第3話 訳ありの死神
見た目とは裏腹に意外と転生屋の中は広かった。どうやら地下もあるようで俺たちはそこで灰色の髪の少女と対面した。
「誰?」
彼女の冷酷な目はルインを捉えた。
そしてルインは恐ろしく、慣れ親しんだ感覚に陥った。
「ここで新しく働くことになった吸血鬼よ。今は私が直々に案内してあげてるの」
「そう……。私は死神のアズリエ。以後お見知り置きを」
「俺はカレイド・ノスフェラトゥーグ・ルインだ。ルインと呼んでくれ。しかし、死神とは本当か?」
死神という存在を疑うわけではない。
神が実在しているのは知っているし、八百万いたら死神がいても不思議ではないのだがこんな華奢な少女が死神とはどうしても信じられない。
死神の象徴である鎌も持っていないし。
「はい。魂を刈り取るのが私の使命でした」
でしたーーか。
彼女がどうしてその死神の使命を捨てて、ここにいるのかは分からないがそこを追求するのは野暮というものだろう。
「では俺の魂を刈り取り、殺すことできるのか?」
「不可能です。ルインさんの魂があまりにも強すぎて私では触れることもできませんので」
「そうか……いや、無理を言ってすまない」
俺の魂は死神でも触れられないのか。自分のそろそろ自分の強さに嫌気が差してきた。
「ルインさんはどこ担当なの?」
「それがまだ決まっていないのだ。今は用心棒ということになっているが」
「最悪、雑用係にするわよ。それでベルは一緒じゃないの?」
「今日は見てない。特に仕事もないから」
セリエという少女は忙しそうにしていたが他の連中はそうでもないのか。仕事配分が気になるところだな。
「それ言わないでよ。ふぅ〜、仕方ない。探してくるからあんたはここで待ってて」
返事をする前に走り出して行ったリルフィー。まるで嵐のようだ。
「騒がしいなリルフィーは。いつもあんな感じなのか?」
「うん。ルインさんはああいう方は嫌い方ですか?」
「いや、今まで静かな暮らしだったからな。これくらいが丁度いい」
産まれてからずっと一人というわけではないが、最近はひっそりと死ぬ方法を模索していたからな。
「……それを聞いて安心しました。それより帰って来るまで時間があるそうだし、お手合わせお願いできますか?」
「ほう、俺と手合わせとは随分と自信があるとみえるな」
自慢ではないが俺は強い。
同じ吸血鬼でも俺の顔を見るだけで逃げ出す始末。こうして正々堂々と戦いを挑まれたのは久方ぶりだ。
「いえ、ただルインさん死にたそうにしてたので死神としては放っておけません」
「良かろう。それでは掛かって来い」
神とやり合うのはこれで何度目になるだろうか。
取り敢えず、お手並み拝見ということで前屈みになって首を差し出す。
それを見てアズリエは自身の身長よりも長い鎌を何処からともなく出現させ、弧を描いて目標を刈り取った。
刹那のことで一般人なら何が起こったかも認識出来ないだろう。しかし、死神の相手は不死身の吸血鬼。
床に落ちた首が灰となって崩れて、まるで切り落とされたのが再生をしたルインが先に口を開いた。
「筋は良い。流石は死神といったところか。しかし、それでは俺を殺すには至らんな」
残念ではあるが久しぶりに熱くなれた。これから俺を殺せるほど成長するのも夢ではないかもしれない。
「首を切っても死なない不死身の存在……初めて見た」
「まあ、珍しいだろうな。吸血鬼でも完全な不死身は俺ぐらいだ」
吸血鬼は全員が不死身だと勘違いしている人間が多いが実際は制限があり、それを超えると再生できなくなってしまう仕組みとなっている。俺にはその制限はない故に完全なる不死となっているというわけだ。
「凄いですっ‼︎」
先ほどとは打って変わって目を爛々と輝かせるアズリエ。まるで別人のようだ。いや、人ではないのだが。
「そ、そうか?」
「凄いですよ。それにこんなにすぐ再生するなんて……これから師匠と呼ばせてください」
この勢い、リルフィーに類似するものがある。弟子はとらない主義だが、俺を殺せる可能性があるのは神だ。そして死神ともなると期待が高まる。ここは今後のために、そして説得できる気がしないから甘んじて受け入れるとしよう。
「好きにしろ。だが意味もなく俺を殺そうとするな。確実に殺せると思った時だけ来い」
何とも可笑しなことを言っているんだと我ながら思ったがアズリエは素直に頷いた。