第12話 この世界は
聖杯を許可なしに自分の世界につくり出したという神を裁く。その旨をリルフィーに伝えると不機嫌そうな顔をしたが上からの命令には逆らえないらしく、すぐに準備に取り掛かった。
それが終わると突然連れて行きたい所があると声をかけてきたので俺はそれに応じて後をついて行く事にした。
「はあ、まさか転生屋が異世界に潜入調査なんてね。ほんとそっちの事情に巻き込まれる身にもなってほしいわ」
「しかし客の要望に応え、満足させるのが一流だろう。まあ戦闘になるだろうからお前はここで待っていた方が良さそうだな」
能力で見たところ、これから行こうとしているのは長年戦争が続いている世界。あちこちで紛争が絶えないようで彼女からそれに対抗出来る力は感じられない。
フラガラッハによる転生さえ行ってくれれば戦闘に長けた布陣で乗り込んで、やる事を済ませて来るというのが安全だろう。
「何言ってんのよ。私も行くに決まってるじゃない。そりゃあ戦えないけどそこは用心棒のあんたがやってくれるわよね」
「それが俺の仕事ならな。だが一体どうしたと言うのだ。いきなり案内したい所があるなどと」
転生屋を見て回るのは既に済んでいる。それともまだ何か隠し部屋のようなものがあるのかと思ったら連れてこられたのは外なのでその可能性は薄い。
「これから働く場所がどんな所か教えておこうかと思ってね。まさかこんなに早く離れる事になるとは思ってもみなかったけど」
そこでリルフィーがふと立ち止まって見上げたので同じ方を見るとそこには無数の点が煌めいていた。
一つ一つ大きさや色の違うそれは美しくも儚い。
「これは……星か? いや、しかしここはーー」
「他の世界の光よ。ここは世界と世界の狭間にある空間だからこうして夜になると見えてくるの」
「世界と世界の狭間か。通りで他とは違う感じする訳だ。ここはまさかあの店の為だけにつくり出された世界という事か」
ここならば他の世界への行き来が楽だ。なるほど、わざわざここに呼び出すのはそれが理由か。
「よく分かったわね。本当に神様ってやる事が壮大過ぎて嫌になるわよ。あんたもそう思うでしょ」
「別に神を悪く言うつもりはないがそれには同意しよう。奴らは世界の調和を保つという名目で色々とやっている。どんな犠牲を伴おうともだ」
問題は奴らが大層ご立派な正義を掲げているという事実。いくら俺が不死身で強大な力を有していようとそれは覆らない。だからこそ神は絶対的な存在なのだ。
「これを聞いてたらあいつ怒るかしら?」
「さあな。それは本人に聞いてみないと何とも言えないな」
「何よ、面白くないわね。そこは男なんだから俺が守ってみせるくらい言ってみなさいよ。それとも流石の不死身の吸血鬼でも神様が相手じゃあ怖気付いてるって訳?」
「いや、並の神なら束になって掛ってこようがお前を守り通せる自信はあるが奴は他とは違う何かを感じる。それもとてつもなく深い何か……」
その正体はいまだにハッキリとしない。何故か力を隠しているようだが、今の俺に出来る事はその矛先がこちらに向かない事を祈るだけだ。
もし俺を殺せる能力だとしたらとんだ食わせ者だが、それは最後のお楽しみとしてとっておこう。
「ふ〜ん、私にはそうは思えないけど。それより行くからには徹底的にやるわよ。お客様を満足させてアフターケアも完璧にこなす。それが一流だからね」
「ふむ、では努力しよう。それより聞いていいか」
「何よ?」
「あの聖剣を掻い潜って転生させる方法は何か見つかったか?」
同じ世界へ転生させる事が決まったのはいいが、今回の問題は彼女の一部となった聖剣が反撃をしてくるというところだ。まだ聖剣を制御しきれていないとなると振り出しに戻った気がするが。
「それなら私がいい案を思いついたわ。早朝にパパッとやってすぐ出発するから期待してなさい」
満面の笑みで堂々と言い放つリルフィー。
悪い予感しかしないのでルインは空を見上げながらため息をついた。




