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見届ける者 消す者 anotherⅠ  作者: 雨後晴れ
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another Ⅰ 後編

another Ⅰ 

  from #3予知夢

    ~if miku(もし) visits(あの時) mother(母を) at that(訪れて) timeいたら


後編


「未来、おっぱい大きくなったわね、どれどれ」

「ちょっと、ヤダ、お母さん」


 車の中で一瞬見せた寂しげな表情などウソの様に、温泉についてからはいつもの母であった。ゆっくりと温泉を堪能した二人は温泉街を昼食も兼ねて散歩する事にした。平日の午後という事もあり少し閑散とした温泉街を気ままに散歩する二人は、以外とアジア系の外国人旅行客が多い事に驚いていた。


「お母さんこれ見て!」

「え……、ふふそっくりね」


お土産屋には、兄の望にそっくりな、とぼけた表情のこけしが並んでいて未来と母を大いに笑わせた。


「ここの名物の黒胡麻のソフトクリーム、美味しくて有名なのよ。ちょっと待ってて」


 母の笑顔を見る未来の表情も嬉しそうであった。未来はソフトクリームを売る店を探す為に母を残して駆け出した。5分ほど探してやっと1軒見つけたが定休日であった為、もう5分程探す事になった。やっと黒胡麻のソフトクリームを見つけて母と別れた場所に戻ると母の姿はそこに無かった。


「トイレにでも行ってるのかな? 早くしないと溶けちゃう」


 しかし5分待っても10分待っても母が現れる事は無かった。両手に持ったソフトクリームが少しずつ溶けて未来の手に流れ落ちて来た。日差しは少しずつ傾き始め、人通りは益々少なくなっていた。その時未来の携帯電話がメールの着信音を鳴らす。


《未来、今日はありがとう。本当に楽しかった》


母からのメールはただそれだけが書かれていた。未来は直ぐに母に電話をかけたが携帯電話の電源は切られており、母へつながる事は無かった。


「お母さんどうして、何故なの? あんなに笑っていたのに、どうして!」



”比良坂市方面”

そう書かれた長距離バス亭の前で一人、バスを待つ母。

その横に男が現れる。


「いいのか?」

「ええ、”見届ける者”さん、もういいの。これ以上私がいたら子供達に迷惑がかかるの」

「……わかった。お前の選択を見届けよう」


昨夜、未来の母の前に見届ける者は既に現れていた。


「お前はもうすぐ死ぬ。お前の選択肢は二つだ。このまま死を選ぶか、一人の人間に助けてもらうか選べ」


 その時に母の前に提示された選択肢は、この二つであった。母は自分を助ける者が子供達であり、おそらくそれは望では無く、未来である事を何の根拠も無いが確信していた様であった。それは二人の性格の問題では無い。母の知る未来は時として未来みらいを確信した様な選択をする娘だからであった。


母は既に”死”を選択していた。



 夕日が琥珀色に温泉街を染める頃、母を捜して駆け回る未来の姿があった。温泉街はほとんど人通りも無くなり、望の”こけし”があったお土産屋もシャッターをおろし始めていた。


「お母さんどこなの?どこにいるの?教えて、お母さん」


 まるで迷子の幼子が見えない母の笑顔を捜し求めてさ迷う様に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、母を捜す未来。未来の脳裏に、母に駆け寄ろうとして近づけなかった、あの夢の感覚が否応なしに蘇っていた。尚も母を捜す為に駆け出そうした時、石畳に足を捉われその場に転倒した未来が再び立ち上がる事は無かった。


「お母さん……、ごめんなさい。花火を観るって……、お母さんを助けるって誓ったのに」



 夕暮れ時、長距離バスで帰って来た母は自宅に戻っていた。そのまま明かりもつけずに薄暗い居間で何かを書き始めていた。


《望、未来、生まれて来てくれてありがとう。

 こんな私の子供になってくれてありがとう。


 あなた達がいてくれたからこそ、今日まで生きる事ができました。

 あなた達二人の幸せだけが母の願いです。

 あなた達を悲しませる事だけが唯一の心残りです。

 本当にごめんなさい。


 あなた達を心から愛しています》



「未来、会いに来てくれてありがとう」


ペンを置くと、母は微笑みながら虚空に向かって呟いた。


未来の予知夢には無かった言葉を。



                              ~another Ⅰ~  

                                     end



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