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ビーストハンター 第3話 「帰らざる波止場 」(2)

「もし、お前に万が一の事があった時はこれを使え。栄達」

 そう言いながら、建勝はテーブルの上に置いていたグロッグの小型拳銃を栄達に渡した。

「兄貴はどうするの?」栄達が心配そうに尋ねた。

「なぁに、俺はもう一丁持っているから心配はいらない」

「これからどうするの?」栄達は尋ねた。

「今晩はここに隠れて、明日の夜に東京港を出る「永泰号」に乗るつもりだ」

「福建へ帰るのかい?」

「あぁ、中国は広いからな…千恵子と二人で何とか生きて行くさ」


 呉建勝は、中国の福建省にある貧しい村に生まれた。

 小さい頃から、手の付けられないガキ大将で近所の子供たちの番長格だった。

 でもそんな彼にも、たった一つだけいいところがあった…とても親思いの子だったのだ。

 自分と兄弟を養うために、いつも貧しい中で身を粉にして働く両親を楽にしてやりたいと思っていた。

 だから成長すると、当時一番実入りのよかったジャーダンに入った。ジャーダンがどんな組織かも知らずに。

 振り込め詐欺の背子から始めて麻薬の密売人になり、ジャーダンが東京に進出するとカジノのイカサマ賭博師になった。

 そうして、やがてボスから一軒のコスプレバーを任された。その店は表向きはバーだったが裏では人身売買をやっていた。

 高額の日給をチラつかせ、女の子をスカウトして来ては働かせ、時期を見て海外に売り飛ばすのだ。

 金を儲けて親孝行しようと考えていた彼は、自分が悪い事をしているのはよく知っていた。

 だが気が付いた時には、もう組織から足を洗えなくなってしまっていたのだ。


 そんな時に間宮千恵子に出会った。

 千恵子は、高校の時に両親を交通事故で亡くして弟とともに親戚の家に預けられた。

 その親戚も決して裕福ではなかった。彼女は進学を諦めるしかなかったが、弟は何とかして大学に行かせてやりたいと思った。

 地元の高校を卒業した千恵子は、弟の学資を稼ぐために単身上京して働く事にした。

 しかし、学歴のない千恵子に満足な給料を出してくれるような会社はどこにもなかった。

 彼女は昼間は喫茶店のウェートレスをし、夜はスナックで働いて懸命に弟の学資を稼いでは仕送りをした。

 彼女のよいところは素直でよく気が付く事だった。その上美人だったので雇い主にも客にも喜ばれた。

 色んな男たちが千恵子を見初めて言い寄って来たが、彼女には恋をする暇などはなかった。

 そうしたある日、彼女は街でコスプレバーのスタッフにスカウトされた。

 コスプレを着るのは恥ずかしかったが高額の日給がもらえる…千恵子は何としてでもお金が欲しかった。

 売り飛ばされる事も知らずに健気に働き、明るい笑顔で客たちの世話を焼く彼女を見て建勝は思った。

 こんな女と所帯を持てたら、きっと福建の両親にいい親孝行ができただろうに…と。

 叶わぬ夢と知りつつ、建勝はいつしか千恵子に恋心を抱くようになってしまっていた。

 しかし、そうこうしている内にとうとう運命の日がやって来た。


~続く~

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