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第35話 彼らの戦争

 人間での戦争で肝となってくるのは何と言っても兵の数だ。数が多ければ選択肢は増えるし、相手がどんな事をしようとも数で押し切れてしまう。

 だが、この世界のドラゴンでは場合が違う。制約とやらで戦える者は限られてきている。

 そうなると重要になってくるのは数ではなく質だ。ニッグの兵たちと相手の兵とではそれほど質では差がないように見えた。

「では始めようか」

 しかし、拮抗した状況を変えたのがファフナーの策。それはドラゴンの巨体と能力を駆使した挟み撃ち。

 これにより敵の兵は後退を余儀なくされ、ニッグたちの優勢で事は運んでいく。

「どうやら本当に手を出さなくても済みそうだな」

 こうして見ているだけでは退屈ではあるが俺が手を貸さなくてはいけないほどの状況になっていないのは良いことだ。

「ファフナーのおかげだぜ。あいつは頭が良くて作戦を考えるのも得意なんだぜ」

 ドラゴンは身体に比例して脳も大きくなっているので聡明な者が多い。ニッグやラドンはそうではないようだが……。

「しかし、奴ら長期戦をするつもりみたいだ。予想はしていたがこうなると面倒だな」

 敵は劣勢と見ると早々に洞窟内へと逃げて行ってしまった。追撃をしようにも罠の可能性もあるので手前で陣取るだけに終わった。

 この先は入り組んでおり、そこを拠点としているので地の利は敵側にある。

 容易に踏み入るのは死を意味している。だからこそ先ほどの戦闘で負傷した者を手当てする時間を設けた。

 完全に流れを断ち切られた感じではあるが、これは致し方ない。だがこの洞窟の入り口はここだけと聞く。敵は背水の陣で必死になっているだろうがこちらの有利に変わりはない。

「次の作戦頼むぜファフナー。こっからが重要だ。手当てが終わり次第攻め込もうぜ」

「何故焦るのだ? 急いでも何も良いことはないぞ」

 勝ちを急いで足元をすくわれてしまった者を何度も見た事がある。優秀な奴ほど引っかかるもんだ。

「実は敵の一人に強力な兵器を持ってる奴がいるんだ。だからエネルギーが溜まる前に決着をつけたくてな」

 なるほど、それであの時も急いでいたという訳か。それに敵が洞窟を拠点にしているのもそれを聞いて納得した。

 ドラゴン同士の争いでこれほど時間稼ぎに適した場所はない。この中に入るには人間の姿にならないといけないから強力な技を仕掛けられないがそれはお互い様。

 これから先は地味なものとなってくるだろう。まあ、戦争というのは派手ならば良いというものではないか。

「だがこの男の言う通りだ。万全な状態になった時に突入するとしよう」

 賢明な判断を下すファフナーに後ろでヨルムは激しく首を縦に振っていた。

「人型での戦闘は久々だな。ちと、盛り上がってきたじゃねえか。」

 ラドンはやる気のようでストレッチをしている。先陣を切って戦っていたというのに傷は一つもない。

 これだけでも戦力ではこちらが優っていると思われるが今後の洞窟戦では苦戦を強いられてしまう。

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