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第61話 裏切り

 突如現れた魔女に話しかけたのは面識のあるアルチナ。

「メディア、お元気そうで何よりです。クロアムとキルケはお元気ではなくなりましたが」

「獣の魔女は殺してはいない。しばらく、こちらには来られないだろうがな」

 まるで二人とも亡き者にされたような言い方だったのでルインが補足をしておく。

「成る程、貴方がそちら側に回ったとなると僕たちの劣勢は目に見えていましたね。けど、僕の自信作もこうも簡単にあしらわれてしまうとは」

「そちらは私ではなく、その方が」

 と丁寧に紹介するアルチナ。

 間違いではないので何も言う事はない。

「見たところ一人を除いて魔女ではないね。これは二人の侵入者と関係があると考えても?」

「そうだ。それとこいつを連れ戻しに来た。実は俺たちもこいつも別の世界から来てな」

「別の世界から。それは興味深いね」

 表情に変化が見られないからそれは適当な返事ように思えるが今はどちらでもいい。

「興味深いと言えばその霧野郎を自信作と言ってたよな漆黒の魔女」

「ああ、言ったよ。君は確か……アルチナが拾った子供か。随分と生意気に成長したね 」

「お陰様でな。それでどうなんだ。自信作ってのはこいつを実験体にしたって意味なんだろ」

 ルインたちが気になっていたところをロニが代わりに突っ込んだ。

 そして返ってきた答えは意外と普通で「察しがいいね。その通りだよ」と開き直ったようなものだった。

「そんなあっさりと……」

「嘘は確実に騙せる相手にしか使わない主義でね。それにその男には十二分に働いてもらったからもういいんだ」

「最近、何処かの偉い奴が死んだとか噂を良く聞くがもしかしてそいつは……」

「うん。彼に殺らせた」

 門番が最近、物騒だからと言っていたがその人もまさかその発端がこの中にいるとは思いもよらないだろう。

 しかし、霧化の魔法は痕跡も残さないので暗殺等には最適でそれを自分の都合の良いように使うのが魔女という生き物だ。

「殺人か。このせいで転生出来なくなるとかはないよな」

「今回のは操られたようなものだし、それに転生に殺人をしたかどうかなんて関係ないわよ。殺された人には申し訳ないけど」

 何とも都合の良い話だ。

 だが人を殺めたら転生出来ないのであればシュエルは店に来れなかったはずだ。あいつは勇者ではあったが敵国の兵を聖剣で薙ぎ倒しているのだから。

「では俺たちはこの男を連れて帰らせてもらうぞ。止めるなら地獄を見てもらう事になるが」

「止めない止めない。その男はもう用済みだし、僕の野望は着実に進んでいるからね」

「野望?」

 彼が力が欲しくて頼み込んでもそれがメディアの利益にならなくては協力する必要などない。

 つまり彼が力を手にしたのはそうする事によって与えたメディアに利益があるから。今回で言えば邪魔者の排除といったところか。

 感情ではなく、自身の損得で動く魔女らしい。

「おっと、僕とした事がお喋りが過ぎたよ。まあ君たちは気にせずどうぞ。後は魔女同士で解決をするからさ」

「何よそれ。私たちが邪魔者みたいじゃない」

 その嫌味な言い方が引っかかったらしく、リルフィーが口を挟む。

「部外者なのだからそれに近いものだろ。それと帰る前に聞かせてもらうがこの男に魔法を使えるようにする時、魂に何か細工をしたか?」

「魂にはしてはいないよ。そんな事をしたら精神崩壊の原因になるから」

 となるとこのまま転生させても影響はなさそうだ。アズリエが見たという死相はこいつにやらされた件で狙われているからで、俺たちが連れ戻せば問題はないと思われる。

 この魔女の態度からして彼は利用したら捨てる気だったと考えられる。

「そうか。それを聞いて安心した。セリエ、移動を頼む」

 強引ではあるがこの世界に置いていけばロクな目に遭わない。説得は転生屋でするとしよう。

「……分かりました。では皆さん、準備を」

「待った。この天才ロニ様を出し抜こうたってそうはいかんぞ。何の為にここまで案内してやったと思っていらのだ」

「おっと、忘れていた。俺の血が目当てであったな」

 本音を言うとこれ以上、魔女には関わりたくはないが約束を守るのは人として当たり前。

 俺が化け物という屁理屈は通じない。

「彼の血? それは君が協力に足りるものなのか」

「漆黒の魔女殿には関係ない。ほら、さっさとこれにありったけ入れろ」

 と手渡されたのは大きめのフラスコと短剣。

 注射のような便利なものがなく、まるで自殺を勧められているみたいだ。

「だが錬成の魔女が求めるものとなると、さぞ貴重な素材に違いないと愚考したのだが」

 そんなやり取りをしている中、ルインは躊躇なく腕の動脈を短剣で切りつけフラスコが満杯になるまで血を注ぎ込んだ。

「ほら、これで約束を果たした。ではこれで……」

「傷が勝手に再生した……まさか普通の人間ではない?」

 メディアは目を輝かせ、再生する腕を凝視していた。

「ああ、こいつは不死身の化け物だ。この天才ロニ様が普通の人間の血なんて欲しがる訳ないだろ」

「その血、僕にも分けてくれないか。良いポーションが作れそうだ」

「一滴もやるもんか。どうして欲しいなら本人に言いな」

 こっちを見るな。

 もうこれ以上、面倒事に巻き込まれたくないというのに。

 だが血ならいくらでも出せるし構わないかと思ったその時、アルチナが不意に驚くべき発言をした。

「待ってください。その前にルインさん、メディアを殺していただけますか?」

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