うとは切羽詰まっていると思える」

「君を捕まえるのに手段なんて選んでいられないんだよ。何と思われようと構わないよ」

 こんなユースは珍しい。普段は自分の能力はここぞという時にしか使わないというのにどうやら随分上から圧力をかけられたらしいが俺の知ったことではない。

 あいつらの為にもここで捕まるわけにはいかないのだ。

 目的はネクロマンサーただ一人。

 悪いがここは無視してそいつを探し出して排除。そしてこの転生屋へと逃げればいい。

 こいつの能力は厄介で準備されたこの状況で戦うのは得策とは思えないのでこの場から離れようとしたが既に周囲には赤い球体が飛び交っていた。

「逃さないよ。ようやく掴んだこのチャンスを」

 あの赤い球体はユースの能力で作り出された魂。普通の魂とは違い、そのままでは消滅してしまうがあれに触れると爆発してしまう。

 威力は大したことはないが数が数なだけに強行突破は難しそうだ。

「そんなに相手をして欲しいならしてやるよ。ただし数秒だけだ」

 久方ぶりに本気を出すとしよう。

 本当はこの力は使いたくなかったが致し方がない。

 自らの心臓を抉り、言葉を連ねる。

「我が体に潜む血の化身よ。今こそ顕現し、全ての敵を討ち滅ぼせ」

 噴き出している大量の血がその言葉に呼応して、巨大な紅き獣となりユースと死霊、そして周囲で飛び交う魂をその雄々しくも美しき翼で薙ぎ払った。

 その一撃は肉体ではなく魂を切り裂くもの。吸血鬼であるユースでさえ立ち上がることはない。

「さあ、次はネクロマンサーだ」

 残りのそれらしき場所へ足を運ぼうとするが目の前の景色が歪み、膝をつく。

 この力を使いたくなかった理由の一つはこれだ。強力ではあるが代償が大きすぎる。まず連発は不可能で一度使うとしばらくの間まともに動けなくなってしまう。

 どうにかして立ち上がり、前に進むがまた彼を阻む者が現れた。

 こいつもあの殺人鬼だったという男と同じ死霊だ。そしてその後ろにはそれを操っているであろう紫色の髪をした少女もいる。

「お前がネクロマンサーか。このタイミングで来るとはな」

 この状態でも相手が一人なら問題はない。今度は血を武器にしてそれをネクロマンサーに投げようとしたが、その前に少女が一歩前に出て驚きの一言を発した。

「た、助けてください!」

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