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第27話 優しさ故に

 シュエルの転生を終え、晴れて転生屋の仲間入りを果たしたルインは時間を持て余していた。

「さて、暇だ」

 というものもあれ以降、この転生屋に客は来ていないからである。客がいないのだから仕事をしようにも仕事がない。

「そんなに頻繁にお客は来ませんよ師匠。でも正直、お客が来るまで暇なのは確かですけど」

 アズリエも同様に現在仕事はなく、ルインを探してこの資料室へと来ていた。

「これでは働こうにも働けん。俺はこれほど熱意があるというのに」

 これほど虚しい事はない。初の仕事でこれからここで働いていく決心がついたというのにーー。

「じゃあ、その熱意を掃除にでもぶつけたら?」

 答えたのは前回使用したという資料を戻しに来たリルフィー。店長らしい発言だが、資料の片付け方が雑で威厳は一切感じられない。

「掃除か。すぐに終わるし、やろうとは思わんな。どうせ時間を潰すならここにある本を読み漁っていた方がよっぽど有意義だ」

 本というのは時間潰しに丁度良い。どの世界にもその世界にしかないものがあり、書き手の考えも面白い。

「まあ、気持ちは分かるけど。とりあえず、あいつが客を決めるまで待つしかないのよ」

 タイミング良く、そこにセリエが朗報を持って来た。

「それですけど、つい先ほど決まったそうですよ」

「あれ、今回は早いのね。いつもは次の客までもっと間があるのに」

「良いではないか。客が多くて困る事はない」

「それもそうね。で、次はどんな客なの?」

「私が聞いた話によると半分機械化している方だとか」

「半分機械? ふ〜ん、じゃあ今回は結構技術が発達してる世界から来るわけね」

「機械には疎いがそれで転生は出来るのか?」

 半分機械化している人間は流石に見た事はないが普通の人間と違ってくるのは間違いない。それでも転生は可能なのだろうか?

「多分、大丈夫じゃないの。半分機械でも元は人間だったら」

 随分と曖昧な返事で一抹の不安を拭えないが、俺よりはまだ可能性はあるか。

「ここへ来るのは三日後の予定となっていますのでそれまでに準備をお願いします」

 前回は突然だったが、事前に来ると分かっているのとそうでないのは天と地の差がある。

 これを聞いたリルフィーは途端に資料室から姿を消していた。片付け中の資料をそのままにして。

 きっと準備に取り掛かったのだろう。この程度なら代わりにやっておくが、そこまで急ぐ必要があるとは思えないが。

「それで俺は何をしたらいい」

 役職としては用心棒に分類されているが用心棒としての準備とは何だろうか?

「ルインさんは大丈夫ですよ。もし戦闘が必要になった場合にのみ動いてもらいますが、その機会はほとんどありませんので」

 そうか、前回が初めてだったからそれが当たり前なのかと思っていたが彼女たちにとってはイレギュラーだったのか。

 確かに毎度、異世界に駆り出されていてはたまったものではない。

「ではベルにその旨を伝えよう。奴の居場所なら分かっている」

「お願いします。では私も準備がありますので」

 一礼するとセリエはゆっくりと去って行き、資料室に残るのは二人だけとなった。

「師匠、私なら準備はほとんど必要ないのでご一緒しましょうか?」

「いや、一人で十分だ」

 別に彼女を避けているわけではない。ベルはあの性格だから二人で行ってはちゃんと話が出来ないだろうという判断だ。

 こうして一人で気配を頼りにベルの元へと向かう。その扉を開けると部屋に充満していた陰湿な空気が流れ出て来た。

 それを発しているのはその部屋の真ん中でブツブツと何か呟いているベル。

 何事かとそっと近づき、彼女の肩を叩く。

「ルイン……さん」

 いつにも増して思い詰めた顔のベル。目の下にクマがあるのであまり寝ていないようだ。

「どうしたベル。何か悩みがあるなら協力するが」

「ルインさんはリルフィーさんたちが試してるって知ってたんですよね」

「ああ、全て聞いていた」

 分身を通じて全て。そしてその上でシュエルと共に聖杯を探していた。

「それってどう思いました? 私は不安になりました。試す為といっても味方を危険な所に行かせるなんて」

 ベルはどうやらリルフィーたちのやり方が気に入らなかったらしい。そういえば珍しくあの蝿が罵倒以外の事をしていたな。飼い主に似るというのは本当かもしれない。

「優しいんだなベルは。だが気にする事はないさ。俺は不死身だ。奴らもそれを承知の上でやっている。でないとあんな無茶はさせないだろうよ。それよりも次の客が三日後に来る。準備をしておけ」

 頭を撫で、言い聞かせる。俺は大丈夫だと。

 誰かに騙されたり、利用されたりするよりかは百倍マシだ。お前が俺の為に気を病む必要はないと。

「は、はい!」

 するとベルは元気良く返事をし、その笑顔は陰湿な空気を吹き飛ばした。

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