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ただ、淡い緑の鱗の色合いだけは忘れない。記憶の中の竜の、薄れてしまった部分を、補うための知識を求めた。子供向けの絵本やディリアの国を讃える詩や、作業の合間に人々が歌うちょっとした唄の中に潜む竜についての言葉を見つけては、私の見た小さな竜の印象と照らし合わせる。小さな竜を忘れたくなくて、すこしでも現実味のある記憶にしたくて探しているのに、それらの言葉たちは、ますます竜という存在を私から遠ざけていった。
お母様やラソットのおばあ様に問えば、もう少し具体的なこの国の歴史に絡む竜の物語を聞けたかもしれない。けれど、竜を見たと言い張る5つだった私にそれは夢だと言いきかせた人たちだから、きっと私が竜を気にかけることをよしとしないだろう。
私は誰にも明かさないまま、竜に心を傾け続けた。
幼い執着。お気に入りの人形を手放せない小さい子と同じ。
いつか私の見た小さな竜をみんなが信じてくれる日が、来ても来なくても私だけは私を信じていたかった。