1、ウワサの時間
私の名前は一条加奈。自分で言うのも何だけどスポーツ万能、成績優秀で美人。おまけに心も広い優しい人らしい。
それもそのはず、本当は違うからである。
「もっとまともなもの作れないの?」
「文句言うなら食べるな!」
私の家は両親ともに仕事でいつも居ない。そのためにすごく困っている。別に、家事などで困っているわけでも、お金で困っている分けでもない。
それならどうして困っているのかは、人には相談も出来ない。それは、毎日兄と喧嘩していることである。兄のことはゴミとしか思っていないし、私以上のねこをかぶっていると思っている。これが、我が校の生徒会長なのだと思うと信じられないことである。一日に三回以上は兄の名前がクラスの子の話に出てくる。一体、こいつのどこがいいのやらと思う。
しかし、最近になって喧嘩をしているのが疲れると感じ始めた。思い返してみると、小さい頃に兄が私がデパートで貰った風船を壊されたことが原因だった気がする。いま思うと、とてつもなくくだらないことであることは明白だ。
それでも、私は兄に喧嘩をふっかける。慣れると逆に辞める方が難しい。それにしても、今日も暑いものだ。まだ三月なのに二十八度まで行っている。平年は二十六度くらいなのに。
「おはよう!加奈ちゃん!」
「おはよう」
「おはよう!」
私も「おはよう」とあいさつを返す。私は性格がアレでも何でも出来る人間だ。それは、自分でも自覚している。本気になればの話なんだけど…。
「おはよう!昨日のお兄さんとの白熱バトルもすごかったね」
ナンテコトイッテルノ!その声の主は、家が隣で、本当の私を知る、私の親友の池村葉月だ。私はとっさに葉月ちゃんを睨む。
(学校でそんなことを言うな!)
私は小声で葉月ちゃんに言うと、葉月ちゃんは分かってくれたらしく、片手を前に出して小声で「ごめん」と言う。
葉月ちゃんは私が小学校六年で転校して以来、同じ小・中・高と一緒の学校に通っている。今は一年の最後なのに、こんなことでイメージ崩してたまるか!っと言うのが本音である。
「お兄さんって誠さんのコトでしょ?」
「誠さんの話?私も混ぜて~!」
何で兄の名前が出るとこんなにも人が集まるのか、不思議でならない。ファンクラブまであるのはとても皮肉だ。私にだってファンクラブ的なものは一応あるが、ただの集まりでしかない。これも兄のせいであると私は感じている。皮肉にも兄は来年も生徒会長をやるのだ。最近、部活にもこれないし忙しいのだろう。
「白熱バトルってなに?」
一人が先ほど葉月ちゃんが言った言葉を聞き逃さなかったらしくそのことについて聞いてきた。葉月ちゃんのおかげで手間が増える。
「お兄ちゃんがゲーム好きで、よく分からないのに付き合わされちゃったんだ。」
本当は私がFPSで馬鹿兄と対戦していたのだが…ま、どうでもいっか。
「誠さんはゲームをしているんだって」
「本当?何のゲーム?」
「ライトン教授だって!」
「推理ゲームだよな?昔流行った奴」
「俺、家にアルからやってみよう」
「私は買ってこようかな」
どうして兄の噂は瞬く間にクラス内に広まるか?ライトン教授って古すぎだし、私はそんなこと言っていないのだが…。噂を聞きつけたのか他のクラスの子が教室前で話している。このようすだと、今日中には学校内に知れ渡るだろう。私はノンキにその様子を見ていた。
私の予想は外れたが、面白いことに噂は数時間で学校内に知れ渡った。どうせなら、アダルトゲームが好きなんだってとかにすればよかったけど、実の兄のそんな噂は私にも影響が及びそうなのでさすがにやめておいた。
私は教室を出ると、階段を上がった。葉月ちゃんは先に行っているはずだ。私は少し早足で階段を登った。扉が見えてきた。みんなの部室。天文部の部室だ。
私は屋上へ行く扉を開けた。




