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王都からしばらくの間、馬車に揺られて昼時を過ぎた頃に約束のレストランに到着した。
やっぱりこのレストランも石造りで、床にはひと繋がりの薄紫の絨毯。席は四角のテーブルでテーブル同士の間隔がゆったりととられている。白いテーブルクロス下の重ね布や、石壁にかけられた飾り布地は、一枚一枚が鮮やかなそれぞれ別の色で、でも店全体を見通した時妙な統一感を感じる。
それぞれ主張の強い色を使いながらどれだけまとめあげるかというのは重要な問題であって、そのへんを見事に仕立てあげているこの店はそれだけで、良い店だろうという期待を料理に対しても持たせる。
王都の中心部からは外れた場所にあるけれど、王都の住人たちのちょっと贅沢な祝いの席だったり、貴族のご婦人達の集まりだったり、時には王族までもがこっそりやってくるそうな。
───今日は私のお祝いってことね!
予約の確認をして、通された席には半年ぶりに見るアルスの姿があった。
~・~・~・~・~・~
「あー。それで、お母様すねちゃってるんだねぇ。」
見た目はお母様そっくりだけれど、中身はお父様寄りっぽくておっとりしたアルスが私の右側で『納得した』とばかりにうなづいている。
「アルス、別にお母様は拗ねてるんじゃないのよ?なんていうか、がっかりしちゃって。」
───どっちも同じことだと思うわ。
そう口には出さずに、黙々と食べたことのない味のソースが絡んだ平たい麺のようなものをつつく。
「リナリアってば、大広間に入ったと思ったら、二時間も一人の女の子と話してたんですって。」
お母様はしょげたような様子のまま、お酒の入った木製のゴブレットを傾ける。
木製とは言っても木目も美しい品のある作りだ。
「まぁ、別に今日が全てじゃないんだしさぁ。」
「えぇ、まぁねぇ。でも、折角自由にできるのよ、リナリアは。」
───あぁ、お母様は本当に苦労されたんだわ。
今では忘れがちだが、元々お母様は結婚ひとつとっても自由にはならない家の人だった。一番苦労のあったはずの時期のことを私とアルスには頑なに聞かせたがらないけれど、きっと、相当苦しんだはずなんだ。・・・それはもう、ディリア中に知れ渡るくらい。
とにかく、そんなこんなで私に対して自由を無駄にしないようにと望むのは全く理解出来ないことではなかった。アルスですら、子爵家の名を負うからには、お父様とお母様が直接そんなふうに言うことはなくったって、自然と、結婚相手に対する理想の形が枷になる日がやって来るだろう。
───とはいったって、お父様とお母様が結婚相手についてとやかく言うことはないわね。
その時は、私が婿養子でもなんでも取ればいい。
「ええ、お母様。自由ってとても素敵なことよね。いつか縁があれば、とは思うのよ。」
「リナリアぁ。」
ふわりと微笑んだお母様を、お父様は優しく見つめていた。