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短編・エッセイらしきもの

モノクロカラフル

作者: 本谷文途

遅すぎな、バレンタインネタです(^^;)

「何で逃げるの──っ?!」

「だってっ──!!」

 

 追いかけてくるからっ──!


 私は今、逃げています。想いを寄せている(はた)くんから──


         *


 旗くんとは、高校一年の時に出会いました。

 明るくて、人懐っこい性格で、人見知りしやすい私にも、フレンドリーに接してくれて……、いつの間にか、目で追うようになりました。


 でも私は意気地なしで、旗くんに自分から話しに行くことは出来ず、話すとしても、挨拶を交わして二言(ふたこと)三言(みこと)話すぐらい──。


 「天気いいね」、「そうだね」、「でも今日の放課後は雨らしいから、早めに帰らなきゃだよ」、「そうなの? じゃあ早めに帰るようにするね」……なんて。おばちゃんみたいな会話。あ、おばちゃんに失礼かな……? すいません……。


 話を戻して。で、そんな会話をする事しか出来なかった一年……。やっぱりチョコは渡せませんでした。

 意気地ないにもほどがありますよね……、はい。わかってるんです。


 そして二年になり、旗くんとはクラスが離れてしまいました。

 どれだけ運命を恨んだことか……っ!


 いつもクラスのどこかしらにいた旗くんは、もういません。

 カラフルだった世界は、私の中でモノクロになりました。

 実際には何も変わってないんですが……。

 それでも、旗くんを見ていたあの時は、カラフルだったのです。言葉では言い表せないけれど……。

 

 廊下で旗くんを見つけると、そこから色が付いたようにカラフルに見えたし、その日はなんとなく気分も良くなりました。

 見つけられなかった日は、気分が沈んだりして……。


 それから時は流れ、不思議なことに、旗くんへの想いは膨らむ一方でした。

 学校で見かけられないほど、私の想いは募っていったのです。私って結構、遠距離恋愛出来ちゃうかも……? あ、クラスと比べちゃだめか──。


 ……それでバレンタイン、友だちが先輩にチョコを「渡す!」と言うので、私も頑張ってみることにしました。


 ちなみに友だちが好きな先輩は、女子からの人気がとてつもなく、友だちから「渡す!」と聞かされた時は、やりよるな……と思ったものです。


 さて、話をまた戻して……。

 作りました。はい。手作りです。作るのが簡単と言われる、生チョコを。

 相手のことを考えて作れば、楽しいものですね。余分に作りすぎたので、形が悪い物はお父さんにあげました。

 お父さんはたいそう喜んでくれたので、逆に申し訳なくなりました……。ごめんなさい、お父さん──。


 ……で、今日。

 私は放課後、ひっそり下駄箱に入れようと思っていました。

 休み時間に旗くんを呼び出して、手渡し──なんてことは、人見知りの私には到底出来ません。皆の視線が痛いし怖いし、恥ずかしいし……。なので、それを難なく行う同性の皆さんには、盛大な拍手をおくります。

 

 とりあえず私は、放課後までいつものように過ごしました。

 友だちと会話して、授業を受け、お昼を食べ、授業を受け……。

 そして放課後、私は決行したのです。


 周りに人がいないのを確認し、旗くんの下駄箱を開けました──なぜ知ってるのか……って? 旗くんと同じクラスの友だちに聞いたからです。もつべきものは友ですね──そこには、きれいに揃えられた運動靴が置いてありました。

 その端に、私はチョコを置こうと手を伸ばしました。

 でもそこで、私はためらってしまったのです……。


 下駄箱に食べ物を入れていいのだろうか……、気分悪いと思われないだろうか……、と。

 それがいけなかったのでしょう。ちょうど帰ろうと下駄箱に来た旗くんに、見られてしまったのです。


 旗くんは少しの間私と自分の下駄箱とを見比べてから、口を開きました。


「……えっ、と……なに?」


 私はチョコを下駄箱にぽいっと投げ入れてからフタを閉め、


「ぁ、いや、そのっ──ごめんなさいっ」


 ……駆け出しました。

 後ろは振り返りませんでした。というか、振り返れませんでした……。


         *


 で、今に至ります……。


「ちょっ、と! 待っ、て!」

「む、りっ……ですっ──!」


 なぜか旗くんは、あの後追いかけてきたのです。

 私も旗くんも結構走っているので、二人して息が上がっています。


「と、まれって──っ!!」

「っ──はい……っ……」


 旗くんの怒ったような声で、私は走るのをやめました。肩で息をして、呼吸を整えます。


「やっ……と、止まった……はぁ──」


 少し後ろで、旗くんが止まったのがわかりました。


 旗くんは怒っているのでしょうか……下駄箱を勝手に開けられ、チョコを入れられたら……。


「……はぁ、よし。戻った──船田(せんだ)も大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫……」


 向き直って、私は答えました。

 こんな時でも、旗くんは気遣ってくれます。優しいです……。

 あと、苗字を覚えていてくれたことが嬉しいです……。


「……あのさ、回りくどいのは苦手だから、単刀直入に聞くけど……」


 来る──!

 下を向いて、ぎゅっと目を閉じる。


「何で逃げるの? すっげー疲れたじゃん」


 ……そっち?

 旗くんは、ちょっとズレてるのかもしれません……。


「船田も疲れたでしょ」

「……うん、そうだね」


 旗くんを見ると苦笑いだったけど、笑顔になって言いました。


「あれさ、本命?」

「……え?」

「チョコだよ、チョコ。俺にくれたやつ」

「……えっ、と……」


 今か──!

 さっきそれ聞いてくるのでは?!

 

「……でも、嫌いだったら入れないよね──それも手作りぽかったし……。ね……?」


 と旗くんは頬を人差し指で掻きながら、私を見てきます……。

 なので私は、勇気を振り絞って、


「ほ……、本命、です……」


 と言いながら、(うつむ)きました……。


 ……自分でも、よく頑張った方です。

 人見知りで、自分からは話すことが出来ない私が、チョコを作って、どんな形であれ、渡せたのですから。

 家に帰ったら、ほめてあげよう──。


「船田──」


 泣く覚悟は、出来ています。

 ぎゅっとスカートを握りしめて、旗くんの言葉を待ちます……。


「……ありがとう。ちゃんと、受けとったよ」

「……ぇ──」


 待ち受けていたのは、断りの言葉ではなく、優しい言葉でした。

 自然と顔があがって、スカートを握る手が緩みます……。

 旗くんを見ると、顔を少し赤く染めていました──。


「俺と、付き合ってください」


 そう恥ずかしそうに笑って、私に手を差し出しました。

 私は、それが夢じゃないことを確認するために、その手に手を伸ばして──。


「っ、はい……!」


 ちゃんと、感覚がある……。

 夢じゃない──。


 

 ──モノクロの世界は、今、またカラフルになる──





よければ他のも読んでってください(^^)


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、読ませていただきました。 良かったです。にやにやしながら、かわいいなあ、と思いつつ、どうなるの? と最後まで読みました。 また、お邪魔させて下さい。ありがとうございました。
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