短編 賞金稼ぎ
連作短編になるかも
スマホの試し打ち投稿です
男の足元には五つの人間が転がっている。
一人はでっぷりとした巨漢。いやらしい顔を苦痛と驚愕に歪ませ、眉間に開いた穴からはまだ煙が燻っている。
二人目はガリガリに痩せ細った不健康そうな青年。
まだ幼い顔立ちだが、この先彼が歳を取る時は一生訪れないだろう。
三人目は背の曲がった小男。
猫背のまま撃たれ無様に転がっている。嫌味を吐くのが上手かった口はもう二度と喋りはしない。
四人目は初老の牧師。
穏やかそうな顔は嗜虐的な顔を浮かべ、そのまま死んでいる。
気付く間もなく死んでいっただけまだ幸せだったか。
最後に残っているのは精悍だがまだ幼さを残している青年だった。
黒い髪に鮮血が飛び散り、茶色い瞳は虚空を彷徨っている。
まだ息があるようだが、喉からごぽごぽと血が吐き出る。
もう助からないだろう。
「仕事は終わった。」
煙草を咥えたまま男はつまらなさそうに吐き捨て、くるりと踵を返し背後の老人に話しかける。
老人___村長は呆然と男を見つめていたが、ふと我に返ったように返事を返す。
「…か、感謝する。」
「礼など一銭にもならん。さっさと謝礼を出してくれるだけでいい。」
「しかし」
「余計な返事は必要としていない。」
傷だらけの頬がピクリと跳ねる。
男にとっては只の癖だったが、村長はそうと受け取らなかったようだ。
顔を強張らせ、急いで部下を連れ役場へ引き返していった。
村長が去り、静寂に包まれる町の広場。
水を差すように、誰かが男に詰め寄った。
「チコはおれの幼馴染だったんだ。あんたは、あんたは彼奴が脅されてるかもって思わなかったのか!」
「なんで、なんでみんな殺しちまったんだ。生け捕りにして保安官へ突き出せばよかったじゃないかッ!」
「殺す事なんて無かったじゃないか、こんな、こんな…」
ぶるぶる震えながら青年は男を揺さぶる。
段々と男の胸ぐらを掴んでいた手は力を失い、大きく見開いた瞳から涙が溢れる。
男はヘナヘナと崩れ落ちた青年を一瞥すると、興味なさそうに口を開いた。
「彼処にいる全員、賞金が付いている。」
「俺が見逃していても、いずれはこうなる運命だった。」
そしてそのまま投げ捨てていた上着を羽織り、まだ立ち竦んでいる村人達に告げる。
「ここにはもう賞金首はいない。これ以上殺すつもりは無い。おまえ等も仕事へ戻ったらどうだ。」
我に返った村人達が次々に帰っていく。
男は煙を吐き、煙草をつまみながら自分の馬の元へ進もうとする。
「…なあ、」
男は脚を止めた。しかし振り返らず、青年は男の表情を見ることができない。
青年は男に目を向ける。
「あんた、ずっと一人で旅してんのか。」
「俺はもう此処に身寄りがない。親友も彼奴らの仲間で、あんたが殺しちまった。」
「俺を連れていってくれないか。」
男は漸く青年に目を向け、興味深かそうに鋭い目を細めた。
「本気か坊主。賞金稼ぎにでもなるつもりなら辞めた方がいい。」
「俺は本気だ!」
「汚れた仕事だ。餓鬼にやって行けるわけがない。直ぐに嫌になるぞ。」
それでも青年は食い下がらない。真っ直ぐな目で男を見つめ続ける。
「…それでもか?」
「…それでもだ」
「…俺は金を貰い次第町を出て行く。どうしても付いて行きたいのならもう止めはしない。だが後悔するなよ。」
男は歯を見せて笑った。獰猛な、それでいて歓迎するような表情だった。
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