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第10話 聖剣と吸血鬼

 死を覚悟したシュエルだったが目を覚ますとそこは天国でも地獄でもなく、とある異世界だった。

 そして自分がいつの間にか招待状を握っていることに気づき恐る恐るその中身を確認する。

 内容は自分が転生の機会を得たというもの。

 現状が飲み込めないでいるとピンク色の髪の少女が彼女の眼の前に現れた。

「ようこそ転生屋へ。店長のリルフィーよ」

「転生屋……」

「まあ、最初は戸惑うかもしれないわね。けど安心しなさい。ちゃんと要望は聞くわ。なんたってここはサービス根性満開で営業してるからね」

 説明をされてもまだ自分に何が起こっているのか理解出来ていないのに追い打ちをするかのようにもう一人、関係者が来てしまう。

「それを言うならサービス精神です。お客様が困っているので自慢よりもまずご案内を」

「分かってるわよ。それじゃあ、これから転生の手続きをするから」

 何が何だか分からないがシュエルは彼女たちについて行くがそこで自分の現状を知ることとなった。



***



 二人はとある小部屋の前で気づかれないように扉を開けてその中にいる勇者の顔を確認して今後の対策を立てていた。

「奴が今回の客か。随分と手練れようだな」

「そんなことが見ただけで分かるなんて流石ね。彼女はここに来る前は勇者をしてたの」

「勇者か。女の勇者とは珍しい。それに……何か妙だな。気配が二つある」

 これまでにそういった奴はいるにはいたが、二重人格だからというものだった。彼女もそうなのだろうか?

「そうなのよ。実はね、体と聖剣が合体してて無意識で聖剣が出てきて攻撃してくるの」

 間一髪でかわして何事もなかったが、危うくこちらが殺されていたと言う。転生屋の店長が返り討ちに遭ったとなると笑い事では済まされないだろうな。

「確か転生はフラガラッハという剣で殺してからでないといけなかったのだったな」

 曖昧な記憶で転生の流れを確認するルイン。失敗した例だが実際に転生を受けたおかげで知識は少しある。

「ええ、肉体と魂を分離させて魂の方を私たちが他の世界に移動させるっていうのが流れなんだけど逆にこっちが殺されそうになったのよ」

「ふむ、それは厄介だ。しかしそれだけなら俺が彼女をフラガラッハで刺せば良いだけだろう」

 不死身ならば聖剣だろうが関係ない。もし聖剣の力とやらで不死身が無効化されてもルインからしたらそれはそれで自分の問題が早急に解決出来るのでむしろそちらの方を望んでいる。

「残念だけどフラガラッハは私にしか使えないようになってるのよ。諸々の事情でね」

 諸々の事情とは何なのかーーという野暮な質問はしない。

「となると一気に難易度は跳ね上がるな。聖剣を避けて刺すということが出来れば文句はないが……」

「私がそんなこと出来ると思ってるわけ?」

 悪びれる様子もなく堂々と言い切るリルフィーに呆れを通り越して感心する。

「いや、言ってみただけだ。だが本人が転生を望んでいるのに聖剣がそれを邪魔するとは」

 まるで聖剣に意思があるかのようだ。聖剣というのは神がつくったものだから意思があったとしても何ら不思議ではないのだが。

「別に望んで来たわけじゃないみたいだし、聖剣が自分の体の中にあったのも知らなかったみたいよ」

「成る程、望んでいないというのにここに招待されたというのか。基準がよく分からんな」

 俺は無理やりここに来た身だ。客として来た者がどういった風な扱いを受けるかは知らないが今のままでは転生させられない。

「そこは上の方が決めることだから私は何とも。とりあえず本人は転生するなら平和な所っていうことだから早速作業を始めたいんだけど……」

「魂回収の目処が立たない限りそれは無理そうだな。どれ、ここで悩んでいても仕方ない。俺も勇者とやらと会ってこよう」

 ここで見ていても彼女のことは分からない。会って話せないと見えてこないものもある。

 扉を開けて覚悟を決したルインはその部屋へと踏み入った。

「失礼する。俺はここで用心棒をしているカレイド・ノスフェラトゥーグ・ルインだ」

「今の私には近づかない方がいいですよ。勝手に私の一部となっている聖剣が攻撃してしまいますので」

「知っている。俺の身を案じているなら無用だ。何故なら……」

 そっと手を伸ばすとそこは聖剣の射程圏内で目に見えない速度でルインの腕はシュエルから出現した黄金の剣によって切り落とされるがすぐに切断面から赤い糸ようなものが出て、まるで斬られたのが見間違いなのではと疑ってしまうほど元通りとなった。

「俺は不死身なのでな」

 どんなに斬られても、血を流しても、どんな方法でも死ぬことの許されないほどの再生能力がこれだ。

 これがある限り俺は死ねない。一回、灰になるまでの攻撃を受けた時にもこうして再生した。本当に嫌気が差すほどの回復力だ。

「不死身……ここに来てから驚かされてばかりですね。死んだと思ったらこんな世界に飛ばされるし、更に転生をさせてる店で不死身の方と出会うなんて」

「皮肉だろう? だがこれでただ座って待っている必要はなくなった。転生するにはお前を殺さないといけないのだが聖剣が邪魔でな。どうにかならないかと思って来たのだが本当に制御はできないのか?」

「今のところは。時間があれば制御するコツが掴めるかも」

「その可能性を信じて今は待つしかないか。では先に要望を聞こうか」

「要望ですか。それなら言ったはずです。平和な所なら何処でもいいと」

「ふむ、それは本音か? 裏切られて何か諦めているだけではないのか」

「貴方、何者ですか?」

「ただの不死身の化け物さ。長年生きていたせいで人を見る目は随分と養われてなーーというのは嘘で少々力を使わせてもらった」

 卑怯かもしれないがこれが一番手っ取り早かったのだ。別にこいつが何処に転生しようと関係のないことだが、転生屋として客を満足させなくてはな。

「本当に驚かされますね。分かりました。では本当のことを言います。私は元の世界に帰りたい」

 彼女の口から真実が告げられた。

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