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ソファに座り込んだリュカと、同じく腰を下ろした私は互いに次に発するべき言葉を探るように、向かい合う。
「エリュカミラ様、そろそろ。」
少し離れた所にいたフレザさんが寄ってきた。リュカには何か予定があったようだ。
「ええ、わかったわ。」
フレザさんと目を合わせてから、私へと向き直る。
「ごめんなさい、リナリア。お父様に昼食に呼ばれているの。海の向こうのお客様がいらっしゃるらしくって。」
「かまわないわ。リュカ、素敵な場所を見せてくれてありがとう。」
「ここは、私のお気に入りの場所だって皆しってるし、竜騎士団の建物が見えるけど景色はたいしてよくないから、あまり人が来ないの。リナリアも好きなときに来るといいよ。」
「嬉しい!ここで、本を読もうかしら。」
───あれ、私、そんなにゆったりしてていいの?
「リュカ、私って侍女として働くのよね?いつから始まるの?内容もよくわかってなくって・・・。」
楽しげに私の話を聞いていたリュカが、慌てたように左右に首をふる。
「違うの、違うの!あれはちょうど侍女の話をしてた時にリナリアを呼ぶ許可を貰いに行ったから、お父様が勘違いしたの。リナリアには単にまた会いたかっただけなんだけど、えっと、『学友』ってことで、建国史を一緒に習ってみない?」
───『学友』?私が?
王女と共に学ぶ女の子なら、ディリアの10柱の娘のうちから選ばれているはず。ましてや、淑女教育の一環に普通の貴族の娘たちはディリアの建国史なんてものを習わない。王族はやはり、自分の一族の成り立ちとして習うのだろうか。
混乱気味の私の答えを待たずに続く。
「今朝あなたの部屋に届けさせた本、あれが建国史を習う時の本よ。読んでみた?」
「赤い表紙の本ね。タイトルがなかったけど、少し読んだわ。」
「一応、人に広める様なものではないから、表紙にタイトルはつけずにあなたの分を作らせたの。ディリアの歴史はつまり、竜の歴史よ!気にならない?」
───竜の歴史!
そう言われればそうかもしれない。長いことディリアに根付いているらしい竜の存在を、一度も疑問に感じたことはなかったけれど、この国が竜と歩んできたのは確かなことだ。
「お茶やダンスを一緒に習う女の子たちはいるんだけどね、歴史を始めるのに興味をもってくれる子がいなかったの。リナリアなら、って思って。」
「竜の歴史ね。とても興味深いわ。」
「じゃあ、一緒に受けましょうね!よかった、一人じゃさみしいもの。」
「ええ、よろしくねリュカ。とても光栄なことだわ。」
リュカの小さくて白くて柔らかい手が、私の両手をとってぎゅっと握った。
「週に三日の授業ですって。ざっと一年ぐらいかな。滞在中のリナリアの部屋は、今使ってる客間でいいよね。」
───お父様、お母様。リナリアは一年、家に帰れないようです。