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部屋を出て右へ。少し歩いた所から渡り廊下を通って建物の向かい側へ。
ディリアの建築物であるからには、王城もやはり石造り。そもそもなんで石造りが基本かといえば、ディリアの半分程をぐるりと囲む険しい山脈通称『竜のすみか』に転がる石で家を建てたことからだと言われている。建築に適した木があまり見られないのも理由のひとつだろう。
山で集めた石を上手いことそのままの形で組み上げていく民家とはちがって、王城の構成には、切り出して大きさを統一した石を使っているようで、一定の継ぎ目を見せる壁にあえて秩序を崩しにかかるように広げられた色鮮やかな飾り布は、互いの色を損なうことなく、かえって荘厳な空気を生み出している。全体的に色を暗めに抑えているせいかもしれない。
さらに王族の方々の住まう棟へと繋がる廊下の右手に、リュカの言う『東の庭』はあった。
昨日王城に着いた私があてがわれていた部屋は、色んな部屋が連なる一番大きな建物の一階にあって、客人への部屋としては最奥。これは今気づいたことだけど、廊下を二度──十分もしないうちに、王族居住棟へとたどり着いてしまう部屋だった。つまり、それだけ王族に近しいものとしての信頼を示されているわけだ。
なるほど、食事を届けたりドレス──といってもちょっと洒落たシンプルなそれ──を着る時手を貸してくれたお仕着せの女性たちの態度の恭しいこと。私の事をどこぞの貴族のお嬢様だと思っているようだ。
───どこぞの貴族ではあるんだけどね。
「こっちが東の庭なの!」
先頭を歩いていたリュカが廊下の右側の扉から外へと進みでる。反対側の外にも緑が茂るのが見えるけれど、『東の庭』こそが、盛りを迎えた花を擁して、『春の庭』を名乗るにふさわしかった。
「綺麗ねぇ・・・」
「でしょう!」
ハース家の庭の花は、そのへんに咲いていた野花を根ごと移して、適当に水をやっているだけなのでこんな品のある花たちの名前はわからないけれど、とにかく可愛らしいというよりも立派で美しい花が所せましと並んでいる。
気の利いた言葉のひとつもひねり出せないまま、道なりに花壇の間を進む私の視界にちらちらこちらを伺うリュカが写る。ぼんやりしているだけの私を連れて歩いて何が楽しいのかわからないけれど、嬉しそうにしている。
───なんだか、つられて笑ってしまうわね。
とくに何を話すでもなく──いや、ときおりリュカがお気に入りの花の名前を教えてくれたのに私の頭にはいまいち残らなかった──歩くうちに花に囲まれた東屋があらわれる。
これまでにも何度か目にしたようなお仕着せの女性たちがお茶の支度を調えていた。
~・~・~・~・~・~
「どう?ここの庭が一番お気に入りなの。春の花を集めたのが東の庭で、あとは木ばっかりだからね。」
「とても綺麗でしたわ。こんなに花が揃っているのは初めて見ましたし、どれも手入れがよくて・・・。ありがとうございます、この時期に間に合うようにと手紙を頂いて。」
またもや、他人行儀になった私の態度が気に入らないようでリュカが眉をひそめてこちらを見ている。フレザさん一人ならまだしも誰が訪れるか分からない庭で、多くの人に囲まれながら気安いふうを装えるほど、私は世間知らずではない。
「うーん。まぁ、リナリアが楽しんでくれたならいいの。」
まだ納得がいかない様子で周囲を一瞥する。
「ええ、とっても。」
「そしたら、次はね、もっといいものみせてあげる!」