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第14話 聖杯を求めて

 転生作業を終えた転生屋の一行はセリエが開いた本によって出現した門を通って別の世界へと来ていた。

「ここがシュエルが転生した世界か」

 正確には産まれ育った世界でもある。

 一見、穏やかな世界に思えるがそれはここが国の中心である城の近くだからこそらしい。よく見てみると騎士らしき者が多く確認できる。

「約三百年前からハインツとグラハグの二大王国が戦争をしています。ここはシュエルさんのいたハインツとなります」

 セリエが本を開きながらご丁寧にこの世界の事について説明をしてくれた。俺以外は聞いていないようだがご苦労な事だ。

「まずはシュエルとの合流ね。それでここから何処に行けばいいの?」

 この世界については完全に素人だがセリエは一冊の本を持っている。それにはあらゆる世界の情報が詰まっており、彼女にしか使えないが色々と能力が使えるらしい。

「今回はこの近くにあるフラドという村の村長の娘として転生させました」

「まさか赤ん坊の状態ではあるまいな。流石の俺も子守をするのは勘弁だぞ」

「いいえ、そのように転生させるのが普通ですが今回は時間がないので少し強引に本当は存在しない者として転生させました」

「それはどういう意味だ?」

「実際は村長に娘はいないという事です。バルドル様のお力を借りて村長に娘がいるという嘘を真実として手頃な肉体を彼女に与えたのです」

 つまり無理やりねじ込んだという事か。神の力というのは便利なものだな。

「では問題はどうやってその村から連れ出すかとなるな。村長の娘となると簡単にはいかないだろう」

「いいえ、その点はすぐに解決します。むしろ快く同行を許してくれと思いますよ」

 やけに自信満々という事は何か策があるらしいのでここはセリエに任せるとしよう。

「ふむ、では早速その村に行くとしようか。このまま話していると何処かの誰かさんが迷子になりそうだからな」

「それって誰の事を言ってるのよルイン。言っとくけどベルはああ見えてもしっかりしてるわよ」

 近くの屋台で買ったと思われる果物を口に含みながら喋るリルフィー。

「今のはベルの事を言ったのではないが……言っても無駄か」

 外に出てセリエを先頭に村へと進む。二十分ほどで到着すると山賊対策なのか木の柵で囲まれていて、扉には門番として村人が佇んでいた。

「ようこそ旅の方。大したおもてなしは出来ませんがどうぞ」

 武器を持っておらず、山賊ではないと判断した門番は笑顔で近づい来て歓迎してくれた。

「ここがフラド村ですね。村長の所まで案内していただけますか?」

「村長の所に? 旅の方がどういった要件ですか」

 怪訝そうな表情を浮かべつつ、門番はこちらを警戒し始める。しかし、セリエが懐から出した手のひらサイズのコインのようなものを見せると一変する。

「実は私たちは王の命令でこの村へも足を運んだ次第です。とても重要な任務ですのでご内密にお願いします」

「わ、わかりました。ではこちらへ」

 周囲はおっとりとした空気に包まれていたが門番はそわそわしている。

 案内されたのは他とはほんの少し大きな家。そこに入ると大男が悠然とした態度で待ち構えていた。

「俺が村長のゴーズだ。王様の命令でここに来たと聞いたがこんな所まで何の用だ? 事と次第によってはお前らをこの村から出すわけにはいかなくなるが」

「いえ、今回は村長というよりも村長の娘さんに用があって来ました」

「アンネに用だと? 言っとくがあの戦闘狂に娘を渡す気はないぞ」

「何か勘違いをしているみたいですが私たちは命令をしに来たわけではなく、お願いしに来たのです。村長さんはシュエルという方をご存知ですか?」

「当たり前だ。勇者様の事だろ。その名前ならグラハグの連中だって知っているだろうぜ」

「その方が亡くなられました」

「何だと⁉︎ グラハグの連中にやられたっていうのか」

「これ以上は極秘情報です。そこで本題ですが我々は勇者がいなくなった穴を埋めなくてはいけませんが生半可な者では務まりません」

「そこでどうしてアンネが出てくる」

「独自の調査の結果、聖剣は彼女に受け継がれたと分かったからです。まだ本人も気づいていないかもしれませんが国の為、その力をお借りしたいと思っています」

 セリエがそこまで話すと村長はそっと立ち上がり、何かを決意したような顔を見せた。

「……決めるのは俺じゃねえ。アンネだ。この先の部屋にいるから話してやってくれ」

 セリエの活躍によって村長の説得には成功したが、大変なのはこれからだ。

「ほら、迎えに来たわよシュエル。いえ今はアンネだったわね。どっちでもいいけど行くわよ」

 聖杯を手に入れる旅に。

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