光子魚雷
作者が毒電波を受信して書いたテキトー短編
『鎮守府司令長官日誌 連邦暦6663257 汐宮皇国との勢力境界線を哨戒していた宇宙戦艦〈アンドロメダ号〉より、タキオン粒子の放射を受けたとの報告が入った。同時刻、〈アンドロメダ号〉艦内より、光子魚雷一発が紛失した。調査の結果、タキオン粒子の変動パターンは、汐宮皇国の超長距離転送装置によるものと酷似していることが判明。本件は、汐宮皇国による武器奪取であると推定される。連邦艦隊司令部は既に、全艦隊に対して……』
5411235X/187423Y/559174Z/85001V恒星系
地球人類文明圏より遥かかなたの遠隔地、その恒星系の第三惑星にはいまだ宇宙に達していない未開文明が存在していた。
その惑星の住民たちは、依然として、自分たちの住む大地が球形であることも知らずに生命を育んでいたのだが……。
そんな惑星の住民の一人、ナガノ王国王女、ナガノ=ミコノは茫然としていた。
彼女の目の前にあるもの。それは勇者召喚用の魔法陣である。異大陸にて、近隣諸国を次々と併合。急速に勢力を拡大する魔王と魔族たち。そんな魔族の侵略から国を守るべく今回行われたのが勇者召喚だ。
そんな魔法陣はすでにその使命を終えて、機能を停止している。彼女が呆然としている理由。それは先程呼び出された“勇者”にあった。
そう……魔法陣が呼び出した“勇者”。
それは人間ではなく……
棺桶だった。
「どう見ても……棺桶ですね?」
「ふむ。確かに、一見するとそのように見えますのぉ」
王女の問いに、宮廷魔導士長が応じる。
「『一見』? 魔導士長? 私の目にはどう見ても棺桶にしか見えませんが」
そんな王女の詰問に、軍務卿が追従する。
「さもなければ、ただの黒色の何かですな。 どういうことなのですか? 召喚に失敗したのですか?」
そんな二人からの質問に、宮廷魔術師長はあまり顔色がよろしくない。そしてそれは、召喚魔法で大いに魔力を消費していることだけが理由ではない。
「いえ……召喚魔法の理論は完璧……なはずです。魔王を打ち倒せる存在を呼び出すよう女神さまに祈り、その結果この“棺桶”が現れたわけですから……この“棺桶”に魔王を打ち倒す力があるのは間違いないはずです。……少なくとも、伝承の通りならですが」
「ふーん。この棺桶に魔王を倒すような力がねぇ……。わたくしにはそうは思えませんけどね」
王女は全く信じるつもりがないようだ。
だが、
人間達がそういった言い争いをしている頃、“棺桶”は“棺桶”で思考を進めていた。
『状況不明。データリンク使用不能』
『敵味方識別信号に応答なし』
『誰何信号にも反応なし』
『本機は敵対勢力に奪取されたものと推定』
『機密保護行動開始……自爆装置起動……カウント省略、実行』
その瞬間、巨大な重力乱流が発生。第三惑星を跡形もなく粉砕。そこに住む住民たちは塵も残らず消滅した。
むかーし、むかーし……遥か彼方の惑星にて……
「よし、完璧。悪は滅びた」
「いや、蒼姉……。これはやりすぎじゃね? さすがに。惑星が丸ごと消し飛んでるんだけど……」
弟が何やら言ってくる。毎度毎度、メンドクサイ奴だなぁ。勇者召喚の対象が、自分じゃなくてあたしだからって勝手なことを。
「いいじゃない、それぐらい! 連中の望み通りに魔王一味も完膚なきまでに消し飛んでるわよ!」
「いや……。まあ、確かにそうだけど……。一般市民も巻き込まれてるような……」
「そんなのどうでも良いじゃない! ほら! あれよ! コラテラルダメージってやつよ! 最近流行ってるでしょ! コラテラルダメージ!」
「うーん。何だかなあ……」
弟はまだグズグズ言っている。メンドイ奴!
「うるさいわね! あんたが勇者やれば良かったじゃない! そんなに言うんなら!」
「えー。ヤだよ。俺が呼ばれたんじゃないし……」




