第54話 潜入
見渡せばすぐに魔女の家なのだと分かった。それ程そこには魔女と聞いてすぐに連想させる物が置かれている。
「ようこそ。ここは最凶にして最悪、錬成の魔女ロニ様の研究所だ。泣いて喜べ皆の諸君！」
「残念ながら全員は集まっていないようだ」
「ほあ？ 確かに言われてみれば数が減ってる」
ここにいるのはルイン、リルフィー、セリエのみ。それ以外は辺りをいくら探して見当たらない。
「はぐれたみたいね。これもあんたの転移魔法のせいよ」
「失敗は成功の母と言うだろ。天才もこうやって誰も知らないところで失敗を繰り返しているのさ」
「そんな事言われても知らないわよ。ルイン、二人が何処にいるか分かる？」
「大雑把な位置なら。正確な位置を特定するには近くにいかないと分からないな」
幸いな事にベルとアズリエとの距離はそれほど遠くはない。これなら然程時間はかからないだろう。
「じゃあ、先に二人と合流ね。今度はセリエの本で」
流石にロニの転移魔法には懲り懲りのようで転移魔法には準備に時間がかかるそうなのでロニは文句を言わず、セリエの本によって二人の気配がする場所まで転移した。
そこは奇妙な建物が立ち並んでいて、見ているだけで頭がおかしくなりそうな場所だった。
「何ここ」
「魔女が密かに集まり、情報を交換する『カヴン』という場所で招待状を持っている魔女以外は立ち入り禁止になっているようです」
「招待状か。ロニは持ってないのか」
「ふん。この天才ロニ様は俗物たちと交流している暇などない」
「つまり持っていないんだな」
素直にそう言えばいいのにわざわざ回りくどい言い方をしなくとも済むのに。
「でも中に入ったらこっちのもんよ。堂々としてたらバレやしないって」
「そんなに上手くいくとは思えんが」
招待制という事はここにいる魔女はそれなりの実力のある者たちということだ。
魔女に後れを取るとは思えないが二人があちら捕らえられているとなろと話は変わってくる。
「いや、招待状が確認されるのは入る時だけ。中は監視のゴーレムがいるだけで警備は大した事はないぞ」
「良く知っているな。ここ来た事はないのだろ」
「一度ここを潰そうと思った事があってそれで調べた事があるのだ」
今もこうして健在という事は失敗したのだろうが、潰そうとするとはよっぽど他の魔女が嫌いらしい。
「では先導を任せる。まずは近くのベルの方へ向かおう。気配はあの建物の地下から感じる」
中心にある丸い塔。
薄気味悪い配色のそれは侵入出来ないように聳え立つ周囲の壁よりも背が高い。
「あれは見張りの塔だな。ここの建物の中だと一番高いが監視の人数は少ない。地下となると捕まって牢屋に入れられているな」
「それで潜入は可能なのか？」
「扉には関係者以外は入れないようにする魔法が施されているけどこのロニ様なら数分で解除出来る」
潜入は容易で中の見張りが少ないのならベルとの合流は難しくはないだろう。
「では隙を伺って潜入するとしようか」
「指図されるのは嫌いだけどここの連中に一泡吹かせられるなら我慢しよう」
こっそりと近くまで行き、周りに人がいなくなったのを確認してからルインたちはベルがいる塔の中へと潜入した。
