2、バカアニの時間
私の目の当たりにしたものはいつものみんなでは無かった。張り詰めた空気が漂っている。いかにも修羅場というやつだ。いつもなら、「送れるなんて、男でも出来たのか?」と冗談で聞いてくるはずの松田の表情はそんな愉快な感じを微塵も感じさせない顔をしている。
「それじゃあ」
そう呟いたのは、馬鹿兄だった。いつも来ないくせに今日は来ている。なんのようなのか気になったがその答えを問い詰める前に松田が口を動かした。
「本当に退部するんだな」
私はその言葉に驚いた。このことから、馬鹿兄が生徒会が忙しいとか言って退部を伝えにきたといった所だろう。しかし、この部活は五人しか居ない。もしも、一人でも抜けたのならどうなるかは明白だ。
「お前に抜けられると部は人数不足で休部になるんだが…」
松田がその先を言おうとすると、馬鹿兄が先に口をはさんだ。
「来年に一年を捕まえればいいだろ」
松田が止めようとするが、後ろから結崎が止めた。馬鹿兄はやり遂げたといわんばかりの顔をして去っていく。
「ちょっと!」
私はとっさに兄を両手でふさいだ。馬鹿兄はため息ををする。そして、私の方を向くと
「パフェ奢ってやるから…」
パフェ!?そ…それは、反則…。いちごパフェがいいかな~、チョコパフェがいいかな~…。
“バタン!”
その音はドアが勢いよく閉まる音だった。騙された…。パフェの誘惑に負けるなんて~!私はあまりにもパフェのことを考えすぎて、クソ兄を逃してしまった。
「ドンマイ」
私は松田に肩をポンと叩かれた。あんなクソ兄貴に負けるなんて…。悔しさがこみ上げてくる。本当に嫌な兄である。
「少しはあいつを信じてよろうか」
結崎がボソッとそんなことを言った。一体、どういう意味で言ったのかはよく分からない。
「あいつ本気かよ!ったく!」
松田は少し怒りを感じているらしく壁を蹴った。
「先輩…少し落ち着いて…」
真衣ちゃんが松田を言い聞かせる。松田は少しため息をつくといつもの調子に戻った。
「部活始めようぜ!」
さっきまでの緊張は解けていて、いつも通りに戻っていた。いつもらしく、天文部のくせに天文観測はせずにゲームか会話をしているだけだったが。