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第64話 再び魔女の世界へ

 そこには特別な力がある。

 しかし、それはほんの一握りしか使えない。

 故に彼女たちは敬われ、世界を象徴する存在となった。彼女たちは『魔女』と呼ばれ、自分の欲望のままに生きている。

 それがこの魔女の世界。

 もう来ないだろうと思っていたがとんぼ返りする羽目になったルインたちは途方に暮れていた。

「来たはいいがこれからどうする? ネクロマンサーの居場所は掴めていないんだろ」

「はい。バルドル様からの情報によるとこの付近で反応があったみたいですが、具体的な場所などは一切判明していません」

「手がかりはほぼゼロか。これは本腰を入れないとな」

「とは言ってもどうするのよ。こんなに情報が少ないんじゃあ手の打ちようがないわ」

「なら情報を集めるしかないな。今は文句を言っていても仕方ないさ。セリエはその本で仕入れられないのか?」

「残念ながらこの本に記載されているのは大まかな事しか分かりません。それにネクロマンサーはこの世界とは関係ありませんので」

 流石に彼女の本も万能ではないという事か。それは俺にも言える事だ。

 不死身ではあるが死者を蘇らせるなど不可能。それを可能するネクロマンサーには興味がある。

「となると本格的に俺らが動かないとか」

「でも……何をしたらいいんでしょう?」

「まずは情報収集だが……俺たちみたいな余所者ではな。協力者がいると助かるが」

 聞き込みでは大した情報は得られそうにないが、それ以外の方法となるとこの世界に詳しい何者かの力を借りなくては。

「協力者って私はごめんよ。あんなのとまた関わりあうなんて」

「魔女の世界にいるんだ。関わらないで事を済まそうというのは無理な話だろ。しかし、問題は誰に協力を求めるかだ」

 あのアルチナは論外として残されたのはロニかメディアとなる。

「そうね。けど、心当たりなんてあるの。そんな簡単に会える訳ではないでしょ」

 騒動のせいでカヴンは中断され、あの区画は封鎖されてしまっている。またあそこに行っても有益な情報を掴めるとは思えない。

「いや、どうやらその心配はないようだぞ」

 彼らの前に突如として黒い塊が現れた。

 それは人の形をしているが口はなく言葉は発しず、ただジッと彼らを見つめている。

「きゃっ! これ何よ」

「それからは魔力が感じられる。俺たちを迎えに来たようだ」

「迎えに? もしかして私たちが来るのを見越して」

「だろうな。奴もネクロマンサーに気づいて手を打とうとしているんだろ」

 打つ手がない以上、ルインたちはその黒い塊について行くという選択肢しか残されていなかった。

「また出会えて嬉しく思うよ」

 案内された場所はとある家屋の地下部屋。

 そこには魔法陣が展開されており、その奥には黒髪の魔女が首を長くして待っていた。

「こちらもだ漆黒の魔女殿。しかし、よく俺たちが戻って来るのが分かったな」

 セリエの本による転移は魔法ではないからいくら優秀な魔女だとしても探知するのは不可能のはずだが。

「僕に教えてくれた不思議な方がいてね。多分、君たちのお仲間だと思うけど」

 それはバルドルに違いない。

 どうやら既に手筈は整っていたようだ。

「成る程、ではネクロマンサーの件も聞いているのだな」

「聞いているも何も絶賛捜索中だよ。でも中々尻尾が掴めなくて困っている」

「捜索中? メディアがどうして追う必要がある」

 こちらには世界のバランスを崩しかねないネクロマンサーという存在を転生屋として何とかしなくてはという義務がある。

 しかし、彼女にはそんな義理はないはずだ。

「あのアルチナと手を組んでいるからだよ。おかげで防衛するので手一杯だ」

「防衛? それがお前がここにいる理由か」

「その通りだよ。僕は……いや、僕たちはアルチナがネクロマンサーと手を組んでこの帝都に攻め込んで来たからその迎撃の為に王様に呼ばれたんだ」

「ネクロマンサーが表舞台に? それはちょっと信じられないわね」

「確かに、もしそのような存在だったら俺の耳にも届いていたはずだ。となるとこれは一人のネクロマンサーが独断でとった行動と考えるのが妥当か」

「一人でこれ程とは末恐ろしい存在ですね」

「けどそれぞれの主張が強過ぎるから複数で動く事はまずないわ。でも独自のルールに従ってるから動きは予想しやすいと思ったけど、残念ながら今回ははぐれみたいね」

「はぐれ?」

「ネクロマンサーにはコミュニティがあって互いに情報交換したりしてるみたいなんだけどそこにはルールがあるの。その一つとして目をつけられないように表舞台に出ない事。それを破ってるって事はコミュニティに属していないのを所謂はぐれって呼ばれてるわけ」

「ふむ、はぐれのネクロマンサーか。それはまた随分と厄介そうだな」

 そうなると捕らえても他のネクロマンサーの情報を集められそうにない。とんだ骨折り損になりそうだ。

「それに加えて魔女もいるんだから困ったものよね。でも私たちに協力してくれるんでしょ。そこの魔女が」

「僕だけじゃなくて迎撃命令が下されている魔女は協力は惜しみはしないさ。けど君たちの事はどう説明しようか」

「適当に頼む。それよりも今後の対策を考えないとな」

 相手は死者を蘇らせる狂気な存在とそれと手を組んだ裏切りの魔女。

 綿密な計画を練らなくては。

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