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第42話　何も知らないままで

　夜が明けて決戦の日。

　前回は数を利用した戦法に防戦一方だったが今回はルインからの助言もあり、拮抗した状態が続いている。

　既に時間稼ぎの必要もなくなったのでまずは邪魔な兵たちを減らす事に専念をしているようだ。

　俺は今の内に敵の内部視察をするとしよう。

「お前は前線には出ないのか」

　戦況を見渡して確認出来る岩山の頂上にその男はいた。この軍の指揮官であるファフナー。全滅させる上で一つの壁だ。

「戦闘は苦手でね。やりたい奴にやらせるさ。こんな所にまでそれを聞きここに来たのか？」

「一応監視役だ。色々と知っておきたくてな」

　というのは建前で少しでもあいつらに有利になる情報を集めておきたい。あの落石の罠を張った用意周到な男なら知っているかもしれないが、もし俺が全員を相手にする事になった時用に確かめておこう。

「説明をしなくても見ていれば分かるだろいし、こちらも暇ではないから勝手にしていてくれ」

「そうか。ではここから監視させてもらおう」

　出来ればファフナーがどんな戦いをするかも見てみたかったがここは致し方ない。

　まずは終焉に導く竜をその身に宿しているニッグ。彼は赤い鱗で目立っているのですぐに見つかった。

　得意技はブレスのようで一息で敵を追い詰める程の威力で岩が溶けているところを見るとドラゴンの鱗でも防げそうにない。

「流石だな。ドラゴンは空を舞い、炎を吐く強力な化け物と印象があるが他の連中は炎を吐けないのか？」

　どの世界の人間でもドラゴンと言われたらそんな印象が頭をよぎる。

　しかし、炎ではなく牙と爪で戦っている者が大半だ。地形的なものかとも思ったがよくよく見てみるとそういう訳でもないようだが……。

「武器として使える程の威力を出せる者は片手で数える程度しかいない。昔は全員がニッグのようだったらしいが今ではとても考えられない」

　ドラゴンにもドラゴンの事情があるようだ。こちらとしては弱体化しているというのは朗報だ。

　お次はラドン。

　この戦争で一番目立っているのは彼だ。

　鱗の色がどうのではなく、その異様な姿がそうさせている。彼はドラゴンでありながら六本の腕をまるで鞭のように使い、目の前の敵を蹴散らして前進していた。

　あれは化け物というより兵器に近い。

　ただ敵を殺すだけの兵器。

　リーチは短いがその強靭な腕から放たれる一撃は敵ドラゴンの鱗を易々と破壊している。

「あんなドラゴンもいるのだな」

「炎がなくなり、他の器官が発達した者が多くいる。今の時代はそれを武器としているから奴に限った話ではない。それに私はあちらの方が余程ドラゴンらしくないと思うが」

　視線の先にはヨルムが一人で複数の相手に黒い粒子のブレスを吐き出していた。

　その黒い粒子に触れた敵兵はみるみる動きが鈍くなっていき、最終的には飛べなくなり地面に激突した。

「石に変えるブレスか。ああなったらもうどうにもならんのか？」

「本人が言うには戻したくても戻せないらしい」

　だから極端に連れている兵が少ないのか。性格とは裏腹にえげつない能力を持っているな。

　それにしてもこいつ、暇ではないと言いつつ上手くいっているせいでする事がないらしく、いちいち俺に話しかけてくる。

　情報収集をしたい俺としては助かるのだが……。

「あ、ここにいたのね。探したわよ」

　額に汗を浮かべて自力で頂上まで登って来たのは俺がこうして奮闘する原因が姿を現した。

「何か用か？」

「昨日の件、ちゃんと説明しなさいよ。本当は何かあったんでしょ」

　ここで全てを話すべきなのか。

　お前を救う為に客とその兵を滅ぼそうとしていると。いや、言うべきではないだろう。

　彼女は何も知らないままの方がいい。

「いや、ただ暇だったから揶揄(からか)っただけだ」

「あっそ。じゃあ、私帰る」

　少し間を空けて来た道を戻って行くリルフィー。納得はしていないだろうが、しなくてはいい。

　俺はただ気に食わない未来をぶっ壊すだけだ。