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ゆくゆくはディリアの10柱のうちのひとつ──ラソット侯爵家を継ぐこの男、なるほど食事中の動作が美しい。一応どちらかといえば長身の部類で、顔立ちは華やかではないけれど涼しげに整っていて、貴族の手本のようである。
そんなオーウェルが、美しい動作を保ったまま、王城で働く男たちと同様に結構な量の料理を平らげていくのは驚いた。感心すら覚える。
昼時の一番混みあう時間に差し掛かったらしい。徐々に食堂に人が増えて賑やかになってきた。通りかかる女性たちがオーウェルをちらちら見ていく。家柄よし、容姿もなかなか、人当たりも悪くないのだオーウェルは。その目線の意味がわからないほど私は子供ではない──と思う。
ただ、なんとなく同時に私の方も見られているような気になってきて、落ち着かない。早く食べきってしまおうとメインの鶏肉の料理を、せっせと口に運んでいく。
私より後からきたのに、先に食べきったオーウェルが水の入ったゴブレットを傾ける。
「リナリア。」
「何?」
「もうすぐ、竜騎士になるんだ。今度の任命式に内定してて。」
「そう・・・」
オーウェルの声が私を気づかうように聞こえるのは、きっと気のせいではないだろう。『おめでとう』とひとこと言ってしまえばいいのに、妙に喉につっかえてしまうのは──私の心にオーウェルを羨む気持ちがあるからだ。
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あの後、何も言えないままオーウェルが食堂から去っていくのを見送った。一人になった後口にしたスープはひどく味気なく感じた。冷めてしまったからかもしれなかった。
───次はきっと『おめでとう』って言うのよ。
よくよく考えれば、オーウェルの紳士然とした態度を気に食わないと思うのは、そんなふうに振る舞いだしたころのオーウェルが、私と遊ばなくなったからだ。私はそれが気に食わなかった。オーウェルを見る度になんだか逃げ出したくなるのだって、無意識にオーウェルを羨んで、何も手にすることのない無能な、自分を晒してしまうことを恐れたからだ。
───誰も私たちを比べたりなんてしなかったし、私は努力だってしたことはなかったのにね。
ディリアには例のないことだけれど、女性が竜騎士になることだってできるのかもしれない。王城の文官の中には女性がいるのだ。
竜騎士という職につくような覚悟はできなくて、竜に触れ合いたいという私はとても我侭なんだろう。
竜を従える王家に、閉鎖的な地形のディリアではまず争うことがない。『騎士』は、平和なディリアの形式としての王城警備よりも、災害時の国内派遣を主な仕事とし、鍛えられた肉体と精神を競わせ国民の模範となるべく日々精進する──彼らは剣も弓も馬術も修めるけれど、その生涯のうちに修めた技を用いて人を害することになる者はとても少ない。平和な国の騎士。明日命を落とすなどと案じることを、求められはしても、心からそんなふうには思えない。この国には争いがないから。
ただ、『竜騎士』となると話が全く違う。古くからディリアの閉じられた土地の外の国々、たくさんの王たちと対峙してきた使者である彼らは、命の保証がない。私たちの常識の通じない場所で──今は随分たくさんの国と親書をかわしているし、いくつかの国は船で大陸を回り込んでくるから、全く知らない国はないはずだけれど──危険と隣合わせの任務をこなすのだ。
改めて考えてみると私が竜騎士になれる気がまったくしない。
───オーウェルは努力したのね。
今回はなんだか文字が詰まっちゃいましたね。
辛抱強くお付き合い頂きありがとうございます。
『竜騎士』は危険なお仕事!ということです。