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第39話 終焉の目覚め

 ルインは事が終わるまでその対戦は見ていなかった。というのもニッグがいなくなった間に兵たちにゲオルの話を聞いていたからだ。

 大した情報は得られなかったがドラゴンを殺すのに特化した剣と技能を身につけているらしく、俺が求めている者ではないらしい。

 そうしている間に既に決着はつき、ニッグは意気揚々と帰ってきた。

「勝ったようだな」

「まあ、結構苦戦したけどな。やっぱ強かったぜ」

 その一言で兵たちは歓喜した。恐れられていた強敵が自分たちの将が討ち取ったのだ。喜ばずにはいられない。

「だがこれで進める。他の連中も上手くいっているといいが」

 敵の戦力がどれ程のものかは知らないがそちらも何かしらの防衛策が施されているはず。合流は出来ないと考えた方いいだろうな。

「あいつらがいるんだ。大丈夫に決まってる。それよりこの道は当たりみたいだぜ」

「……のようだな。しかし、妙だな」

「何がだ? 順調に進んでるだろ」

「だからこそだ。それ程あの人間を信頼していたとも考えられるがこうも計画的な奴がこれだけで終わるとは思えん」

 他の兵たちの気配が全くしない。全員、奥の方で待機しているのか、それとも別の道にいるのかーーどちらにせよこちらの時間潰しに使ってくるはず。

「考え過ぎだろ。時間もないし行こうぜ」

 悩んでいても仕方がないとニッグは軍を前進させる。

 ルインたちはそれについて行く。

「ねえ、分かってるだろうけど私たちはあくまで監視役だからね」

「うむ、言われなくても手は出さぬ。だが俺とて黙って見ていられぬ時もあるさ」

「でも私たちは中立の立場。それだけは忘れないでよね」

 俺たちは転生屋。

 この戦争でどちらが勝ってもそれは関係のないこと。何せ、共存をすることになってもならなくとも結果は同じだからだ。

 一時の感情に任せて動いてはいけない。

 それを意識しなくてはいけないというのは歯痒いがそれが決まりならば守らなくてはいけないのだ。

 だがこれなら何の心配もないかと思われたが突然天井が崩れ、大量の岩が落ちてきた。

 自然なものではなく、そうなるように仕組まれていたもの。

「落石⁉︎ どうなってんのよこれ」

 咄嗟のことで隣にいたリルフィーを抱えて前方に逃げることは出来たがニッグたちは下敷きとなってしまった。

「奴らだ。どうやらあの人間が倒された場合の策も用意していたようだな」

 それもこの岩は普通の岩ではない。何かしらの魔法が施されている。そうでなくとも人型の彼らでは強固な鱗があっても押し潰されてしまっては無事では済まないだろう。

「随分と冷静ね。これで全滅したっていうのに」

「いいや、全滅ではないようだ」

 岩を押しのけ、立ち上がる者が一人。

 この軍の大将であるニッグだ。

 先程の戦闘に加え、魔法を施された岩が直撃して相当なダメージを負っているがそれでも意識はあるようでこちらへと近づいて来る。

「この場合はどうする? 助けるか、それとも見捨てるか」

 これは俺たちの失態ではない。

 ニッグの判断ミスが招いた結果だ。助ける義理はなく、ここで見捨てても仕事が減るだけ。

「助けるわよ! 客がどうとか別として。ただ今回だけは特別なんだから」

 即答だった。

 それは転生屋としてではなく、人間として当然の反応。感情的で先程言っていたことと少し矛盾しているが、それでいい。

 慌てて駆け寄って治療を試みるリルフィーを見つめながら自分の愚問を恥じる。

 だがその恥じは目の前で起きた惨劇で吹き飛んだ。

 事もあろうにニッグは近寄ってきたリルフィーの首に噛み付いたのだ。それによりリルフィーはその場に倒れこむ。

 咄嗟にニッグからリルフィーを奪い返すが既に手遅れで心臓は動いていない。

「これはどういうことだ‼︎」

「我の復活の贄となったのだ。光栄に思うことだな」

「ニッグ……ではないな。何者だ?」

 口調だけではない。

 瞳の色、雰囲気などがまるで違う。まるで別人かのようだ。

「我はリントヴルム。世界を終焉に導く竜なり。部外者には消えてもらう」

「ふざけるな。何が世界を終焉に導く竜だ。この世界ごと終わらせてやる」

 ルインの怒りは頂点に達していた。

 まだ知り合って間もないが彼女を認めていた。ニッグも気が合う奴だと思っていたというのに裏切られた。

 感情が爆発して自暴自棄になったルインは巨大なエネルギーを洞窟外で発生させる。

 それはこの世界を吹き飛ばす程の威力を秘めており、ルインは迷わずそれを自分のいる洞窟へと放つ。

 こうして世界が破滅する寸前、そのやり取りを見ていた少女は自分が身につけた指輪の効果を発動させた。

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