第四話「折角だから海外旅行と洒落込もう」
お待たせいたしました。
ちょっと時間と仕事云々で色々とヤバイので短めです。
,<<フィールド:赤緑青海 現在地:ザドゥルオウス教団本部・ザドゥルオウスの間>>
右を見ても自分、左を見ても自分、上を見ても自分だらけ。
流石に落ち着かなかったのでメドラに「オールチェンジで」と言って
自分関連のグッズは全部撤去させた。メドラは悲しむかと思ったが
「ホンモノのマスターが私の傍に居る…もうニセモノは不要でス」と、
実にアッサリしていた。
「それにしても流石は700年分…骨が折れる」
デスゲーム以前のゲーム時代に万が一自分が死亡落ちした時の為にと
アイテムストレージと同様の働きをする「アイテムボックス」を置いていたのだが、
そのアイテムボックスを開けてみると尋常じゃない量のモンスター素材が入れっぱなし。
自分が過去に集めたもの+メドラや教団の活動の一環で集められたもの700年分…
ほぼ無限に入るから何十万点あるのか…考えたくも無かった。
せめてもの救いは素材が全てレイドモンスター由来の
魔導文明級以上のレア素材オンリーという点だ。
「サドラスさーん? お茶が入ったんですけど飲みますかー?」
ノックと共にティーセットを乗せたカートを押してロティが入ってくる。
「貰おう」
「はい。じゃあちょっと待ってて下さいね」
ザドゥルオウス教団がメドラの「悲願成就しましたので解散しましょウ」の一言で
事実上の解散をしてから数日…解散の処理は存外大変だった。
いくら教団が新興とはいえ、総教団員数は2000人以上。新参者の教団員は
ある程度のまとまった金を渡してやれば割と素直に元の冒険者家業に戻ったが、
古参連中はサドラスの事を「神」だの「教皇様」だの言い出す連中が居たので
どう説得したものかと悩まされた。
「あれだけ色々なことがあったのに、まだほんの数日なんですよねぇ」
「考えてみればそうだな。王国ホテルで一泊したのもつい数日前だ」
ロティが淹れてくれたお茶を有り難く頂戴するサドラスだったが、
「ぶっほ?! 甘ッ?! お前コレに砂糖を入れたのか!?」
「? はい、入れましたけど? あ、もしかしてミルクも入れれば良かったですか?」
「要らん要らん! 砂糖も要らん!」
「え? それだと苦くて渋くて飲めたものじゃないでしょう…?」
サドラスは痛恨のミスだと思った。考えてみれば現実世界でも緑茶に砂糖を
入れないのは日本とその他一部ぐらいで、「お茶に砂糖」が世界標準なのだ。
「良いんだそれで…その方が身体にも良い…」
「なるほど…あ、そういえば解毒薬の原料にもお茶の葉が…!」
マジか。この世界のお茶っ葉侮れねぇ…!
等と感心したサドラスの元に更なる来客を告げるノック。
「Bonjour! どーよ調子は? …お? …何だお茶か…カフェじゃねえのか…」
「カフェ? …あぁ、珈琲のことですか?」
来客は厳蔵だった。PC名はこんな名前だが現実世界ではフランス人だそうだ。
デスゲーム時代に顔を合わせた時はこんな軽い印象ではなく、
キチンと侍キャラをロールプレイしていたのだが…
「コーヒーならインスタントの備蓄があったはずだが」
「いやいや…ここ一応異世界じゃん? なら豆だろ? 天然モノに拘ろうぜ?」
「気持ちは分からんでもないが…で、何の用だ」
「いや、何かよ…ちょっとマッタリし過ぎじゃね?
まぁお前さんはそれで良いかもしれんが…俺には俺のパーティがあるわけでよ?
んでもって元の世界に帰りたい気持ちがあるわけよ」
「元の世界? え? あの、仰る意味が分かりかねますが…」
「気にするなロティ。下手に考えると頭が痛くなるぞ」
「はぁ、サドラスさんがそう言うなら…」
半端なく甘ったるいお茶を飲み干し、おかわりのストレートティで
気を取り直すように一息つくサドラス。
「その気持ちも分かる…が、帰還の手がかりもヘッタクレも無さそうな
この世界で焦って如何するというのだ?」
「だからその手がかり"っぽい"もんがあるんだよ!」
「"っぽい"ときたか」
「少なくとも俺とC†B†Eメンバー四人+1がコッチに来てる可能性が高いんだよ。
んでその手がかりっ"ぽい"やつが+1の方な」
「何者だ?」
「多分お前さんは会った事無いだろうケドよ、
実はそいつデスゲームに巻き込まれた唯一のGrTrAd運営サイドなんだわ。
あ、PC名【KATUMI】な」
「ほう…」
「【電界皇】のクソヤローのチートスキル云々をどうにかできたのもKATUMIが
運営者権限の一部を奪還できたことが基因の一つだしよ」
「もしそのKATUMIとやらが此処に来ていたら案外神扱いされているかもな」
「無いわーw…あの引きこもり昼寝野朗が神扱いとか…マジ無いわーlol」
何だかんだで気が付けばお茶を相伴している厳蔵。
「多寡が茶と馬鹿にしてたわ…これ抹茶(Matcha)入りか?」
「多分な、濁り方が緑茶にしては濃いからな」
「へー…で、二つ気になったんだが…」
「何だ」
「まず一つな、お前さんのその座ってるの…ララリリルちゃんじゃね?」
「えぇえぇえ?! うわ! ホントだ!
…道理でここ数日間日中に姿を見ないと思ったら…!」
サドラスが座っていたのは椅子は椅子でも
サドラス専用人間椅子一号(!?)のララリリル。
「ふぅー…♪ んふぅー…♪」
彼女はとても幸せそうな顔だ。猿轡を噛まされているのには何の意図があるのだろう。
「うわぁ…何かもう色々とひどいです」
「座り直すたびに色々と煩いので"黙れ"と言ったが、余計口数が増えたのでな」
「流石は日本…アンタイのレベルが違うぜ…」
「アンタイ? 何の事だ?」
「間違えたHENTAIだわ…Hを発音しないのもうクセだな…
俺さぁ初☆ミクを高確率で"アツネ"って言っちゃうんだわ」
「ほう…では弱☆"ハク"なら☆音"アク"か」
「あー…あるある! うわ、もうこれフランスの日本オタ初心者あるあるだわ…」
「ヘンタイ? ☆音ミク? ??」
「知らないほうがいいぞロティ。ヘンタイは心身が癒えると同時に穢れるし
ボー☆ロイドは最終的には歌い出して一時脚光を浴びるも芸能界の深い闇に
飲み込まれるというオチが基本だしな」
「アッハッハッハッ! マジそれ確かに! パネェわ座布団一枚!」
「???」
会話の次元に着いていけないロティを置いていく様に厳蔵は続ける。
「で、二つ目な。お前さんの腰の刀だ」
「この爪弾刹那のことか?」
サドラスは腰に差している刀を持ち上げてみせる。
「これでも俺は刀とか侍とかから日本オタになったからな…
GrTrAdを始めたのもVRで刀ぶん回し放題侍ロールプレイし放題だって
聞いたからだしよ…で、ここ数日の間、たまに此処に上陸してきやがる
レイドモンスター相手にお前さん一回もそいつを使わなかったよな?
折角の専用装備にも関わらずだ。何故なんだよ?」
「あ、それは私も気になりました! 思い返してみれば、サドラスさん
その刀を全然使う気配すら見せませんよね?」
「こいつを使わない理由か…」
サドラスは爪弾刹那を鞘から抜こうとして、手を止めた。
「? 抜かないのか?」
「こいつは俺の最終兵器…いや、バランスブレイカーだからな」
「均衡破壊者…怖い言い回しですね…」
「なるほどな…最終兵器ならそりゃ使えねえわ」
「そういうものなんですか?」
「あのな、ロティちゃん。最終兵器ってのはよ…
"それが駄目ならもう死ぬしか無い"って事なんだぜ?」
「な…なるほど」
ここに来ての厳蔵の真顔の迫力に、ロティは今一度
厳蔵もまたサドラス同様古代よりやってきた歴戦の勇者だと認識したのだった。
<<フィールド:赤緑青海 現在地:ザドゥルオウス教団本部入口>>
サドラス一行はMAPとシルドラント王国製の世界地図を広げていた。
「我々の現在位置はここですね…シルドラント王国は此方です。
ルーンテール神帝国が現在位置から大陸に渡り大きく西へ…
アロフネス皇国はここからは北北東です。ちなみに旧魔族領が北北西。
南南西の向こうはグライデルダムント竜帝国ですね」
サドラスと厳蔵はキュクルの言葉を頼りにMAPにマーカーを付ける。
「私もMAPが使えれバ…マスターの点にマーカーを付けられるのにィ…」
「どのみち動くものにはマーカーは付けられん、諦めろメドラ」
「いえ…マスターのお傍に居られれば別に無くても構いませン」
「あの…だからと言って触手を纏わりつかせるのはどうかと思いますが」
「くっそ…ガチもんのHENTAI触手プレイ三昧かこのサドラスこの野朗!」
握り拳片手にものすごく悔しそうな厳蔵。
「触手プレイ? マスター…触手プレイって何でしょうカ?
…もしかして私はコレを何が何でも知るべきだったりハ…」
「…知ればその時は今度こそ永遠の別れだメドラ」
「!? 絶対に知ろうと致しませン!! マスターに誓って!」
「我が君よ…私にはその触手プレイとやらは…」
「…もし今後関心を持とうなどと考えるならば俺は貴様を永遠に、無視する。
というかパーティ登録も破棄だ。いやそもそもお前と言う存在すら無かったことにする」
「がはぁっ!? …全く、気持ちよくなりえぬ…ッ!?」
「畜生…会話に参加したはずなのにクソすげえ疎外感…!」
物凄く悔しそうに膝をついて地面を叩く厳蔵。
「…あの、他の国家情報とかは宜しいのですかサドラス殿?」
「ふむ…取り敢えずこのくらいでいいだろう…何時まで絶望したフリをしてるんだ厳蔵」
「バレたか」
「えぇぇ…厳蔵さんに同情して何か物凄く損した気分ですよぉ…」
「ねえねえマスター? 結局何処から攻め落とすんですカ?」
「そうだな…」
「いやいや待て待てレベル4ケタのお前さんら二人だと
その会話が割りと本気に聞こえるからマジでやめろや」
「ふ…冗談だ冗談」
「サドラスさんが言うと冗談に聞こえませんってば…」
「マスターが理由も無く国家を滅亡させることなどあり得ませんかラ」
「我が君にとって国家などレイドモンスターと大差は無い」
「まあ実際クエストでディープワンズ族の海底国家を滅ぼした事はあるがな」
「お前さんそれマジで言ってんの?」
「後でポータルの掲示板「タイトル:外海の底がどえらいことになってんだが」を見ろ」
「マジかよ…後でチェックするわ…んで話し戻すんだが、何処から当ってく?」
<<フィールド:ミズガルズ平原 現在地:冒険者ギルド・シルドラント王国支部>>
やいのやいのと賑わっていたギルドカウンターは、サドラス一行の来訪で一気に
賑わいから心臓の鼓動さえ聞こえそうな静かな空間に変わる。
まあギルドの人間以外には頭上の名前が不明の集団が現れたのだから無理も無い。
「ほんの数日目を放した隙に色々目を見張らせてくれるのぅお主は…」
ツヴェルは頭を掻き毟った。
「中々に激動の数日だったからな」
「あの程度で激動とは…マスターってば素敵なジョークですネ♪」
「主に二日目辺りに集約してた気がしますけどねぇ」
「しかしロティ殿。レイド・ユニークモンスターとの戦闘が
ほぼ日常化した点を踏まえればそれはそれで十分激動になるのでは無いのですか?」
「戦鬼の小娘に一理ありえるるかな」
明らかにもう半妖鬼の面影すらない元宮廷魔術師のキュクルでさえ
そんな事を言うのだから『こいつらに関わったら命が幾つあっても足りない』と
他の冒険者達が思ってしまうのも無理は無いだろう。
「で、ワシはお主に何を"教えられる"のかのぅ?」
「ルーンテール神帝国やアロフネス皇国を初めとした各国国家情勢と最新情報だ。
金ならT単位で出す。情報の鮮度次第ではE単位で払っても良い」
―TどころかE単位?!
―おいおいマジかよ…!
―あんなパーティが今まで知られて無いとかおかしいだろ…?
―しっかし女の子みんな可愛い子ばっかだ…あのスキュラなんかもうマジ最高
「そういう話はワシの部屋で言わんかい…全くお主は昔からそうじゃ…
ワシの皮肉もあっさりスルーしよるしのぅ…」
<<フィールド:ミズガルズ平原 現在地:冒険者ギルド・ギルドマスターの部屋>>
部屋に招かれたサドラス一行はそれぞれ適当な位置に座る。ちなみにララリリルは
例によって「どうぞお座りください我が君」と四つんばいになるが、
サドラスは彼女の尻に強烈な平手打ち…いや平手鞭打一発「んほぉぉっぉう!?」
と声を上げてララリリルは幸せそうに悶絶する。
サドラスは何事も無かったかのように空いている席に座った。
「………アレはそのままで良いのかのぅ?」
「気にするな、数分後には復活する」
「………んぐ、んぐ、んぐ…」
ロティは完全回復薬を一気飲みしている。恐らく気付け薬代わりなのだろう。
「ララリリル殿のHPが八分の一程まで減っていますが…本当に大丈夫でしょうか?」
「しかし幸せそうでス…私には理解できませんガ」
「SMかぁ…もし帰れたら俺そっち系のHENTAIビデオ買ってみっかな…」
「………で、何から知りたいんじゃ?」
サドラスの質問に淀みなくツヴェルは答えていく。
「…とまあ、あの二大国と新興国の竜帝国を除けばここ700年で建国した国は
シルドラント同様その殆どが大小様々ではあるが軒並み都市国家じゃ。
故に一山当てようと考える連中は冒険者も商人も殆どがその二大国のどちらかに
嫌でも集中するのぅ」
「マジか。ってことは五分五分のまんまかよ。
つうかスイゲツ達らしきの目撃情報も多すぎて絞り込めねえってのはひどいわ」
「お侍さんのお仲間の外見特徴を持った冒険者連中は意外と多いからの、
本格的に突き止めようとなると…さすがに金だけで解決はできんな。
人材もそうだが大量の時間を必要とするじゃろう」
「ぐぇ…仕様が無ぇ…サドラス。お前さんの判断に任せるわ」
サドラスは1TYD純白金硬貨をトスした。
「表ならアロフネス。裏ならルーンテール。真ん中なら旧魔族領で
割れたらグライデルダムント竜帝国に殴り込みをかける」
「流石に適当すぎじゃないんですかぁ? っていうか後半が物騒すぎですよねぇ?!」
「真ん中…! 真ん中よ来たれ…! 我が故郷に我が死の皇凱旋の夢よ叶え…!」
「コインよ割れるのでス。そして私とマスターによる
竜帝国蹂躙からの…愛の億年神国建国ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲォ…!!」
「半分は天文学的低確率なのに…当たりそうなのが怖いです
と言いますか竜帝国は最低平均Lv400と聞いているのですが…どうかコインが
普通に裏表どちらでも良いので出ますように…!」
そして投げられたコインは…音を立ててテーブルに転がる。
<<フィールド:外海 現在地:世界大海洋・西方海域>>
魔導鉄甲船は西へ西へと迷う素振りを見せることなく進んでいく。
「ルーンテール神帝国ですかぁ…『創世神衆教』の総本山なんですよねぇ…」
「『神聖教会連盟』常任理事国でもありますね…世界一のロストスキル保有国でもあり、
単純戦力総数は最大です。正面からぶつかって勝てるのはあの竜帝国以外無いでしょう」
「それはそれで何かトラブッたら地味に怖い話じゃねえかよ…」
「ふむ…異世界諸国漫遊…悪くない」
厳蔵の心配をよそに船の先端でどこぞの麦わら海賊船長の如く
座っているサドラスはどこ吹く風だ…
第五話に続く
本当はもう少し進んでから区切りたかったのですが…
流石に寝ないで早朝勤務はキツイのでこの辺にして寝ます。
次回更新は帰ってきてからすぐできるかもしれません。