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「さて、そのちいさな集団のうち比較的大きな部類まで育った集団のリーダーだったのが、現在の王家であるロギューの一族、それからディリアの10柱の家名をもつ一族でした。集団の中で姓を名乗るのはリーダーだけ。リーダーは世襲ではなく実力のある若い男性のうちから指名で継がれていたようです。そして、ロギューの一族に現れた若いリーダー、後のクランナット1世──この名称は歴史を編纂する際に便宜上つけられたようですけどね、本当の名前はわからないのです。」
ライドン先生は1度言葉を切って、咳払いした後、軽く紅茶に口をつけた。私たちも倣ってカップをつまみ上げる。
「話がそれましたが、現在のディリアの中枢を担う貴族の多くは集団をまとめてきた、建国時のリーダーの末裔というわけです。竜を得たクラナット1世が、いくつかの集団を一挙に吸収した時、10人のリーダーを自分の臣下として大事に扱いました。それが、貴族位の始まりですね。そこから、何代かかけて王族の降嫁と婿入りを繰り返して、ディリアの10柱とロギューの一族は血のつながりを持ちました。10柱内でも爵位が異なるのはそのへんの都合ですね。その他の貴族たちは、国が発展する中で功績を認められた者達です。」
───『クランナット1世が竜を得た』って、簡単に言うのね。
「先生、建国史の本にもクランナット1世が竜を得た経緯が詳しく載っておりませんでしたが、」
「──それは、そのはずですよ。」
『教えていただけませんか。』と続けるつもりだった言葉は、当然とばかりに肯定するライドン先生に絶たれた。竜についての詩でも、子供向けの絵本でも、竜と初代国王の対峙をぼやかして表現している。
「『竜との誓い』。王家と竜騎士たちの秘密です。彼らは多くの秘密を共有しているといいます。クランナット1世が竜を得るまでの経緯もそのひとつです。建国史の教本に書かれていることまでが私の教えられること。原本の建国記にも詳細は書かれていませんがね。尋ねた学者に彼らは『竜との誓い』だと返すのです。」
───秘密。『竜との誓い』。誓いの内容を隠すための言葉?それとも、秘密を隠すことが誓い?
───竜は人の意を解するの?人が一方的に竜にかけて誓ったの?
困惑とも苛立ちともつかない暗い気持ちがふつりと浮かび、何だか体が重くなる。『悔しい』と表現するのが一番近いかもしれない。とにかく途方もない問題に出会ってしまった。
「『王家』も知ることなの?私は?私は教えてもらえないの?先生。」
不満気なリュカがライドン先生を見上げる。
「申し訳ございません、殿下。私からは・・・。存じ上げておりませんので。」
「あ、え、そうよね。先生は教えられないよね。」
「ええ。国王陛下にお尋ねになってください。」
リュカが誤魔化すように笑って、つられた私たちに和やかな空気が漂う。
「では、次の授業は明後日の午後ですね。リナリア嬢には迎えが行くようになっています。二人とも教本をお忘れないよう。」




