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オーウェルはどんどん私を引き離して行くようだった。その頃からオーウェルは「僕は竜騎士になるよ」なんて言いだした。
竜!!私は忘れていなかった。あの竜のこと。ときおり、ふと思い出しては脳裏に残る姿を焼き付け直した。みんなに信じてもらえなくったって、忘れていなかった。
───私は、
私は?私は竜騎士にはなれない。女の騎士はほんの少しだけいるそうだけれど、女の竜騎士は聞いたことがない。竜に乗るのは馬に乗るのとは訳が違う。私は体を動かすのが得意ではない。小さい頃からよく転んだ。竜に跨って、空を飛んで、自分が竜の背から滑り落ちる所を想像してみた。ぞっとする。私は竜騎士にはなれない。
オーウェルは言葉に詰まる私に、気付かないみたいだった。私の横できょとんとする六歳のアルスに、騎士は剣と弓とどうのこうのと説いている。
───私は。
その先の言葉は見つからないまま、私の淑女教育が始まった。花の活け方に、マナーと、簡単な建国史の勉強と、現在の国内外の情勢と。いくら名ばかりで、慎ましく暮らす子爵の娘とは言ったって、爵位を持つ以上はそれなりに外にだしてもいいように育てておくものだ、というのは父方のおじい様の持論だ。父方の親戚から教養のある伯爵夫人のサヘナおば様が週に1度やって来ることになった。それ以外の日はお母様が先生だ。
ますます竜とは遠ざかることになった。竜騎士にはなれそうにないし、なりたいとも思わないけど、どうにかしてあの竜をもう一度見たいと考えていた。もう一度見たい。そばにいたい。あの竜の纏う神聖な空気、作り物のような現実味のなさによって、私のあの日の記憶はひどく揺らいでいた。どうにかつなぎ止めたくて、何度も思い返して見るけれど、確実にすこしずつすり減ってあの日の風景も褪せていくようだった。