18
「今お渡しした封筒が陛下からのものです。」
お父様はお客様の前で、ましてや陛下からの手紙に対して、不機嫌な様子を見せるわけにも行かなくてぎこちなく微笑みを作ろうとする。
「それから、」
テーブルの上に出してあった薄桃色の封筒を取り上げて、私に向ける。
「こちらはリナリア様に。」
封筒のに署名はないけれど、封をするための蜜蝋に押された印が白い封筒と同じということは、この手紙も国王陛下から、少なくとも王族の方からのものだということだ。
───私に?
お父様からペーパーナイフを受けとり、封を切る。
「王女殿下からですよ。」
「王女殿下ですか。」
───なるほど。よろしくね、ってことかしら。
無意識に緊張していたらしい。肩からふっと力が抜けるのがわかった。
『リナリア=ハースに送る。』
確かに私に宛てたものである。
『初めて家族以外に宛てて手紙を書きます。とても嬉しいです。春も半ばにさしかかり、私の部屋から見える東の庭にも春の花が綺麗に咲いています。花が盛りを過ぎる前にリナリアも見てくれたらいいなと思います。』
私よりもひとつ年下ということだけれど、ずいぶん可愛いらしい方のようだ。
『お父様にリナリアの話をしたら、侍女として迎えようと言われました。私としては、友人として迎えるつもりです。』
───友人?友人のような侍女を求めてらっしゃるの?
差出人の名前は、
『エリュカミラ=ディリア=ロギュー』。
その後にもうすこし文が続いている。
『侍女とかなんとか考えなくていいから、とりあえず城に来てよ。リナリアに見せたいものがたくさんあるの。夏には竜騎士の選抜があるし。約束通り、返事は使いの人にあずけてね。楽しみにしてる。』
「・・・」
絶句。驚きすぎて言葉がでない。先ほどのお父様と同じ反応である。やはり私たちは親子だったみたい。
───リュカ。
───リュカ。リュカ。リュカ。
───エリュカミラ!
使いの人に返事を渡すとか、そんな約束をしたのはリュカだけだ。王女殿下とか遠い人過ぎて名前で認識していなかった。王女殿下は王女殿下。エリュカミラ様という名前を知らなかったわけじゃないけど、愛称なんて気づけない。
「うわぁ。」
思わず左手を額にあてて俯いた私の右手から、お母様がすっと便箋を抜き取る。
「あら、エリュカミラ様からね。」
リュカ、もといエリュカミラ様はカートレナ公爵家と親戚だっておっしゃったけど、前カートレナ公爵の、ルグラ伯爵家に婿入りした弟の娘、つまり現カートレナ公爵の従妹で現ルグラ伯爵の妹であるレミラ様が王妃様な訳だから──とにかく、親戚だってのは間違いじゃない。
───間違いじゃないんですけれど。
何やら騙された気がする。
「あら、あなたお話したことがあるの?約束って何かしら?」
お母様がきょとんとしている。
「驚くのも当たり前ですよね。私も今驚いてます。」
手紙がお父様に回って、お父様がまたもや固まった。
「成人パーティーでお話した女の子、エリュカミラ様だったみたいです。」
「あら。」
それからお母様は少しばかり冷めたであろう紅茶の入ったティーカップを摘み、自分の指先を見つめ、固まったままのお父様にも、生真面目に背筋を伸ばしたまま私達が手紙を読み切るのを待っているコーエンさんにも、もちろん頭がこんがらがっている私にだって目もくれず言い放った。
「行けばいいじゃない。」
それから微笑む。やはりお母様は生粋のお嬢様である。その笑みには有無を言わさぬ何かがある。
「素敵な出会いがあるかもしれないわ。」
何やらずるずるやっております。ごめんなさい。
未だに家を出ておりません!
どっからが大事でどっからがカットすべき情報か、
私には判断がつかないのです!
み、見捨てないで下さい。( ; _ ; )
そろそろお城に向かいますよ。