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第26話 聖杯は誰の手に

「やあ、久しぶりだね」

 遂に動き出したバルドル。そこはアンネたちの世界を統括する神が鎮座している場。

 殺風景で何もない所にその男が待ち構えていた。

「バルドルか。このクソ忙しい時期にどうした?」

「いや、調子はどうかと思ってね」

「いつも通りだ。お前が気にするような事は何もねえよ」

「嘘が下手だねアレス。証拠の聖杯はもう回収済みだ。これで君は言い逃れ出来ない」

 それはルインたちが苦労して手に入れた聖杯。見た目はただの黄金の杯だが、それには神の力が詰まっており、どんな願いをも叶える。

 しかし、それを無断で創造するのは禁忌。

「ほう、どうやら部下に恵まれているようだな。全くもって羨ましい限りだ」

「聞いてもいいかな。どうしてこんな事を?」

「単純な話さ。俺は戦いを司る神だっていうのに実際はそれを見てるだけ。しかもこいつらはいつまでもグダグダとやってやがる。飽きたのさ」

 昔は前線に出て、戦っていたアレス。世界を統括する神として責任はあるがどうしても合わなかった。

「分かってるよね。掟を破った神はーー」

「裁きを受けなくてはならない。いくら俺が馬鹿でもそれを知らないわけねえだろ」

「抵抗はしないんだね」

「ふん、つまらん作業を続けて生き長らえるよりかは楽しんで次に託そうかと思ってね」

 神は死なない。

 その身が滅びても代わりの者が顕現する。転生に似ているが、記憶は引き継がれない。

「そう……じゃあ、裁きを始めようか」

「その裁き待った。そいつに少し聞きたい事がある」

 ここで唐突に現れたのは転生屋で待機しているはずのルイン。力尽くで単身、乗り込んで来た。

「ルインくん⁉︎ どうしてここに」

「少々この終わりに納得がいかなくてな。そいつが捕まっても被害者は報われん」

 聖杯のせいで命を落とした者は多い。俺が殺したのが大半なので何を言われても文句はないが。

「わざわざ抗議しに来たというのか。優秀すぎる部下というのも考えものだなバルドル」

「何か考えがあるんだよね」

 無論、考え無しで来るほど愚かではない。その内容を伝えてやるとバルドルは驚愕し、アレスは腹を抱えて笑った。

「ふははは! まさか最後にこれほど面白い者に会えるとは。これでもう後悔はない。バルドル、その男の我儘聞いてやれ」

「分かったよ。じゃあ、今度こそ裁きを下そう戦いを司る神、アレス」

 バルドルは『神』と書かれた白い布をずらすと、そこから覗かせる目がアレスを吸い込んでそれから彼を見た者は誰もいなかった。




***




 神の最後を見届けた後、ルインはそっと転生屋へと戻っていた。

「師匠、ここにいたんですね。探しましたよ」

「どうしたアズリエ。何かあったのか?」

「今回は大変だったからお疲れ様会をやるので師匠もどうかと思って」

「うむ、そうだな」

 今後、共に働く者として交流は不可欠だ。ここは参加するとしよう。

 お疲れ様会の会場着くと既に全員が座って待っていた。提案者と思われるリルフィーは待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。

「みんな集まったわね。今回はかなり大変だったけど無事終わったから全て良し!」

「それで、俺はお前らから信頼を得られた

というわけだ」

「……どうして知ってるのよ」

「こう見えても疑り深い性格でね」

 指をコウモリを変えたように爪を剥がしてそれをコウモリにしてユニコーンを購入しに行った時、リルフィーにつけさせていた。

「まあ、いいわ。試したこっちも悪いんだし。結果から言うとその通りよ。むしろ、こっちからお願いするわ」

 こうしてルインは彼女たち全員に認められ、この転生屋で働く事になった。

「それじゃあ、乾杯しましょう」

 各々、自分の杯を掲げる。そこでベルがある事に気づいてそれを指差す。

「あ、あのルインさん。それって……」

「ああ、これは初給料だ。いいだろう」

 手にしていたのは黄金の杯。

 一体、それでどんな願いを叶えたのか。それは誰も知る由がない。

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