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淡い緑の煌めく鱗  作者: 糸許 灯祈
15歳と人生の転機
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藍色の髪の女性が、案内に付こうとするのを断って、来た道を戻っていくことにした。


そろそろ昼食時だけれど、大広間の中にはまだまだ人がたくさんいて、端の長机に用意されたお菓子をつまみながら話している。


───お菓子・・・。


お菓子が気になるけれどこの後は王都のちょっといいレストランで昼食だ。今日は特に、ドレスの作りがぴったりしていて、私はコルセットを締めあげるタイプではないけれど余裕があるとは言えない状況である。


後ろ髪を引かれる思いでどうにか外の広場に抜けると、東屋のテーブルには人が増えていらっしゃる。


そして、その中心には。お母様がいらっしゃった。


───お母様自身随分楽しまれたようで。


円形のテーブルにお母様と同年代から、おそらく私と同じく今日が成人の少女まで8人。お母様の隣には、お父様が無言で微笑んでいる。


私が近づくのに気づいたお父様が、助けを求めるような視線をよこした。ような気がする。


「ごきげんよう、皆様。」


───とりあえず、最初は挨拶しなくてはね。


「あら、リナリア!おかえりなさい。」


「『リナリア』?あら、ウィンデリア様のお嬢さんですの?」


「お父様に似てらっしゃるのねぇ!」


「ほんとに!」


「春らしい若葉色のドレスですわね。」


「今日が成人でしょう?うちの息子も一緒なのよ。」


「うちの娘は、ほらそちらの青いドレスの子ですの。」


「リナリア様、私は同じ年です。初めまして。」


「え、ええ。初めまして。リナリアです。」


母の言葉を皮切りに、同じテーブルの女性達が賑やかになったけれど、その速度に圧倒されてしどろもどろになる。ちなみに『ウィンデリア』はお母様のことだ。『アルダネス』がお父様。


「ウィディ。リナリアが戻ったことだし、そろそろアルスと約束した時間だろう?」


お父様が上着の内ポケットから懐中時計を引き出す。


「そうだったわ。名残惜しいですけれど、息子の顔をみておきませんと。失礼しますわ。」


お母様がドレスをつまんで優雅に一礼して見せると、女性達からは快く送り出された。さり際に、給仕の男性に片付けを頼むことも忘れない。


陽が出てきたからか、外の大広場の人は結構減っていて、すんなり王城をあとにすることが出来た。


時間に合わせて外に待っていてくれた御者さん(ラソット家より派遣)に挨拶して、馬車に乗り込む。


ちなみに、囲い込む壁を持たない王都の中心よりやや西北に位置する王城は、これまた城壁というものを持たない。立派な飾り門番を三つばかり設けているが、肝心の城壁の代わりに大人の男の背よりもすこし高い緑の生垣があるだけ。


しかしながら、この生垣侮ってはいけない。王都を囲む不思議な木と同様に、年中緑を絶やさず、火に燃えない。切れない。引っこ抜こうにも根の終わりが見つからない。これもまた、竜の加護だと言われていて、けれども実際火をつけて試してみるわけにもいかなくて、私をうずうずさせる竜にまつわる謎のひとつなのだ。


「それで、リナリア。素敵な出会いはあったの?」


今朝家を出た時と同じく、向かいに座るお母様が意味ありげに目を合わせてくる。


「あったのよ!」


「え。リナリア・・・」


「あら!あらあらあら、よくやったわねぇ。」


しゅんとしてしまったお父様とは対称的に、お母様がはしゃぎだす。


「それで?どんな子なのかしら?」


「蜂蜜みたいな明るい茶色の髪で、」


「蜂蜜色ねぇ。」


「晴れた日みたいな、お母様より薄い青の目の、」


「の?」


「女の子よ!」


「騙されたわ。」


やれやれ、といった感じで片手を額にやるお母様。何故か、お父様が隣で深いため息をついた。


馬車は王都の整備された石畳を、規則正しい音を立てて進む。


すっかり静かになってしまった両親を横目に、灰色の石畳、灰色の石造りと木造が入り交じった建物、その間を割って伸びる蔓草、何やら全体的に白っぽい街並みを眺める。


王都、というよりディリアのほとんどの街では、建物が同じような作りをしていて白っぽくて色のない街に反するように、人々の着る服や、その他の家具なんかの布地は様々な色に染まっている。流行りの色なんてものはない。むしろ、それぞれがそれぞれの好きな色の服を着てくれなくてはつまらないのだ。


昔から、そんな訳でディリアの染色技術は他所の国々より優れているらしい。


近年竜騎士を通じてやりとりのある国からも、染色料になる鉱物やら植物やらが持ち込まれ、ディリアの『色』はますます活気づいている。


今日の様々な色合いの緑を重ねたドレスも、ディリアの技術の活きる作品だ。


───アルスは元気かなぁ。


外を行き交う人々の服も春の日の陽射しに相応しい、華やかな色だった。




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