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今日も賑わう食堂の一角で私は私の二倍、とまでは言わないが明らかに私では食せない量の料理を抱えた男二人と対面していた。
厳密に言えば、私の正面でオーウェルが優雅に魚にナイフを入れ、その隣──私の右斜め前の席では先ほど謎の行動を見せた黒髪の彼が、黙々と同じ料理を口にしている。
どうも優雅なオーウェルの隣に並ぶと粗野な振る舞いに見えるが、テーブルマナーとしては少しも間違ってはいない。私の従兄殿がやけに優雅なだけだと思う。
「まぁ、さっきも言ったんだけどさ。こいつはサーク。口数は少ないけど、いい奴だよ。」
私は手を止めて、オーウェルを見やった。サークさんとやらの行動を思い出して、自然と自分の眉が寄っていくのがわかった。案の定、訝しがるような顔をしていたらしい。
「本当だよ、サークはいい奴なんだ。さっきの挨拶は、えっとね・・・。」
ますます私の顔は強ばっていく。オーウェルは『困ったな』というふうな表情を浮かべ、こちらを伺っている。が、しかし、その実面白がっているというか、笑いをこらえているのが私にはわかる。──幼いうちから竜騎士を目指す未来の侯爵として、いろんなものを背負った彼はこんなところばかり器用になってしまった。
「あれは、貴族の間での最も礼儀正しい、女性に対する挨拶でしょう?」
今まで料理に向かっていた彼も、二人の間の微妙な空気を察したようだ。不思議そうな顔をして私を見る。
「──全くの、間違いではないのですが、その、」
煮えきらない答えを持ち出した私に、サークさんが、ゆっくりと首を回す。じとり、と目を細めてオーウェルを見る彼の頬のあたりから耳までが、うっすらと赤みを帯びていく。
「オーウェル。またか。」
「あぁ。いやぁ。まぁね。」
噴き出しそうになっているくせに、金髪の従兄殿は、食事の席においてそれをおくびにもださない。
「リナリア嬢、申し訳ない。」
「はぁ。大丈夫ですよ、驚きましたけれど。」
「あれは、貴族の間での最も礼儀正しい挨拶だとオーウェルが以前私に教えて・・・。」
「で、さっきも僕が『こういう時に使うんだよ』って教えてあげたってこと。」
───オーウェル・・・。何をしてるの。
「『またか』ってことは、他にもなにか?」
「ええ、まぁ、いくつか。」
それっきり、籠の丸いパンを手に取り、食事に戻ってしまった。どうやら聞かれたくはないことらしい。
「さっきの礼も、間違いではありませんでしたわ。ただ、古いというか、今の貴族の間ではまずやらないことですね。もっと正式な場では使われるとも聞きますが、少なくとも廊下での初対面の挨拶ではありません。」
「そうですか・・・。」
───まずいわ。
『貴族の礼だというのは間違いではなかった』と、慰めるつもりの言葉がトドメを刺してしまった。
「何かが動き出す」とか煽った上で、
間を開けてしまってごめんなさい!
待って下さってたら嬉しいのですよ。




