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第16話 買ってきたのは……

 何故かやる気満々のリルフィーは走って消えた。簡単に言うと全員見失ってしまったのだ。

 俺の能力で探し出すのは容易ではあったがセリエにここの神がそれを感知してしまうかもしれないと止められた。そんなことで潜入が露見するとは思えないがリルフィーの我儘に付き合わされる予感がして大人しくそれに従った。

 この世界に詳しいアンネが探しに行く事になり、他は近くの店で見つかるまで待つ事にして日が暮れそうになってくるとそこに満面の笑みでリルフィーが戻って来た。

「お待たせっ!」

「本当にな。それで一体何処に行っていたんだ」

「勿論、馬よりもいい移動手段を探しによ。あのバルドルの命令で動くのは癪に触ってね」

「ほう、それでその馬よりいい移動手段とは何だ?」

「ふふん。こっちに来て見てよ」

 店を出て、帝都から離れて広い草原に白い馬のようなものがそこに凛々しく待ち構えていた。しかし、普通の馬ではないのは額に角が生えている事から明らかだ。

「これは……白い馬ですか?」

 だがベルは普通の馬すら見た事ないのか、ジーッと見つめながら首を傾げている。

「残念、これはユニコーンよ。馬なんかよりも断然早いんだから」

 それはそうだろうが問題はそこではない。

「そうか。しかし、何故一匹なのだ?」

 一匹では馬車を使ってもこの人数を運ぶというのは難しいと思えるが。

「それはその……あいつが悪いのよ。頼み込んでも全然まけてくれないし」

「つまり文無しになったと」

「少しくらい残ってるわよ。流石に全部を使うのはあれだと思って」

 中身を確認してみると片手で数え切れるほどしかなく、アンネに曰くこれでは一週間分もないと言う。ちなみにユニコーンを買うまでは一ヶ月は困らないほどあったと言うがリルフィーは悪びれる様子もない。

「さて、これからどうする? これで行くにも派手で俺は乗る気にならんぞ」

 馬に乗った事は数え切れないほどあるがユニコーンのような聖獣に乗った経験は数えるほどしかない。

 隠密活動をしているというのにこんな人目がつくものに乗ろうとは思えない。

「わ、私の能力で気配を薄くさせるのは出来ますけど……」

「だが乗れるのはせいぜい二人か」

「仕方ありません。ここは聖杯のある場所を知っているセリエさんと最も戦闘能力のあるルインさんに行ってもらいましょう。私たちは徒歩で向かうという事で」

「私が買ってきたのに乗れないなんて不公平よ」

「誰のせいでこの様な事態になっているか分かっていないようですね。事が終わり次第、バルドル様に報告してもいいんですよ」

「セ、セリエ! 謝るからそれだけは許してよ。もう二度としないから」

 あのリルフィーがこんなに弱気になるとは珍しい。所謂、長年の付き合いというものだろうか? これからはセリエに弱みを握られないように気をつけなくては。

「では俺たちは先に行くとするか。ベル、その気配を薄くさせるという能力を使ってくれ」

「は、はい」

 慌てて手をかざして目を閉じて力を送る事、数十秒。見た感じ変わったようには思えないが何もしないよりかはマシか。

「最悪、皆はここで待機していてもいいぞ。無駄足になるのは可哀想だからな」

 ユニコーンと徒歩では天と地の差がある。もし長丁場になったとしても徒歩で追いつかれるほどのものになるほど俺は落ちぶれてはいない。

「いいえ師匠が頑張ってるのに私だけジッとなんてしてられません。他のみんなも同じ思いですよ」

 とアズリエが同意を求めると他の三人が各々それに反応する。

「え? ああ、そうね。確かに新人に全て任せるというのは駄目よね。勿論、店長としてちゃんと働くわよ」

 と言いつつも鞄から取り出した果物らしき物を齧って、完全にこの中で一番異世界を満喫しているリルフィー。

「ルインさんはバルドル様が認めるほどの実力がありますが何が起こるか分からないので保険として行きます」

 事務的に本を確認しながら淡々と語るセリエ。

「わ、私なんかがお役に立てなんて思ってないですけどルインさんだけに負担をかけるのはいかないですから……」

 慣れない場所のせいかいつも以上におどおどしているベル。

 清々しいほどバラバラの意見にルインはため息をついた。らしいと言えばらしいがこんな時くらい嘘でも意見を一致させてもらいたいものだ。

 こうして時間はかかったが聖杯探しが始まった。ルインたちはただ聖杯をこっそり持ち出してそれでお終いと考えていたがそう簡単に事は進まないとこの後、思い知らされる事となる。

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