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第21話 圧倒的な力

 ルインの能力の一つ。自身の一部をコウモリにするというものがあり、これは本体とは別に意思を持っている。それと互いに何をしているのかが分かるので連絡手段としてはこれほど便利なものはない。

「そう、もう三剣豪が到着していたのは厄介だけどこの地図を手に入れたのは大きいわね」

 聖杯の気配を感じ取れてもどの道が何処に繋がっているのかを知っていないと意味がない。

「どうやら長時間聖杯の探索が続いているようで兵士の士気は下がっているな。問題はその三剣豪とやらだけだ」

「その三剣豪はその分かれ道手前の場所に居座っているんでしょ。聖杯はその先にあるのに」

「問題ない。作戦は順調に進んでいる」

「順調にって別に急ぐ必要はなくなったでしょ。まだ二週間程度あるんだから」

「それは長く見積もってと言っていた。運が悪ければすぐに見つけられてしまう。それに残念だがもう俺は動いてしまっている」

「せっかちね。じゃあ、私も動かないと」

「健闘を祈る」

 コウモリは再び鉱山の中へと羽ばたく。三剣豪と接触した本体の元へ帰る為に。




***




 ザックスが聖杯捜索に加わったのは好都合だった。作業がひと段落して休憩中に一人になった所で彼の影に潜んでいたルインが姿を現した。

「ようやく一人になったか。待ち侘びたぞ」

「何者だ。いや、聞くまでなくハインツの野郎か。どうやって潜入したかは知らんが聖杯は三剣豪の名にかけて渡しはせんぞ」

「俺はどちらでもないが、それをここで話しても無意味か。ではご自慢の剣を拝見させてもらうとしようか」

 異世界の剣士がどんな戦いを楽しみだ。

 悠然と構え待つ事にしたが一向に動く気配がないので我慢出来ず、ルインが口を開く。

「どうした。剣を抜かないのか?」

 こちらを見て警戒はしているがいまだに柄にすら触れていない。過去に抜刀術というものを受けた事があるがこれはそれとは違う。ただ単に構えていないだけだ。

「先に構えろ。無防備の奴を斬り刻んでも自分の顔に泥を塗る事になる」

 先にどんな攻撃をしてくるか見たかったが、リルフィーのように頑固者のようなので仕方なく構える事にした。

「ではお言葉に甘えるとしよう」

 とはいっても武器は持っていない。何せ自分自身が強力な武器になるのでその必要がない。折角、剣豪と戦うのだから今回は剣にしよう。

 爪で指先を切り、そこから流れ出る血を凝固させて赤い剣をつくり出しそれを手にして構える。

「血の剣とは面妖な。魔法というやつか」

「何でもよかろう。さあ、こちらは剣を抜いたぞ」

 説明をしようとなるとまずこの世界の者ではないというところから始めなくてはいけない。それは面倒なのでサラッと受け流す。

「では答えるとしよう。では一騎打ちの前に名を聞こうか」

「それは必要か? これから殺そうとする男の名前など覚えて何になる」

 自分が何年生きているかさえ数えていないルインにとってその意図は理解出来ないものだ。

「ただ殺していては殺戮者と変わらない。自分が倒した者を糧として明るい未来の為、この剣を振るうのに必要だ」

「騎士道というやつか。ではその熱意を評して名乗らせてもらおう。俺の名はカレイド・ノスフェラトゥーグ・ルイン」

「俺は三剣豪の一人、ザックス。お互い名乗り合ったし、始めるとしようか」

 その巨体にも引けを取らない大きな剣を鞘から抜いて豪快に振り回す。ルインはそれを涼しい顔で受け流していく。

「その細腕でよく俺の攻撃を防げているな。実に惜しい」

「お褒めいただき光栄だが一つ、聞きたい。勇者、シュエルを殺したのはお前か?」

 能力で見たのは全身鎧で身に纏った騎士で顔は見えなかった。転生させた者の敵討ちをする気など毛頭ないが、少しだけ気になってしまった。

「いいや。直接的に殺したのは一般兵だ。数の暴力ってやつだ。俺はそういうのは好かんが……復讐をしようとしているのなら諦めろ。その一般兵もその時軍を任されていたシーカーも既に死んでいる」

「そうか。では聞く事は聞いたし、お前にはもう用はない」

 血の剣で突きを放つがそれは紙一重で躱され反撃されるかに見えたが後ろで剣が変形し、鎧の隙間を縫ってザックスの首を貫いた。

「がはっ……」

 吐き出された血は兜を濡らし、そのまま倒れる姿を見下ろしてルインは作戦を次の段階へと進める事にした。

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