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淡い緑の煌めく鱗  作者: 糸許 灯祈
15歳と人生の転機
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結果から言えば、何の問題もなかった。


藍色の髪の女性に連れられて、たどり着いたのは今日のパーティー参加者の小部屋のうちのひとつ。大広間を横切って抜けた後、長い廊下を随分すすんで、奥まったところの部屋を与えられているからには、──王城の奥へ進むほど王族に近づくことを意味するのだ──なかなか高位の貴族と縁のあるお嬢様のようだ。


正直『リュカ』という名に聞き覚えが全くないのだけれど、私の知識なんてのは大まかな貴族の家名と、その跡継ぎ息子の名前までがせいぜいだから、怪しいのかなんなのか判別できない。


そんなこんなで通された部屋の中には、陶器のような肌、可愛らしく毛先のカールした蜂蜜色の髪に、空色の明るい碧眼の女の子。


彼女はゆったりと、椅子に腰掛けたまま興味津々といった感じで私をみつめる。突然の美少女にあっけに取られている間に、案内人だった藍色の髪の女性によってお茶の支度が整えられた。


「わざわざ、来てくれてありがとう!」


『リュカ』と思しき女の子が笑みを見せる。無邪気なようなその仕草に、どことなく気品があって、やはりどこぞの高貴な家のお嬢様だろうと感じさせる。


「初めまして、ハース子爵家のリナリアです。リュカ様、ですよね?」


「よろしくね、リナリア。そうそう、リュカって呼んでちょうだい。」


そんなやりとりから始まって、互いの持つ竜の姿の理想像を語り合った。私の読んだ絵本や聞いた歌なんかも引き合いにだして、鱗はやっぱり硬いんだろうとか、王城の大広間の扉の彫刻は理想そのものだとか、取り留めのないことを話した。私が、5際の時に見た小さな竜に拘っていることは、もうしばらく自分だけの秘密として抱えていたくて教えなかったけれど。淡い緑色の竜を見たことがあるかと聞けば、毎年竜を見るけれどどの年も黒っぽいやつだと返された。


かれこれ、出された紅茶を6杯。よく口を動かしてのどが渇いたとはいったって、一時間以上はしゃべりつづけたはず。お茶を入れ直す以外の時間ずっと柔らかい表情でリュカを見守る、藍色の髪の女性を見やる。あのひとに、声をかけられたんだった。


───これは、これでいい出会いだったなぁ。


大抵の貴族男子と違って、学校に出ることのない私達には友人になる人と出会う機会がとても少ない。竜が好きだというなら、なおさら今回限りの付き合いにはしたくない。


───ぜひぜひ、手紙の送り先を聞かなくちゃ。


「いまさらだけどリュカ、家名は?」


「あーっ。」


途端に眉にしわを寄せて、苦いものを飲み込んだような顔をするリュカ。


「ごめん、聞いちゃダメだった?」


「いやぁ・・・。」


「いいえ、大丈夫ですよ。リナリア様。」


口ごもるリュカのあとにつづけた藍色の髪の女性は、扉近くの椅子から立ち上がると赤いひざ掛けを手にしてリュカに近づく。


「リュカ様は、カーレトナ公爵家の縁者の方です。今日はその縁あって王城のパーティーに参加されましたが、もともと体の弱いかたですので、気の合いそうな方をこのお部屋にお招きする形を取らせていただきました。」


そう言いながらそっと、ひざ掛けをリュカにかける。カートレナ公爵家と言えば、お母様の実家と同じ『ディリアの10柱』と呼ばれる名門貴族のひとつ。でも、リュカ自身がカートレナ公爵家の出身でないなら、私も仲良くするのに慎重になったりしなくてもいいだろう。


「そう!そうなのよ。私のお母様がカートレナの親戚なの。そういうことよ。」


国営郵便局を使う時は、王都内あるいは名の通った家に宛てる手紙なら家名やら通りの名前なんかを添えれば届くけれど、地方への手紙は土地の名を記すとその土地の領主や村長たちの家に届けられる仕組みだ。


「リュカに手紙を送るなら、どこの地名を書けばいいの?」


「手紙!」


リュカの顔が綻ぶ。はじめに見せた笑顔とは違って年相応の、というよりむしろ子供っぽいそれに見えた。


「手紙をくれるのね。心配しないで。リナリアの家はあのハース子爵家でしょう?」


「ええ。」


子爵家とは言っても、領地を持たない我が家は本来なら土地に宛てた手紙しか届かないはずだけれど、お父様とお母様の若かりし日の恋愛譚が一時期世間に広まった影響だとかで有名になったそうで、ハースの家名宛の手紙が直接届く。中には恋愛相談的な手紙も届く。お母様が嬉々として返事を書く。


この部屋に入ってすぐ名乗った時、ハースの名に反応がなかったのはリュカなりの気づかいだったらしい。やはり、親の代の出来事も伝えられてしまっているのか・・・。


「私が、リナリアの家に手紙をだすから!届けに来た人にそのまま返事を渡すといいわ。」


「それは、リュカの家からの使者さんが来るんですか?」


「ええ。ちょうどいいから、いいのよ。」


何がちょうどよかったのかは謎のまま、私はリュカと手紙のやり取りをする事を約束して、部屋をあとにする。


「絶対だからね、リナリア。」


これまでの友人は家同士の集まりの中で少々よそよそしい付き合いをしてきたけれど、リュカを初めて家やその関係の外にできた友人と呼ぶのは私の勝手な思い込みではないと信じたい。


儚げな容姿に反して、はきはき話すリュカ。


───素敵な出会いとやらは、これで充分です、お母様。




1人でも、呼んで下さる方がいらっしゃるならば、

私はきっと完結してみせるのです!(*`・ω・)ゞ


安心してください、方向性は決まってますよ!


ではでは、ありがとうございます。



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